第38話 4体目の聖魔獣の召喚する
僕とイリーネは再び海岸沿いを歩いていた。
さっきまで高かった太陽が、いつの間にか海岸線から消えようとしている。
岩場に辿り着くと、ライナーが網を用意して待っていてくれた。
「よう、こんなもので良いかな、出来るだけ穴が少ないものを用意したけど」
「ありがとうございます、充分です!」
僕はライナーにお礼を言って、網を受け取った。
くるくると畳んであるとはいえ、いざ持ってみると結構重い。
「じゃあ俺は宿の手伝いに戻るけど……お前たち今日もうちに泊まるんだろう? 食事の準備をしておくから、あまり遅くならないようにな」
そう言ってライナーは帰っていった。
僕とイリーネは重い網をふたりで持ちながら、ゆっくりと『聖地』のある洞穴へ向かう。
途中、洞穴の入り口に立つ衛兵に挨拶し、僕らは再び祭壇が沈む池に辿り着いた。
相変わらず青白い光がゆらゆらと揺れ、神秘的な雰囲気を醸し出している。
「アルノー様、お待たせ、しました」
後ろを振り向くと、いつの間にかイリーネが水着姿になっていた。
昨日見たワンピースの水着とは違い、今日は胸の前にリボンのついたビキニだった。
イリーネは露出しているお腹を隠すように両腕を組み、少し上目遣いで僕を見ている。
「……こんな水着は……嫌いですか?」
「う、ううん、とても……可愛いよ」
「あ、ありがとうございます……」
ふたりで顔を赤くしながら、変な空気が流れてしまう。
「じ、じゃあ網を石櫃のふたに引っかけてきますね!」
イリーネが網の先端を持ってバシャバシャと水の中に入っていった。
そのままスイーッと器用に泳いでいく。
石櫃までたどり着いたイリーネは網全体を石櫃のふたに引っかけると、再び水面に上がってきた。
「ぷはっ、引っかけてきました!」
「ありがとうイリーネ、じゃあ引っ張ってみるよ」
僕は網を持つと力任せに引いてみた。
思いのほか強い抵抗が網を通じて腕に伝わる。
僕はそれでも全力で引き続けると、ズズッ、ズズッと少しずつ蓋がずれていく感触があった。
「あ、蓋がずれてます! ちょっと見てきますね!」
そう言ってイリーネが再び潜っていく。
そして石櫃の中を探った後、水面へ浮上した。
「ありましたよ、アルノー様、真っ白な奇麗な珠です!」
イリーネは手に珠を持って水から上がってきた。
僕はタオルと引き換えにその珠を受け取った。
よく見ると真っ白い珠だが、何やら光っているようにも見える。
「すごい、奇麗な珠ですよね」
イリーネがタオルで髪を拭きながら、後ろから声を掛ける。
「次はどんな聖魔獣なんでしょうね、楽しみだな~」
「ここで召喚しちゃおうか」
僕の提案にイリーネは少しびっくりしつつ、首を縦に振った。
「いいですね、アルノー様のパワーアップした姿を早く見たいです!」
「それは大げさだよイリーネ、少し離れててね」
僕は珠を手に魔力を集中させた。
イリーネは僕の後ろで着替えるのも忘れて注目している。
「聖魔獣召喚」
カ――ッ!
珠が突然輝きだし、洞穴内を明るく照らす。
とても目を開けていられず、僕とイリーネは手で光を覆いながら薄眼で珠の様子を見ていた。
ひとしきり輝いた後、その光は徐々に薄れていき、目の前に1メートルほどの人型の光が残った。
光の輪郭を見るとふわふわのスカートを身に着けた少女のように見える。
「わたしをよびだしたの……だあれ?」
その光は僕たちを見ると、トテトテと近づいてきた。
「おにいさんたちがよびだしてくれたの?」
「あ、ああ、そうだよ。君は聖魔獣なのかな?」
「うん! なんかすごくながいあいだ、ねむってたきがする」
そう言って光の少女はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「すごく元気な聖魔獣ね、ねぇ、君の名前を教えてくれるかな?」
イリーネが聞くと、少女は飛び跳ねるのをやめ、首を横に振った。
「だめだよ、おしえられないの」
「どうして駄目なのかな?」
少女は少し間を置いた後、
「だって、それがわたしとけいやくするじょうけんなんだもの」
「え?」
僕は少女に聞き返した。
「君と契約する条件って……」
「うん、わたしのなまえをあてられたら、おにいさんのちからになってあげる!」
そう言って再びぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
名前を当てることが契約の条件……タイガの時のような危険はないが、地味に大変そうだ。
「なんかいこたえてもいいからね」
僕は思いつく少女っぽい名前を次々に出していった。
しかし少女は首を横に振り続けるばかりだった。
イリーネもいろんな名前を上げるが、当たることはなかった。
30分ほどイリーネと交互に名前を出し続けたが、結局どれもハズレだった。
「あ~、はやくあててほしいな~、ヒント、だしちゃおうかな~」
光の少女は僕らのほうをチラチラと見てくる。
彼女にとっても久しぶりの召喚だ。
できれば僕に使役したいというのが本当のところかもしれない。
「わたしのおかあさんはねぇ、ベリサマってなまえなの、これでわかるかな?」
「ベリサマ?」
聞いたことのない名前だった。
僕が少し諦めかけていたその時、イリーネがハッとした顔で僕を見た。
「アルノー様、この前本で読んだんですが、この村の周辺にはひとつの神話が残っているんです。光を司る神『ベレヌス』が闇に覆われたこの地に光を灯し、生命を育む大地に変化させたという言い伝えです」
「うん」
「その光を司る神『ベレヌス』の妻が、海と湖と川を司る女神『ベリサマ』と呼ばれていて、そのふたりの子供が……」
先ほどまでぴょんぴょんと跳ねていた光の少女は、わくわくしながら僕の横でイリーネを見ている。
僕は固唾をのんでイリーネの言葉を待った。
「光と天の女神『ルーナ』です」
「だいせいかいー!!」
少女はより光輝きながらぴょんぴょんと飛び跳ねた。
眩しくて表情は見えないが、すごく嬉しそうだ。
「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう! これでけいやくができるよー」
僕は改めて少女の名前を呼んだ。
「ルーナ、僕と改めて契約してくれるかな?」
「うん! よろこんで!」
ルーナは僕の前に来ると、光輝いた右手を僕の額に押し当てた。
「ふたつ、ちからのつかいかたをおしえてあげる! ひとつはまわりをあかるくするまほう、もうひとつはとおくにあるものをばーん!ってふきとばすまほうだよ!」
そう言ってルーナは両手を上げて万歳のポーズを取った。
「それじゃ、またお話ししてね! おにいちゃん!」
そう言い残してルーナは光と共に消えていった。
いかがでしょうか。
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