17 デートしようよ(1)
腕組みをして、エマは悩んでいた。
「どうしたの?」
と、チュチュが訊ねる。
「デートがしたいの」
「すれば?」
エマの部屋。
お風呂上がりに、エマ、チュチュ、リナリの三人で夜のお茶会をしていた時の事だった。
目の前には、ホットミルクと、フルーツを盛ったお皿が並んでいる。
「出来たらしてる……」
「ふぅん?」
チュチュがブドウを口に放り込みながら、興味なさげに言う。
「この間も言ってたよね。ヴァル忙しいんだ?」
「じゃなくて」
「ん?」とチュチュとリナリが、やっと少し興味を持ったように、エマの方を向いた。
「してみたいな、って……」
「………………ん?」
「したこと、ないの」
「……そうなの?」
少し驚きの表情で声を上げたのは、リナリだった。
「二人で出かける事はあるけど……。デートするぞー待ち合わせするぞーっていうのは全然」
「ヴァルなら、誘えばひょいひょい付いてくると思うけど」
言いながら、チュチュも考える表情をした。
そうなのだ。
やっと告白をして恋人同士になった。
自然と一緒に居られるようになった。
けど、そこまでだ。
私だって、してみたい。
恋人同士だからこそ出来る、用事もないのに待ち合わせするやつを。
「確かに、ヴァルはカフェって感じでも、ショッピングって感じでもないよね」
あはは、とリナリが無邪気に笑う。
「う〜〜ん。それもそっか。二人で出掛ける時は、どんなところに行くの?」
「えーっと、前はね」
前回、二人で出掛けたの時のことを思い出す。
「森で二人で……」
うんうん、とチュチュとリナリは興味津々だ。
「訓練した」
「訓練……?」
「そう。ジョギングとか。体力作り中心で」
「体力作りと言いつつ、二人っきりなんでしょ?」
「二人っていうか……。置いて行かれちゃうから、ずっとヴァルの姿見えないし。……一人?」
「デートじゃないね……」
リナリの声は少し寂しそうだ。
チュチュは、まさにグッドアイディアを思いついたように明るい顔になった。
「じゃあ、待ち合わせて訓練すれば?」
「……チュチュ、それはデートじゃないよ……」
リナリがやはり、少し寂しそうに言う。
「散歩でいいんじゃない?とりあえず誘ってみたら?」
チュチュがまともな意見を言ったにも関わらず、エマの表情は複雑だ。
「なんて……言おうかな」
緊張、してしまう。
「普通に、『明日散歩行こうよ!』とか『デートしようよ!』とかじゃない?」
チュチュは素っ気ない。
「デート……デートかぁ」
エマは、口の中で、「デート……デート……」と繰り返す。
「『なんで?』とか『用もないのに?』とか言われたらどうしよう」
「大丈夫でしょ。ヴァルだったらどこだって、尻尾振って付いてくるよ」
チュチュに笑い飛ばされる。
「でも、デートの概念は持ってなさそうだよね」
「……そうだね」
三人で肩を落とす。
「けど、だからこそ、エマが言わないと一生デートできないかもよ?」
「だよね……」
う〜〜〜ん、と少し考えてから、エマは両手を握り気合いを入れた。
「そうだね。私から誘ってみるね」
ここからしばらく、前作の主役二人のターン。
番外編的なものを交えつつ、お話を進めたいと思います。