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109/110

109 そして二人は幸せに暮らしました(2)

 カタン、とエマの部屋のテーブルの上にマグカップが2つ置かれた。


「ありがとう」

 エマがにっこりと笑うと、

「ああ」

 とヴァルが返事をした。


 とすっとヴァルがエマの横に座る。

 マグカップからは、カフェオレのいい香りがする。


「こうしてゆっくりするのも久しぶりだね」

「だな」

「最近は、先生も居ない事が多いし、仕事が忙しいんだね」

「ああ、いや。シエロが行ってるのはコンスタンのとこ」

「え?騎士団長?」

「そ」

 ヴァルが苦笑する。

 苦笑する姿も絵になる。ずっと見ていたい姿だ。


「チュチュと早く結婚したいだとかで、王都に結婚式の話付けに行って、ついでにコンスタンに騎士見習いまがいなこともやらされてるらしい」


「え?先生が?」


「剣なんて今まで持ったこともないだろうにな。まあ、アイツに嫌われたら、いくらロサ公爵でもチュチュに手出しはできなくなるだろうからな」


「……先生、情熱的だね」

 エマがびっくりした顔をすると、ヴァルが「ははっ」と笑った。


「まあ、あの二人が離れたら、シエロがよけい怠惰になるだろうしな」


 エマが、「ふふっ」と笑顔になりながら、マグカップを取り上げ、一口、こくりと飲んだ。


「それで、そのシエロのサポートに、学園の仕事が俺の方に回ってきたってわけ」

「へぇ……」


「爺さんが、新入生入れようかって、ちょうど話してて」

 話しながら、ヴァルがエマの耳元をくすぐった。


 うひゃぁ…………。


 こういうのは……、どうしてもまだ恥ずかしくなってしまう。

 悟られないように、エマはマグカップをきゅっと握りしめた。

「そ、そうなんだ……」


「また信頼できる子供数人、爺さんと会いに行かないといけなくてさ」


 ヴァルの手が頬をゆるゆると撫でるので、もうすでに話どころじゃない。

 なんだかさっきよりだんだんヴァルの位置も近くなってるような。


「ヴァル……?」

 見上げると、ヴァルがじっとこちらを見ていた。

 思ったよりも近くに居たので、後退りして離れようとするものの、すぐにベッドの脇に到達してしまう。


「お前もそろそろ一人前だし」


 ヴァルが、何でもないように話しながら、エマの頬を両手で包んだ。


「…………あの……」


「俺も、もう子供の生活は終わりにしてもいいかもな」


 エマが返事をしようとすると、ヴァルの親指がエマの唇を抑えた。


「…………」


 どうすればいいのかわからず、固まってしまう。


「明日から、また爺さんとシエロを連れて、王都まで行かないといけないから」


「……ふ、んぅ」

 返事をしようとするけれど、唇の上にヴァルの親指が乗ったままだ。

 それに意識を持っていかれてしまう。


「帰ってくるまでの間の、補給、させて」


「…………!?」


 何、言ってるの……っ!?


 近い!


 近すぎだし!


 もう顔がくっつきそうだし!


「んっ……なん……むっ」

 エマがこのまま喋ろうとしたものだから、ヴァルがエマの口から指を外す。


「…………」

 すっかり顔を真っ赤にしたエマが、ヴァルの顔を眺めた。


「じゃあ……ちょっとだけならいいよ」

 いつものように「へへっ」と笑ったエマに、ヴァルがいつもの生意気な笑顔を見せた。


 これは、何のチート能力も何の技術も持たないただの女の子たちが、ちょっとだけ大人になって自分の幸せを捕まえるハッピーエンドな話だから。

 だから、笑い合う二人は、きっといつまでも幸せで、きっといつまでも楽しく暮らすんだ。

そんなわけで、本編240話、番外編109話のこの物語も、ここで幕引きとさせていただきます。

ここまで約1年かかってしまいました。読んでくれたみなさん、本当にどうもありがとう!

明日は、最後のあとがきを更新したいと思います。

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