011(侵食の始まり)
リュウは目覚めが悪い。インターホンのチャイムを連打されたからだ。ヤコはまだ眠っている。リュウはインターホンの画面を確認しに廊下に行く。
「誰だ? ピンポンダッシュか?」
『おばあさんだに。早く出て』
訪ねてきたのは母方の祖母、北川昭美だ。稲原家は父方。
「何の用?」
『話があるに。出てきて』
リュウは渋々玄関のドアを開けた。北川は意気揚々としている。
「で、何の用だ?」
「リュウ。遊んでないで働きな」
「またその話? じいちゃんの不動産会社で働いてるじゃん」
「違う。働きな。手を動かしな、手を」
「このマンションの管理してんだけど。俺が働いてないという根拠を示せ」
「根拠なんてないに」
父方の祖母と違い、こっちの祖母は頭が悪い。
「帰れ」
「5万円寄越しな」
「はっ? 何で?」
「憲一郎さんから沢山貰って遊んどるんだら。こっちは生活保護一歩手前だに」
「俺は働いてないんでしょ? じゃあカネはねえな」
「お前は間抜けだに」
「ボケ老害を相手にしてる暇はない。帰らなきゃ強盗未遂、強要罪、侮辱罪で警察呼ぶからな」
「知らんに!」
バタン! 北川はドアを勢いよく閉めて逃げて行った。リュウのハッタリが効いた。
「ったく。何なんだ、あのババア。血が繋がってるとは思えん」
ヤコが寝室から出てきた。寝ぼけ眼だ。
「なんか煩かったね」
「せっかく寝てたのに。あのババア」
「誰か来てたの?」
「ダメな方のババアが悪態吐いて逃げてった」
「そう。夢の中でね、リュウが助けに来てくれたよ」
「ガタイの良いオッサンに拘束されたからな」
「ちょっと待って。何で私が見た夢を知ってるの?」
「お姫様抱っこで空を飛んだり、GTR召喚したり」
「ええ!? 何でそこまで詳しく…………」
「分からない。偶然って事はないよな」
「同じ夢を見ていたって事?」
「なんか嫌な予感がする」
「脅さないでよ」
「気晴らしにドライブにでも行く?」
「行く行く」
リュウは窓からGTRを見て愕然とした。夢の中で見たカラーリングされたボディーをしている。ブラックパールメタリックに赤色で十字に線が入っていた。
リュウはヤコを連れて急いでGTRの元へ行く。塗装は乾いてる。まるで前からそういう塗装であるかのように。




