死神の願い事を叶えるのは神様の気まぐれで暇つぶし
死神クロエは何処から生まれたのかも知らず、決められた命を狩るだけの日々を過ごしていた。
今まで狩った命はあと一つで百万になる。クロエに名前と死神としての使命を与えた神は、百万の命を狩ったら願い事を一つ叶えると約束していた。
欲しいものも何かを願ったこともないクロエは、願い事をまだ決めていない。そもそも願いとは?自問自答を繰り返していた。
願い事をボーッと考えていたクロエは、今夜狩る予定の青年と出会ってしまった。
寿命が近くなると、死神の姿は見えるようになる。お馴染みの黒いボロボロのローブに大鎌を持ったあの姿だ。
「あ……。」
「え?死、神?」
まだ死ぬまで時間がある青年の前に姿を現してしまうなんて……。死神の中には悪戯に恐怖させるために故意に姿を見せる者もいるが、クロエはそれを好まなかった。
「……俺、死ぬんですか?」
青年はクロエを真っ直ぐ見て問いかける。
「……はい。今夜……。」
「そっか、まだ間に合う。良かった!」
「え?」
良かったなんて言った人は初めてだった。皆命乞いをして罵声を浴びせた。
「妹が遠くに嫁ぐんだ。もう会えなくなるからちゃんとお別れがしたかった。妹に別れを告げたら戻るよ。あ、君も付いてくる?」
「え、あ、はい。」
死神に笑顔を向ける人間なんて初めてだ。
彼の名はクリス。親を早くに亡くし育て上げた妹は、遠い国の商人と大恋愛の末に結婚する事となった。妹は兄と離れることを拒んだが、兄は優しい妹が幸せになる事を第一に考え二人の結婚を後押しした。
「兄さん!」
「カレン。とても綺麗だ。ほら、これプレゼント。」
木彫り細工の髪飾りを着飾った妹に着け優しく笑うクリス。涙を浮かべて喜ぶカレン。幸せそうだ。
抱擁を交わし、別れを惜しむ二人。クロエは胸がチリチリと痛んだ。
カレンを見送ったクリスは、クロエに向き合う。
「これで思い残すことはない。いつでもいいよ。クロエ、待ってくれてありがとう。」
クロエに笑顔を向けた。
クロエは神に願う。百万の命を狩るだけの僕には何もない。この優しい笑顔で死神にありがとうと言えるクリスに生きてほしい。僕の命をあげるからクリスを助けて!
二人は光に包まれ、クロエは光の中に消えていった。
一年後、クリスは真っ黒な子猫を拾った。成長した子猫は金色の綺麗な目に変わった。
それはクロエの瞳と同じ色だった。