18 デートしようよ(2)
「すーはー、すーはー」
朝起きてまずやったのが深呼吸だ。
エマは、鏡の中の自分をチェックする。
いざ、デートのお誘いをしようとすると緊張してしまう。
大丈夫。恋人同士のはず。
待って、こういう時って、“デート”ってはっきりした言葉使った方がいいのかな。
恋人っていう関係だし、さすがにわかってくれるだろうか。
前髪の位置を気にしていたら、朝食に行くのが遅くなってしまう。
少し早足で食堂に入ると、そこに居たのはヴァルだった。
どうやら早起きの双子どころか、チュチュまで朝食を終えてもう行ってしまったらしい。
「おはよ」
「はよ」
今、どうかな。
今。
ヴァルを、デートに、誘う……!
いざ、誘おうとすると、緊張で顔がかああっと熱くなってしまった。
「…………は?」
ヴァルがぎょっとした顔をする。
「うぁ…………」
顔の熱に気付いて、手で隠そうとしたけれど、時すでに遅し。
「あの……っ、違う、の……」
慌てて誤魔化そうとするエマの頭に、ヴァルが隠すように腕を回す。
「…………」
あまりの近さに、心臓が跳ね上がる。
そんなに変な顔、しちゃってたかな。
「お前……、」
一息ついて、ヴァルが静かに言う。
「……他に誰も居ないからよかったけど、……人前でそんな顔するなよ……?」
……そんなに見られたら恥ずかしい顔だったのか……。
ヴァルの顔を見上げると、目が合って、ヴァルが少したじろいだ。
「えっと……ね、ヴァル」
「…………ん?」
「ちょっと、散歩、行かない?」
……いざとなるとうまくいかない。
これじゃきっと言葉が少なくて、ちゃんとデートにならないかも。
「ああ。いつ?」
「…………」
エマが、ヴァルの顔を見つめたまま、きょとんとした。
ヴァルは、そういうところある。
仕事なのか訓練なのかプライベートなのか、目的があるのかないのか、二人きりなのかみんなでなのか、まったく何も聞いてこない。
そもそも、ヴァルが誘う時も仕事なのか訓練なのかプライベートなのかまったく言わずに連れて行かれる。
いつもは別にそれでも困らない。
二人で居られれば、正直、場所も目的もどうだってよかったから。
けど、今日はどうだろう。
待ち合わせとか、したいんだけど。
“散歩”ってはっきり言ったから伝わってるかな。
「じゃあ今日は?」
そう提案されて、つい、「うん」と言ってしまった。
デートっぽく準備期間を作るために明日以降にしようかと思ったのに。
今日二人で居られるという誘惑に打ち勝てなかったのだ。
だって、明日以降だったら、その日まで二人で会えないみたいじゃない。
せっかくこのイケメンを誰にも気兼ねすることなく堪能できるなら、出来るだけ早い方がいいじゃない。
「午後は?」
吐息が髪にかかり、びっくりしてしまう。
……こんなに近かったかな。
顔を隠すために頭覆ってくれたのかと思ったけど。
「うん。今日は、午後は予定はないから、昼食後すぐで大丈夫だよ」
「じゃあ、昼過ぎ、外で」
耳元でヴァルの囁き声がして、エマはいよいよ固まってしまう。
「うん……」
なんとかそう返事をすると、キッチンへ向かい、籠からシナモンロールを取った。
お皿に乗せ、それだけを持ってテーブルにつく。
かぷ、とシナモンロールを数口齧ったところで、食堂に誰もいない事を確かめると、
「何あれ……!何あれ…………!!」
ひたすら恥ずかしがって、テーブルに顔を埋めた。
久々のこの二人がメインのお話です。
毎度お馴染み、ただイチャイチャしてるだけのやつ。