25 リナリがいない日
翌日、チュチュが遅く食堂へ行くと、予想外なことに、メンテが一人、まだ朝食を取っていた。
チュチュは、お茶を淹れ、パンを取り、ハムとチーズで簡単に朝食を仕立てると、いつも通り、自分の席へ座った。
「おはよう」
声をかけると、いつも通りのすました顔で、「おはよう」と返ってきた。
それ以上話すこともなくて、黙って朝食を食べ始める。
……メンテがこんなに寂しがるとは思わなかった。
双子はいつも朝が早かった。
誰よりも早くしっかりした朝食を作り、みんなが起きてくる頃には、すでに食後のコーヒーを飲んでいた。
双子のうちでも、メンテの方がしっかりしているから、リナリが居なくなってもあまり変わらないだろうと思っていた。
けど、急にこんなに寂しそうな感じになってしまうなんて。
双子はどうやら、お互いに支え合っていたようだ。
食後のコーヒーに差し掛かると、メンテは少し、呆けた顔をした。
その顔が見てはいけないもののような気がして、チュチュは自然と目を逸らす。
シエロがリナリを送りにいったから、今日からしばらくは授業も4人だけだ。
黒板の前で、国王と貴族について解説しているヴァルを3人で眺めるけれど、どうしても授業には身が入らない。
左に座るエマも、右に座るメンテもそのようだから、もうそういうものなんだろう。
余りにも3人ともぼんやりしているので、呆れたヴァルが、後半は授業を中断し、戦闘訓練にしたくらいだった。
夜。
いつものようにエマの部屋。
テーブルにいつも通り、お茶とクッキーを用意してエマと向かい合ってみたけれど、
「……………」
二人とも沈黙してしまう。
耐えきれず、チュチュが勢いよく立ち上がった。
「アタシ、メンテ呼んでくる!」
エマの返事も待たずに、部屋を飛び出した。
だってきっとメンテも、寂しくしてるに違いないから。
トントン。
メンテの部屋の扉を叩くと、メンテはすぐに扉を開けた。
いつも通りのすました顔で、チュチュを見下ろす。
「どうしたの、チュチュ」
「今、エマと二人でお茶してるんだけど、一緒にお茶しよう?」
言うと、メンテが困ったような優しい顔を見せる。
「ありがとう。けど、気遣わなくて大丈夫だよ。エマの部屋に入ったなんてヴァルにバレたら、殺されるかもしれないし」
「あ~~~……、ヴァルも誘おうかなぁ」
けれど、結果的にヴァルを誘う必要はなかった。
複雑な表情をしたヴァルが、すでにチュチュの後ろに立っていたからだ。
「うっわぁ!ヴァル!!」なんて叫ぶチュチュには目もくれず、
「行くか」
と、メンテに向かって笑いかけた。
「うん」
メンテが困った顔のまま、ヴァルに返事をする。
その夜は、4人でのんびりとした時間を過ごした。
誰も口に出さなかったけれど、みんな、ここにリナリが居てくれたらと思っているようだった。
ただ、チュチュだけが、沈黙が訪れた時、一度、口を尖らせた。
曇り空の夜は更けていく。
のんびりするしかなくなってしまった日。
次回からは、チュチュとシエロのターンです!