表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/40

第37話 大金を手に入れる


「俺が商人に話を通してやるよ」


 ライナーがゴールドシェルクラブの殻を撫でながら言った。


「この時期、旅商人が定期的にこの村に仕入れに来るんだ。もしかしたら今も来ているかもしれないからな、後で寄合所に顔を出してみるよ」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

「その代わり、手数料はキッチリ頂くからな」


 そう言ってライナーはニヤリと笑った。


「最近、兄貴は稼ぎが少ないって母さんにぼやかれてたからね……こんなとこでピンハネして補填しようとするんじゃないよ」

「シーラ! いいだろ別に……」


 僕たちはゴールドシェルクラブをライナーに一任し、一旦、宿へ戻ることにした。

 この村の問題は解決できたけど、次は僕たちの問題を解決しないとな……。

 僕は『聖地』の水の中に沈んだ祭壇のことを思い出していた。



◇◆◇◆◇



「ゴールドシェルクラブを倒したのはアンタたちなんだって?」


 宿の食堂でお昼ごはんを食べていた僕とイリーネに話しかけたのは、ヨレヨレの帽子を被った少し怪しい人物だった。

 面長の顔にあご髭を生やし、ぽっこりと出たお腹。

 恐らく40代半ばの中年といったところか。

 よく見ると着ているスーツもヨレヨレだ。


「いきなり済まないね。私の名はジェンス。この村に滞在している旅商人だ」


 僕は思わず訝しげな表情をした。


「いやいや、そんなあからさまに怪しむことはないだろう、こう見えても商人ギルドに登録した立派な旅商人だ」


 そう言ってポケットから商人ギルドの登録証を僕に見せた。


「それで、僕に何の御用でしょうか」

「信用してくれたかい? いや、君が倒したゴールドシェルクラブを引き取りたくてね、ライナーという小僧に聞いたら、この宿にいる君を訪ねるよう言われてな」

「はぁ……」


 僕は気のない返事をした。

 イリーネも訝し気な表情でジェンスを見ている。


「あ! 俺の懐事情を心配しているのか? 心配するな、俺はまだまだ旅商人としては新米だが、どこかで一旗揚げたいと思っていたんだ。このゴールドシェルクラブは打ってつけだ、資金を惜しむ気はないよ」

「アルノー様、ちょっと」


 イリーネが僕にそっと耳打ちした。


「この件、私に任せてもらっていいですか?」


 僕は素直に頷いた。

 正直、お金の話をされてもよくわからないしね。


「提示額はいくらですか?」


 イリーネからの返答にジェンスは少し驚いた表情をした。


「お、お嬢ちゃんが窓口なのか? そうだな、相場的には金貨400枚ってとこだが、今なら450枚まで出そう、それでいいか?」


 イリーネは目をつぶって顔を横に振る。


「相場と仰いましたが、いつの話ですか? ゴールドシェルクラブはここ数年は発見されていないレア魔獣ですよ。そんな昔の相場を出されても困ります」

「お、おう、そうだったな……じゃあ金貨600枚ならどうだ?」


 ふるふると首を横に振るイリーネ。


「じゃあ650枚!」


 ふるふる


「670枚!」


 ふるふる


「685枚!!」


 ふるふる


 ジェンスはがっくりと肩を落とした。


「お嬢ちゃん、確かに相場は不確かだが、あまり値を吊り上げると買う商人もいなくなるぞ。あんな巨大なもの、売れなかったら邪魔なだけだろう?」

「大丈夫ですよ。アルノー様はさる上流貴族の方と親密にさせて頂いてますから。使い道はいくらでもあります」


 グググと悔しそうな顔でジェンスが考え込む。


「ちょっと待ってろ!」


 ジェンスはカバンから計算器具を取り出すと、パチパチと勘定を始めた。


「降参だ、今出せる限界は金貨1138枚までだ。それで駄目なら諦める。言っておくが相場度外視の金額だからな」

「はい、それで結構です!」


 イリーネは笑顔で返答した。


「はぁぁ、まったく大した嬢ちゃんだ。いい商人になれるぜ。白金貨11枚と金貨38枚でいいな」


 僕はふたりのやり取りを聞いてイリーネに小声で尋ねた。


「ねぇ、白金貨11枚と金貨38枚ってどのくらいの価値なの?」

「んー、そうですねぇ……こちらの宿が一泊で銀貨1枚くらいです。白金貨11枚なら、王都でお世話になっていたモニカさんのお屋敷くらいであれば、買えてしまうかもしれませんね」

「えぇぇ……」


 予想外に大きな金額を聞いて、僕は卒倒した。



◇◆◇◆◇



「よう、ジェンスさんに会ったようだな」


 取引を済ませ、ジェンスが帰った後、入れ替わりでライナーがやってきた。


「紹介して頂いてありがとうございます。おかげで良い取引が出来ました」

「ははは、大金を吹っ掛けたな、さっきジェンスさんとすれ違ったが、泣きそうな顔をしていたぜ」


 ライナーは愉快そうに笑った。


「はい、これ……ライナーさんの紹介料です」


 イリーネはそう言ってライナーに金貨10枚を渡した。


「え、これはいくら何でも貰いすぎだろ、金貨1枚もあればいいよ」

「いえいえ、取引額からすればこれでも全然少ないですから、遠慮せず貰ってください」

「お、おまえら……一体いくらでアレを売ったんだ。じゃあ遠慮なく貰うぞ、もう返せと言っても遅いからな!」


 そう言ってライナーは貰った金貨を大事そうに懐にしまった。


「それはそうと、ライナーさんにひとつお願いがあるんです」

「お願い? 金のこと以外なら相談に乗るけど?」

「これまで駄目になった地引網を貸してほしいんです」

「は? ズタズタに穴の開いた地引網か? そんなもの貰って何をするんだ?」


 僕はキョトンとするイリーネに目配せした。


「実は、水の中に沈んでいるものを動かすのに使おうと思って」


 それを聞いてイリーネが「あ!」と何か閃いた顔をした。


「まぁそんなもので良ければ用意するけど……」

「ありがとうございます! では海岸沿いの岩場の辺りまで持って来てもらえますか?」

「ああ、わかった。30分後くらいに持っていくよ」


 そう言ってライナーは宿を出て行った。


「なるほど! さすがアルノー様、頭いいですね!」

「僕は泳げないからね、水の外から何かできないか考えてたんだ」


 そう言って僕とイリーネは笑いあった。


いかがでしょうか。

一部でもこの物語が良いと思われましたら、「ブックマーク」や「評価」を是非ともお願いいたします!(評価は広告下の【☆☆☆☆☆】をクリックすることで行えます!)


本作品を最後まで楽しんで頂けるよう、全力で頑張りますので、是非ともよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ