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第5話 聖魔獣を召還する

 モニカは先ほどとは打って変わって真剣な表情になった。


「君の持つ魔力は非常に変わっている。およそ400年ほど前に失われた古代文明の王族にのみ受け継がれていたという”支配する力”だ」


 文献のページをパラパラとめくる。


「古代の民族は、主に聖域に住んでいたという聖魔獣の力を借り、ありとあらゆる超常現象を起こしたと記載がある。通常の詠唱して使う魔法とは根本から違うな」


 僕にも特別な力があるんだ、と少し感慨深さを感じる。


「でも、なんでそんな力が僕に……」

「魔力というのは基本、遺伝により受け継がれていく代物だ。しかし稀にイレギュラーを起こすことがある。魔力を持たない親から魔力を持つ子が生まれたりな。そして最近、私が進めていた研究でひとつの仮説を立てていたんだ」


 そこまで言ってモニカは一息ついた。


「魔力を持たない親から魔力を持った子が生まれる場合、親よりも昔に魔力を持っていた先祖がいるケースが多いんだよ。魔力を失った血筋が、世代を超えて受け継がれるんだ。私はそれを『遠隔世遺伝』と呼んでいる」

「遠隔世遺伝……?」

「そうだ。そこでヨアヒムが君の血筋を遡って調べたところ、はっきりとはしないがおよそ400年前に世界の半分を治めていたグレーナリア大国の王族に辿り着いたんだ」


 僕は驚いてヨアヒムを見た。

 ヨアヒムは僕の視線に気付き、にっこりと微笑んだ。

 彼はしばらくの間、これを調べていたのか。


「ここまで遠い隔世遺伝は初めてだ、これはもう『大隔世遺伝』と呼んだほうがいいな」


 モニカはそう言うと、手近な紙にペンを走らせる。

 僕はお腹の中に感じる暖かな塊を意識した。

 聖魔獣という生き物の力を借りて、魔法のような現象を起こす、といった感じだろうか。

 あれ?

 ってことは……。


「モニカさん、それって……その聖魔獣がいないと何もできないんですよね」

「その通りだ」

「聖魔獣って、どこにいるんですか?」

「400年前以降はその存在が確認されたことはないな」

「だ、ダメじゃないですかそれ……」


 僕は落胆した。

 既に失われた文明なら、その聖魔獣とやらも失われてしまっているんじゃないの?

 

「まぁそう話を急ぐな。そこでひとつ提案がある」


 モニカはそういうと、棚に置いてあった丸い石をふたつ、机の上に置いた。

 大きさはどちらも手のひら大くらいだろうか、奇麗な球状をしたその物体は、ひとつは淡く青みがかった色合いで、もうひとつはまるで大理石のようなマーブル模様が描かれている。


「この大陸にはかつて聖域だった場所が複数存在している。これはその聖域のそばにある村で、代々受け継がれてきたモノだ。以前、旅をしていた時に偶然手に入れてね」

「師匠……また何かその村で無理難題を吹っ掛けたんでしょう」

「馬鹿を言え、その村の悩み事を解決してやったらお礼にくれたんだ」


 モニカは憤慨だと言わんばかりに鼻息を荒くした。

 そのまま本のページをめくると、僕に向かって差し出した。


「このページに書いてある。聖魔獣は身体を持たない概念的な存在だ。獣魔契約を行った聖魔獣は、宿主に魔力を供給され永遠に死ぬことはない。ただし宿主を失った聖魔獣は、自らを球状の珠に閉じ込め、次の宿主に出会うまでその時を待つ……とな」


 文字は読めないが、この珠そっくりの挿絵が描かれている。


「このふたつの珠にも微量ながら稀有な魔力の流れを感じるんだ。恐らく聖魔獣の珠だろう」


 この珠の中の聖魔獣と契約できれば、魔法が使えるようになるということらしい。

 ひとまず可能性が絶たれてはいないことに僕は安堵した。


「で、提案というのは……?」


 僕は恐る恐る聞いた。


「この希少な珠をどちらかひとつ、君にプレゼントしよう。その代わり、しばらく君の力を研究させてほしい」


 そう言ってモニカはふたつの珠を僕の前に置く。

 研究というのは、さっきのようなくすぐったいやつだろうか。

 不安が非常に大きいが、ここまで来て何もできないのはもっと嫌だ。


「わかりました、お願いします」

「いいね、ちなみに売り物にするなら金貨500枚は貰うところだ。慎重に選べよ。まぁ売ると言っても、買うのはこの先も君しかいないだろうがね」


 モニカは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 金貨500枚がどの程度の価値かイマイチわからないけど、そう簡単に稼げる金額ではなさそうだ。

 一応、珠を見比べてみるが、外から見てどんな力があるのか、判断することはできない。

 できれば弟のニクラスを一撃で吹っ飛ばすような力が欲しい。


「んー、それじゃこっちにします」


 僕は悩んだ末、奇麗な青い珠を手に取った。

 珠はひんやりとしていて、すべすべとした感触が心地良い。

 表面をよく見ると、うっすらと中が透けて見えるような気がする。


「よし、では珠を手に持ったまま、身体の奥に感じる魔力の源を意識するんだ。さっき身体が覚えたあの感触だ」


 僕は先ほどの痴態を思い出して顔が熱くなった。

 気を取り直してお腹の奥にある暖かい塊を意識する。


「感じたか? その熱を感じながらこう唱えるんだ。『聖魔獣召喚ヘィル・ティア・ヴィーテ』」


 僕は深く深呼吸をすると、モニカの言葉をそのまま繰り返した。


聖魔獣召喚ヘィル・ティア・ヴィーテ


 その言葉に反応するように手に持っていた珠が光り出し、ふっと空気中に溶け込むように珠の感触がなくなった。

 まばゆい光の中から唐突に強い風が吹き、その風が次第に人型のシルエットを形成させていく。

 目を細めながらその成り行きを見守っていると、次第に光が薄れていき、目の前には羽の生えた人型の精霊らしきものが現れた。

 背の丈は20センチ程だろうか、空気の揺らぎで簡単に身体の輪郭が変わってしまうため、明確な形を認識するのが難しい。

 なんとなく髪の長い女の子のように見える。


「おぉ、やったぞ! やはり聖魔獣の珠だったか!」


 隣でモニカが興奮気味に叫ぶ。


「あら、随分と久しぶりに呼ばれたと思ったら、まだ子供じゃない」


 その聖魔獣は僕を見て言った。


「あ、えーと、ごめんなさい……」


 咄嗟に謝ってしまう。

 その聖魔獣は僕の顔の前をふよふよと浮かびながら、くすくすと笑った。


「ま、いいわ、あなたの魔力、随分と居心地がいいし、せっかく呼んでもらったんだもの、力になってあげる」


 そういうと聖魔獣は目の前でくるっと宙返りをした。


「私の名前はウィンディ。風を司る聖魔獣よ。私の力が必要なら魔法陣を描いて呼び出してね」


 そう告げるとウィンディは僕の周りを一周しながら一陣の風と共に消えた。

 近くで文献を読んでいたモニカが興奮したまま顔をあげた。


「今、ウィンディと言ったか? ウィンディは風の中でも上位の聖魔獣だ。かつての文明では度重なる嵐を呼び起こし、街を壊滅に追い込んだと記載がある」


 ま、街を滅ぼせる力……!?

 僕は驚いた。


いかがでしょうか。

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本作品を最後まで楽しんで頂けるよう、全力で頑張りますので、是非ともよろしくお願いいたします!

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