22 あの雲みたいに
「ハイ!」
木の上からエマが飛び降りる。
カン!と響く音を立てて、シエロの杖がエマの蹴りを防ぐ。
そこへ、ブン……!と音を立てながら、メンテの蔓に足を結んだチュチュが、黒いナイフをかざし、弧を描いてシエロに向かって行く。
もらった……!
そう思ったのも束の間、シエロはチュチュに気付くと、手に持っていた氷でできた短めの剣で蔓を切って見せた。
チュチュは、バランスを崩すこともないまま、落ちながらシエロめがけ、ナイフを振り下ろす。
杖の遠心力でくるりと一周した杖が、チュチュのナイフを弾き、チュチュは後ろへ飛び退った。
地面に着地……というところで、
「!?」
地面の上に置いてあった何かで足を滑らせる。
何!?ここは何もなかったはず。
先生が何かした!?
思いの外硬く丸いものに足を取られ、チュチュはすてんと地面に転がった。
「何……」
地面を見ると、そこには白いふわふわとした鳥のような生物が居た。
「毛玉……」
見た目通りみんなからすっかり毛玉と呼ばれるそれは、見た目に反してとても硬い。
「こんなところに〜〜〜……」
悔しさを口から吐きながら、立ち上がろうとすると、
「あっ……」
という声と共に冷や汗が出た。
「チュチュ、大丈夫?」
上から降ってきた声に、顔を上げる。
木々の隙間から明るい光が差している。
みんなが息を上げながら、シエロを中心にすっかり脱力してしまっていた。
どうやら、授業の模擬訓練は、いつも通りシエロの圧勝で終わったようだった。
エマが、チュチュに手を差し出す。
「なんか、足、挫いちゃったみたいで」
「えっ」
エマが小さく驚いた声を出すと、みんながぞろぞろと集まってきた。
シエロが、先生らしく座り込んで怪我の様子を確かめる。
「い〜〜〜た〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜〜」
シエロが困ったような笑顔を見せると、エマに杖を渡した。
「これはしょうがないな……。僕が背負っていくよ」
「え……」
そこにいた大半の人間から出た「え……」という言葉の半数は、その非力さで本当に背負えるのか疑問を呈するための「え……」だ。
「いいから」
シエロが背中を出したので、エマとヴァルがチュチュを手伝ってシエロの背中に背負わせた。
「ありがと先生」
「仕方ないからね」
前を行く4人の後ろ姿を眺めながら、シエロがゆっくりと歩く。
その広い背中に身を預けた。
温かさを確認するように、背中に寄りかかる。
いつも一緒にいるけど、これほど近くに居ることはなかなかない。
アタシの中でも、先生はどこか神聖で、近寄りがたいものだと感じる気持ちが少なからずある。
頬が熱い。
「先生……大好き」
何度言っても、言う瞬間に、心がキュッとなるこの言葉。
驚いてくれたのは最初だけで、もうすっかり、反応してくれなくなってしまった。
あからさまに嫌がられてるわけでもないから、言うけど。
こっそり嫌われていたらどうしよう、なんてどうしても思う。
ずっと一緒にいられたらいいのに。
永遠に一緒にいるのが当たり前みたいに。
同じ絵の中に描かれるのが当たり前みたいな。
あの青い空に寄り添う雲みたいに。
さて、チュチュとシエロくんのお話再開です。
うまくいくといいね!うまくいくといいよね!?