012(秘密を知る祖父)
リュウは考える。夢が現実になるなんてあり得ない。リュウは憲一郎の言葉を思い出した。〝悪夢を見るようになったら知らせない〟
「ヤコ。じいちゃんの家まで行くぞ」
「急にどうしたの?」
「じいちゃんは何か知ってる。このカラーリングが偶然って事はない」
リュウとヤコはGTRに乗り、憲一郎の自宅へ向かう。そして、10分ほどで憲一郎の自宅に着く。3階建ての豪邸だ。リュウはGTRを駐車場に停めて降りる。ヤコはリュウの後を着いてく。家の門から玄関まで50メートルほどある。途中、祖母の栄が着物姿で庭掃除をしていた。
「ばあちゃん、ちわ。じいちゃん居る?」
「あら、リュウ。ヤコちゃんも。憲一郎さんなら中に居るわよ。3階の書斎じゃないかしら」
「ありがと。行こ、ヤコ」
「うん。お邪魔しまーす」
リュウとヤコは家に入り、エレベーターに乗る。ぐぐっとエレベーターが動き、3階に着いた。廊下を歩き、書斎の前に行くと、リュウは「ふー」っと息を吐く。そしてノックをする。
「じいちゃん、俺だ。リュウだよ」
「入りなさい」
リュウは引き戸を開けて書斎に入る。ヤコも後を着いてく。憲一郎の書斎は本や書類でごった返していた。
「やあ、リュウにヤコちゃん」
「じいちゃんに聞きたい事がある」
「…………夢を見たか?」
「何でそれを? じいちゃんは何を知ってるの?」
「まあ、座るのじゃ」
リュウとヤコは言われた通り、ソファーに座る。憲一郎はソファーの上座に座った。
「で、じいちゃん。夢で起きた事が現実になった。知ってる事を教えて」
「よく聞くのじゃ、リュウ。この世には現実世界と対になっている異世界があるのじゃ。その境界線となるのが、お前の夢じゃ。現実世界への侵食を食い止める触媒。現実世界を守るためには夢の中で戦うしかない」
「何で俺なの? 異世界とやらの連中の戦力は?」
「前にも言ったが、お前は特別な孫じゃ。奴らの戦力は侮れないじゃろう」
「俺はこの世界を守りたい。異世界の奴らの目的は現実世界を乗っ取る事?」
「乗っ取るだけではない。破壊が目的と睨んでおる。異世界は通称〝アナザーシープ〟と呼ばれておる」
「俺以外にそのアナザーシープと戦える人は居るの?」
「今のところ、リュウだけじゃ。だが、仲間は増えていくじゃろう」
「俺の夢の中なら俺は無敵だ。アナザーシープを蹴散らしてやんよ」
「その意気じゃ。ワシも出来るだけ力を貸す」
「そういや、夢の中でガタイの良いオッサンを倒したな」
「もうアナザーシープとエンカウントしたのか。怖かったじゃろう」
「空を飛んで、首チョンパアタック……もといスーパー頭突きを喰らわしてやったよ」
「もう夢をコントロール出来るのか。リュウ、お前は凄いぞ」
「夢の中でGTR召喚したんだけどさ。カラーリングが現実の物となったよ」
「そうか。侵食が始まったか…………。話は変わるが、藤原パン店の件はどうするのじゃ? パン屋のオーナーもやるのかの?」
リュウはドキッとする。隣にはヤコが居る。アキの存在を気付かれる訳にはいかない。
「あ、ああ。直接行って、藤原のおばちゃんに話を通しておいた」
「ならよし。覚悟はできてるな?」
「も、もち」
本当はアキに言っただけで、藤原のおばちゃんに話が通ってるかは分からない。徐々にリュウに綻びが出始めている。