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第8話 風魔法の威力


 突如発生した巨大なつむじ風に、クロード・ベアも気付いて急ブレーキを踏むが間に合わず、その突風に巻き込まれる。

 

 グガガァァァァ!!


 その突風は竜巻となり、黒い巨体を巻きながら空高く舞い上がった。


 ゴオオオオォォォォ!!!


 竜巻が発する轟音が耳に痛い。

 直径は20メートル以上あるだろうか、あの巨体が遥か上空まで飛ばされている。

 まさに災害と呼べる程の竜巻だ。

 僕もイリーネとモニカの元へ走って逃げた。

 風に巻かれながらグルグルと回るクロード・ベアを見ると、既にぐったりとしているように見える。

 程なくして竜巻の回転からはじき出されたクロード・ベアは、空高くから地上に落下した。


 ズドオオォォォン!


 ものすごい地響きがする。

 地面に激突したクロード・ベアはピクリとも動かなかった。

 竜巻はそのまま空へ舞い上がり、そして何事もなかったかのように消えていった。

 僕たち3人はしばらくポカンとその場に立ち尽くしていた。


「アルノー、お前、すごいな」


 口を開いたのはモニカだった。


「私の知る限り、風魔法とは目標物をせいぜい数メートル吹き飛ばす程度のものだ。今のは伝説の勇者に匹敵するクラスじゃないか?」


 微妙な顔をしている僕を見て、モニカは背中をバンバンと叩いた。


「なんにせよ、我々はアルノーに命を救われたんだ。いや、この街の住民全員が救われたのかもしれん。早速正しい力の使い方をしたじゃないか」

「そうですよ! アルノー様は命の恩人です!」


 イリーネも嬉しそうに口を開いた。

 僕は出来る限りのことを考えて、行動した。

 これで良かったのかな。

 『大いなる力には大いなる責任が付きまとう』

 この言葉は、力をちゃんと制御できるようにすること、そして逃げずに立ち向かうことなんだと、僕は改めて思った。


「おーい、大丈夫ですかぁ!?」


 街の入口のほうを見ると、数人の衛兵を連れたヨアヒムが走ってきていた。

 近くに寄ってきたヨアヒムに、モニカはクロード・ベアの死骸を目線で指す。


「おお、これは……」

「クロード・ベアじゃないか。なぜこんな狂暴な魔獣が……」


 衛兵は死骸を取り囲み、何やら話をしている。


「もしかして、坊ちゃんの聖魔術……ですか?」


 ヨアヒムの問いに、モニカは笑みを浮かべながら黙ってうなずいた。

 やっぱり、とヨアヒムは僕のほうを見た。


「街の中から、急に発生した竜巻が見えたんです。街中大騒ぎになってますよ」


 その会話を聞いていたであろう衛兵のひとりが話に割って入ってきた。


「え、あの竜巻はこんな子供が出したっていうのかい?」

「いや、あの……」


 突然、みんなの視線が僕に集まり、緊張してあたふたとしてしまう。


「すごいな、街を襲う凶悪魔獣から街を救ったのがこんな子供だったなんて、こりゃ明日はこの話題で持ちきりだぞ」


 わははは、と衛兵たちは愉快そうに笑った。

 ど、どうしよう、僕の出自を知る者はクラーバル家以外にはイリーネ、ヨアヒム、モニカの3人しかいないはず。

 こんなことで話題になってクラーバル家の耳に入ってほしくない。

 そんなことを思っていると、ヨアヒムは僕の心をくみ取ったのか、衛兵たちに話をした。


「実はこの子は私の従兄弟でして、休暇を兼ねて遊びに来させているんです。正義感溢れる自慢の従兄弟ですよ」

「ほお、キースリング家の血縁者でしたか、それは是非クラーバル様にもお伝えせねば!」


 逆効果だった。


「で、坊主、名前はなんていうんだ?」

「え?」


 唐突に問いかけられ、思わず黙ってしまう。


「キースリング家の者なら信頼もあるし、クラーバル様より報奨金でも貰えるかもしれないなぁ」


 わははと笑う衛兵に対し、僕は首をぶるぶると左右に振った。

 な、名前……何か考えないと。


「で、君の名前を教えてくれるかい?」


 僕は咄嗟に思い浮かんだ名前を口にした。


「あ、あの、ハルトムート……です」

「おぉ、立派な名前だな、ハルトムート殿、よくやったぞ!」


 衛兵は嬉しそうにクロード・ベアの死骸の元へ戻っていった。


「アルノー様、今のお名前は……?」


 イリーネが当然の疑問を口にする。


「うん、僕がよく見ている夢でね、名乗っていた名前なんだ」

「さて、後始末はあいつらに任せて、私たちは屋敷に帰ろうじゃないか」


 モニカの提案で、僕たちはヨアヒムの屋敷に戻ることにした。

 これから何事もなければいいんだけど……。



◇◆◇◆◇



 僕がクロード・ベアを倒したことは、街中で大きな話題となっていた。

 ここ数十年に渡り、大きな魔獣に脅かされることもなかったこの街の住民は、その脅威と突然現れた大魔法使いの出現に大いに沸いた。


「もう街を歩けばその話題ばかりですよ。私もハルトムート様の付き人として顔が知られてしまいました」


 イリーネは嬉しそうに僕に言った。


「ごめん、買い物もしづらくなっちゃったよね」

「いえ、見てください! 商店街の皆さんもこんなにおまけしてくれて」


 彼女は今しがた買ってきた紙袋を見せた。

 中には果物や野菜が大量に入っている。


「でもアルノー様も外を歩きづらくなっちゃいましたね、せっかく自由になれたのに……」


 僕らがクロード・ベアを倒した次の日、早速、僕の名乗った『ハルトムート』の名は街中に知れ渡っていた。

 結局、僕はキースリング家の屋敷から一歩も出られず、もっぱら部屋の中で引きこもっている毎日だ。

 部屋に引きこもるのは慣れているけど、いつまでもこのままじゃ力になってくれているみんなに申し訳がない。

 なにより手に入れた聖魔術の力を試したくて僕はうずうずしていた。


 そんなある日、やってきたひとりの来訪者によって、僕の運命は大きく変わることになった。


いかがでしょうか。

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本作品を最後まで楽しんで頂けるよう、全力で頑張りますので、是非ともよろしくお願いいたします!

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