プロローグ
日本海に面した田舎町。その小さな町に訪れた春。
桜舞う中、入学式に向かう新入生たち。
その集団の中に龍仁たちもいた。
「みんな一緒の高校になれて良かったね」
ヘアアクセサリーをつけた黒髪を風になびかせながら、彩木真由美が満面の笑みを浮かべる。
「龍兄と一緒なのです!」
ピョコピョコと、小柄な体で楽しいアピールをしているのが龍仁の妹、佐々川麗奈。
ツインテールにつけられたリボンが子供らしさを強調する。
「れなちゃん頑張ったもんね」
そう言いながら麗奈の頭をなでなでしている絵は、とても同級生同士には見えない。
「まゆちゃ~ん、麗奈~がんばったのです~」
「なに泣いてんだよ麗奈」
「麗奈は泣くほど嬉しいのです!」
「はいはい」
ぶっきらぼうに龍仁が言い放つ。
「後は、みんな一緒のクラスだと更に嬉しいのです」
「さすがにみんな一緒は難しいと思うよ」
今日から母校となる私立白羽学園の校門をくぐり、クラス割りが掲示されている正面玄関へと向かっていく。
「すごい人なのです」
「これ全部新入生なのか」
龍仁たちは亀並の速度で掲示板へ近づいていく。
「やったのですー! 龍兄と一緒なのですー!」
「真由美も一緒だな」
「他にも知った名前があるわね」
「早く教室行くのです!」
「そうだな。もう時間だしな」
スキップしながら飛んでいきそうな麗奈を先頭に教室へ向かう。
教室に入った龍仁たちは見知った顔を発見したが、それと同時に先生が入ってきたため黙って席に着いた。
「みんな席につけー!」
ザワついていた生徒たちが席につき、静かになったところで紹介が始まった。
「まずは入学おめでとう。私が君たちの担任となる百瀬聖美だ」
黒髪の長いストレートに銀縁のメガネ、黒いスーツを身にまとい、右手には竹刀が握られている。
「そして、隣に居るのが副担任だ。自己紹介を」
少し茶色がかったセミショートに童顔、小柄な身体を包んでいるのは黄色いスーツ。
新入生だと紹介されてもおかしくないほど初々しい。
「ただいまご紹介に預かられました副担任、榊原理英です!」
生徒の間にクスクスと笑いが起こる。
「わたくし、今日から教師としての第一歩を歩み始めました! 皆さんと同じ新入生であります! よろしくお願いしましゅ!」
ぺこりと頭を下げた瞬間「先生がんばれー」「先生可愛いー」「彼氏いますかー」あちこちから声が上がる。
「がんばります! 可愛いありがとうございます! 彼氏はいましぇん!」
「そんなこと真面目に答えなくていい」
榊原先生は顔面を真っ赤にし、頭から湯気を出しながら「はい」と返事をした。
その後、お約束の生徒全員の自己紹介タイムが終わった時、教室の扉が静かに開き一人の女生徒が入ってきた。
それが、彼女との初めての出会いだった。