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11 小さな馬車の上

 それから、「これからこちらでも調べてみるよ」という言葉を最後に、ブランカと別れた。


 シエロとチュチュ、二人は学園へ帰る道で馬車に乗っていた。

 御者台に、二人並んで座っていた。


 カポカポと軽快な馬の歩く音が聞こえる。

 空には長閑に、雲が流れる。

 遠くに山が見える、どこまでも平坦な道だった。


「ごめんなさい、先生」

 沈黙を破ったのはチュチュだった。

「…………」

「…………?」


 怒って……る?


 正直なところ、幼い頃に弟子になってから、シエロが本気で怒るのを見たことがない。

 さっきだって、“馬車でお昼寝”なんていう嘘に乗っかってくれた。

 嘘だって分かってるはずなのに。だって、直前に食堂で会ってるんだから。


 まさか、先生が怒るなんて……。


 ひょっこりと隣に座るシエロの顔を覗く。


「…………」


 流し目で見られて、心臓が跳ね上がった。


 怒ってるのにすごい破壊力……!

 心臓が、撃ち抜かれるような気分だ。


「心配したよ」


 その声を聞いて、チュチュの目がうるるるるるると潤んでくる。


「無茶しすぎなんだ。勝手に付いてくるし。どうせ勝手に悪そうな奴に突っかかったんだろう。あのまま連れ去られてたらどうなってたか」


 こちらを向くシエロの顔は、間違いなく怒っている。


 さっきは、ブランカ様が居たから納得したフリをしてくれただけだったんだ……。


 心配させてしまった。

 怒らせてしまった。


 けど、それを嬉しく思ってしまう。


 シエロが一つ、大きなため息を吐いた。

「……今回は理由は聞かない。ただ、もう二度としないでくれ」


「ごめんなさい、先生。もう、勝手に先生に付いて行ったり、一人で怪しい人について行ったりしないよ」


 シエロが、真剣な表情のチュチュの顔をじっと見る。

「…………」

 そしてじっと見たまま、口を開いた。

「妹を、守ってくれてありがとう。チュチュが居なかったら、大変な事になるところだった」

「あの場所にいれば、誰だってそうする」


「そう思うのは君だからだよ。それは、君の長所であり、欠点でもある」

 そして、一呼吸おいてこう続けた。

「何かあったら、必ず僕を呼んで」


「うん……」


 そして二人はまた、沈黙して学園へ向かう。


 いつものように、話せる気分ではなかった。


 恋人や婚約者がいるのかどうかはわからなかったけど、ひとつだけわかったことがある。


 今日、ドレスの女性を受け止めるシエロを見て、思い知らされてしまった。


 女性を撫でる優しい顔。大人の手。


 アタシは一歩も動くことが出来なかった。

 あの腕に飛び込む権利を、持ってなんかいなかった。


 アタシは弟子で。

 弟子だから、ずっと一緒に居られるって、思ってた。

 けど、もし将来隣に並び立つことが出来ても、抱き締められるのはアタシじゃない。


 あの場所に……、先生の胸に飛び込めるのは、アタシじゃない。

 こんな、荷物の布に包まれてボロボロになりながら好きな人の後をつけ回すような、そんな子じゃない。


 もっと大人で、綺麗で、上品で。


 あの腕に抱き止められるのは、アタシじゃないんだ。

この二人はイチャイチャするでもなくただ一緒に居るだけなのですが、それが自然な関係なのです。

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