第4話 僕が秘めた魔力
「でも、生まれた時の検査で、僕は魔力がないって結論だったんじゃ……?」
僕は思ったことを口にした。
「あはは、それってもう14年も前のことだろう? それじゃ君の魔力査定が0だと判断されても仕方がない」
モニカは目を輝かせて僕を見た。
「なぜかって? 私がそこにいなかったからだ!」
彼女の言葉を僕はぽかんとした表情で聞いていた。
ああ、この人は自信家だ。
笑顔でそんなことを言える彼女を少しカッコイイと思ってしまった。
見た目は子供にしか見えないけど。
「話はヨアヒムより聞いている。クラーバル家は貴族社会ではすこぶる評判が悪い。これまでの君の境遇には同情するよ……」
モニカは眉間を指で揉みながら大きくため息をついた。
「坊ちゃん、実は坊ちゃんの実家であるクラーバル家について、思うところがあって家系を遡って調べてみたんです。そうしたら非常に面白いことがわかりまして」
「そう、君が頻繁に見る夢の話とも関係のあることだ。それを聞いてひとつ試してみたいことがあってね」
「試してみたいこと?」
僕は尋ねた。
モニカはポケットから手のひら大の道具を取り出すと、僕の身体に向けた。
「ちょっとじっとしててな」
その道具を僕の頭からつま先まで、ゆっくりと舐めるように動かす。
特にお腹のあたりを重点的に凝視した後、モニカは顔を上げて言った。
「うん、ヨアヒムの予想が当たってるんじゃないか?」
「やっぱり! 坊ちゃん、あなたには稀有な魔力の素質があるかもしれません。ちゃんと調べてみましょう!」
理解が追い付かず挙動不審になる僕を促し、ヨアヒムは奥の部屋へ皆を案内した。
その部屋には見たことのない器具が壁際の棚にズラリと並び、部屋の中央にはベッドと机が置かれている。
僕は促されるままそのベッドに横になった。
「な、何か痛いことをされるんじゃないですよね」
「心配するな、痛く感じることはないよ。今から君の身体の中に眠っている力の源を探し出す」
薄暗いからか、モニカが笑みを浮かべているように見える。
ふ、不安だ……。
「アルノー様、頑張って!」
イリーネが僕の手を握って励ました。
その手の感触に少し不安が和らぐ気がする。
モニカはヨアヒムが用意した箱の上に乗り、僕を見下ろした。
「よし、始めるぞ。アルノー、目をつぶって身体の中を意識するんだ」
僕は言われるがまま、目をつぶって意識を集中した。
モニカが何やら空中で両手をくゆらせる。
少しうさん臭さを感じつつも、ざわりとお腹の当たりに違和感を感じた。
身体中の産毛が逆立つような、くすぐったさだ。
「んっ」
その違和感はすぐに身体の中へ入っていく感覚に変わる。
「うっ……んん……はぁっ……」
まるで内臓をゆっくりと撫で回されているようだ。
彼女が右手を向ける先が特にくすぐったく感じ、思わず声が漏れてしまう。
「モニカさん……っ! ち、ちょっと……」
初めての感覚に全身が総毛立つ。
目を開けて彼女を見ると、右手を僕にかざしながら目を爛々と輝かせている。
興奮しているのか、息遣いが荒い。
「……っ、やっぱり少年が身悶える姿はいいね」
駄目な人だった。
目の端に大きくため息をつくヨアヒムの姿が映る。
「くっ……んんっ……はぁぅ……」
なんとか我慢しようとするが、どうしても身体がビクッと動いてしまう。
目の端に恥ずかしそうに顔を赤く染めて俯いているイリーネの姿があった。
俯いていても視線だけは僕をじっと見ている。
うぅ、なんだか痴態を見られているようで恥ずかしい。
極力、声を出さずに我慢してみる。
「…………っ……っ………んっ…」
「声を我慢しているほうが、よりそそるな」
ど、どうしろというんだ。
モニカは恍惚の表情だ。
恥ずかしい……。
「あっ……!」
お腹の当たりに何か熱い塊のようなものを感じた。
モニカは急に真剣な表情になって、お腹のあたりを凝視する。
「これだな、扉が開いたぞ」
モニカが向けていた手をゆっくりと下ろすのに合わせて、くすぐったさが身体から抜けた。
「んっ……ふぅ……」
いつの間にか全身に汗をかいていた。
「これは面白い……ちょっと待ってろ」
モニカはそう言って棚から分厚い本を手にし、ページをめくる。
それで、魔法は使えるようになるの? と答えを急かしたい気持ちを抑えて、彼女の動向を見守った。
「で、師匠、どうでしょう」
ヨアヒムが僕以上に緊張している。
「ヨアヒム、君の推測が当たっていたな」
「じ、じゃあ……」
「もはや文献にしか残っていない古代魔術の資質が眠っていた」
そう言ってモニカは持っていた本を僕らにも見えるように広げた。
そこには見たことのない文字が並ぶ中、幾つか挿絵が挟まれている。
人の形をしたものが、いろいろな生き物を従えている絵に見える。
「聖なる魔獣の力を借りる聖魔術という力だ。既に滅んだとある王族にのみ伝わる秘術が、現代に蘇ったというわけだ……これはそそる!」
そういってモニカは文献を抱きしめて恍惚の表情を浮かべた。
僕には何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
「え、えーと……」
「ああ、すまなかった。では君にもわかるように一から説明しようか」
モニカはそう言って僕を見た。
いかがでしょうか。
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