23 いつの間にか、君は男の子だった
「ぬぬぬぬぬぬ」
チュチュは、戸棚に腕を伸ばし、唸っていた。
けれど、目的のものに届かないばかりか、戸棚の目的の棚までも手が届かない。
どう頑張っても、戸棚に張り付くばかりだ。
「どれ?」
「上から2段目の〜、奥の〜、ローズマリーの瓶」
「どうぞ」
チュチュの腕の中に、ローズマリーの瓶が降ってくる。
チュチュは、それを見て、頬を膨らませた。
「チュチュはちっちゃいからしょうがないよ」
「でもメンテに取ってもらうなんて」
振り向くと、ちょっと偉そうなツンとした顔で、メンテがチュチュを見下ろしていた。
「くやしい」
するとメンテが、「フフッ」と嬉しそうに笑う。
「ついこの間まではアタシよりず〜〜〜っとちっちゃかったのに」
「……いつの話してるの。身長超してからかなり経つけど」
お喋りしながら、二人はキッチンへ向き直る。
今日の夕食当番は、チュチュとメンテだ。
「ちっちゃい頃は、可愛かったんだけどなぁ」
「今でもかわいい弟分でしょ」
「かわいくない〜〜〜」
ぷっと頬を膨らませる。
フライパンの中で、鶏肉がパチパチと弾ける。
メンテは、隣で人参のスープを作っている。
そういえば、昔は、双子は料理なんてできなかったんだっけ。
メンテもリナリも成長して、食材も以前よりずっと必要になった。
特にメンテだ。
……男の子だもんね。
小さく寄り添うように学園へやってきた双子と出会って、頼りになるお姉ちゃんで居たいと、そう思い続けてきた。
上手くできているだろうか。
「チュチュは今でも、頼りになるお姉さんだよ」
どうやら、同じことを考えていたようだ。
「それは、光栄だねぇ」
「でも、もう、ぼくも頼りになると思うよ」
頼りに。
そう。料理だって魔術だって、もう一人分の仕事を任せられるくらいには頼りになることを、チュチュはとっくに知っている。
「うん。もちろん。頼りにしてるよ」
「困ったときは、いつだって頼っていいんだ。ぼくなら、いつだってここにいるから」
「うん」
頼りにしている。
もちろん頼りにはしているけど、だからって甘えられる相手ではないから。
メンテの顔を見ることはせずに、じっと焼けていく鶏肉を眺めた。
パチパチと、小さく爆ぜる音だけが聞こえた。
「いつまでも、頑張ってお姉ちゃんでいなくても、いいよ」
「……うん」
そうは簡単に言っても、お姉ちゃん気分がそうそう抜けるわけもない。
それとも、どんどん追い抜かされて、もうお姉ちゃんで居られなくなる日が来るんだろうか。
そうなったら、……寂しくなるだろうか。
「ハーブの棚だって、ぼくならもう届くよ」
「うん。……じゃあそれはお願いしよっかな」
メンテは本編よりも今の方が出番があります!
現在13歳!