24 リナリの旅立ち
時間はあっという間だ。
リナリへ届いた図書館からの勧誘の返事を持って、シエロが一人、馬で王都へ向かったが、帰ってきたときにはすでに図書館からの正式な雇用書類を持っていた。
その日の授業を始める前、シエロがリナリに書簡を渡す。
「これ、君に」
くるくると巻かれた上質な分厚い紙の上には、リボンが巻かれ、蝋で封がされている。
押された印は、王室図書館による正式な文章だという証明だ。
「あ、ありがとうございます」
広げると、リナリの周りにみんなが集まってきた。
「1ヶ月の予定で、いつでも、来ていいって」
「ああ。だから、1週間後出発の予定で打ち合わせて来たよ」
「そっかぁ」
少し、寂しい空気が流れる。
とりあえず1ヶ月。とはいえ、それが終われば、戻ってくるわけでもないだろう。
何度か行って、正式に司書として図書館に入れば、もう学園にもなかなか戻ってはこられない。
チュチュとエマが自室へ戻る時、チュチュはエマの方にくるりと振り向いた。
「リナリが、憧れの人とお仕事できるのは……いいことだからさ、壮行会とか?お祝いした方がいいのかなって思ったんだけど……」
「けど?」
エマの星空色の瞳が、こちらを向いた。
「お別れ、みたいで、なんか寂しくなっちゃうから……。したくなくなっちゃった」
小さくそう言うと、エマはチュチュの頭を撫でてきた。
「それでいいと思うよ。頑張って欲しいっていう気持ちは届いてるよ」
「そうかな」
結局最後の日まで、いつも通りの日が続いた。
出発の前夜、エマ、チュチュ、リナリの三人は、エマの部屋にいた。
いつも通りの女子会のつもりだったけれど、どうしても寂しい空気が流れる。
テーブルの上には、ドーナツが積んである。
爽やかな香りの紅茶は、ミルクティーにしてマグカップに注いだ。
いつもよりも心なしか豪華なパーティーになった。
いつも通り。
いつも通り。
とりあえず1ヶ月だけなんだから。
自分に言い聞かせながら笑っていたけれど、それも最後までうまくはいかなかった。
下を向いたリナリが、小さな声を出す。
「明日……見送ってね」
その声を聞いて、チュチュはリナリの手を握った。
「もちろん」
エマが、リナリに微笑んだ。
リナリが、少し気弱な顔を上げる。
元気付けようと、チュチュも笑顔を作った。
「いつでもここにいるから。呼んでくれたら行くし」
「そうだよ。どこまででも」
「うん……」
「手紙を書いてくれたら、まず先生が馬で行くから。すぐだよ。心配しないで」
「そのあと、私たちも飛んでいくよ」
「メンテもきっとアタシ達より早く飛んでいくし」
「ヴァルだって、最後にかっこよく登場するよ」
「ふふっ」
「頑張ってね」
「うん……。きっと大丈夫。みんなが居てくれるって思えるから」
その日は、誰もその小さなパーティーを終わりにしようということが出来なくて、そのまま床に寝っ転がって三人で眠ってしまった。
朝が来て、リナリはトランク一つだけを持って、馬車に乗って王都へと向かった。
雲が明るい空に流れて行く。
旅立ちにはもってこいの日だった。
エマちゃんの瞳は夜空の色をしています。
大抵、好奇心でキラキラしているので、学園のみんなは星空の色と呼んでいるようです。