第37話 大金を手に入れる
「俺が商人に話を通してやるよ」
ライナーがゴールドシェルクラブの殻を撫でながら言った。
「この時期、旅商人が定期的にこの村に仕入れに来るんだ。もしかしたら今も来ているかもしれないからな、後で寄合所に顔を出してみるよ」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「その代わり、手数料はキッチリ頂くからな」
そう言ってライナーはニヤリと笑った。
「最近、兄貴は稼ぎが少ないって母さんにぼやかれてたからね……こんなとこでピンハネして補填しようとするんじゃないよ」
「シーラ! いいだろ別に……」
僕たちはゴールドシェルクラブをライナーに一任し、一旦、宿へ戻ることにした。
この村の問題は解決できたけど、次は僕たちの問題を解決しないとな……。
僕は『聖地』の水の中に沈んだ祭壇のことを思い出していた。
◇◆◇◆◇
「ゴールドシェルクラブを倒したのはアンタたちなんだって?」
宿の食堂でお昼ごはんを食べていた僕とイリーネに話しかけたのは、ヨレヨレの帽子を被った少し怪しい人物だった。
面長の顔にあご髭を生やし、ぽっこりと出たお腹。
恐らく40代半ばの中年といったところか。
よく見ると着ているスーツもヨレヨレだ。
「いきなり済まないね。私の名はジェンス。この村に滞在している旅商人だ」
僕は思わず訝しげな表情をした。
「いやいや、そんなあからさまに怪しむことはないだろう、こう見えても商人ギルドに登録した立派な旅商人だ」
そう言ってポケットから商人ギルドの登録証を僕に見せた。
「それで、僕に何の御用でしょうか」
「信用してくれたかい? いや、君が倒したゴールドシェルクラブを引き取りたくてね、ライナーという小僧に聞いたら、この宿にいる君を訪ねるよう言われてな」
「はぁ……」
僕は気のない返事をした。
イリーネも訝し気な表情でジェンスを見ている。
「あ! 俺の懐事情を心配しているのか? 心配するな、俺はまだまだ旅商人としては新米だが、どこかで一旗揚げたいと思っていたんだ。このゴールドシェルクラブは打ってつけだ、資金を惜しむ気はないよ」
「アルノー様、ちょっと」
イリーネが僕にそっと耳打ちした。
「この件、私に任せてもらっていいですか?」
僕は素直に頷いた。
正直、お金の話をされてもよくわからないしね。
「提示額はいくらですか?」
イリーネからの返答にジェンスは少し驚いた表情をした。
「お、お嬢ちゃんが窓口なのか? そうだな、相場的には金貨400枚ってとこだが、今なら450枚まで出そう、それでいいか?」
イリーネは目をつぶって顔を横に振る。
「相場と仰いましたが、いつの話ですか? ゴールドシェルクラブはここ数年は発見されていないレア魔獣ですよ。そんな昔の相場を出されても困ります」
「お、おう、そうだったな……じゃあ金貨600枚ならどうだ?」
ふるふると首を横に振るイリーネ。
「じゃあ650枚!」
ふるふる
「670枚!」
ふるふる
「685枚!!」
ふるふる
ジェンスはがっくりと肩を落とした。
「お嬢ちゃん、確かに相場は不確かだが、あまり値を吊り上げると買う商人もいなくなるぞ。あんな巨大なもの、売れなかったら邪魔なだけだろう?」
「大丈夫ですよ。アルノー様はさる上流貴族の方と親密にさせて頂いてますから。使い道はいくらでもあります」
グググと悔しそうな顔でジェンスが考え込む。
「ちょっと待ってろ!」
ジェンスはカバンから計算器具を取り出すと、パチパチと勘定を始めた。
「降参だ、今出せる限界は金貨1138枚までだ。それで駄目なら諦める。言っておくが相場度外視の金額だからな」
「はい、それで結構です!」
イリーネは笑顔で返答した。
「はぁぁ、まったく大した嬢ちゃんだ。いい商人になれるぜ。白金貨11枚と金貨38枚でいいな」
僕はふたりのやり取りを聞いてイリーネに小声で尋ねた。
「ねぇ、白金貨11枚と金貨38枚ってどのくらいの価値なの?」
「んー、そうですねぇ……こちらの宿が一泊で銀貨1枚くらいです。白金貨11枚なら、王都でお世話になっていたモニカさんのお屋敷くらいであれば、買えてしまうかもしれませんね」
「えぇぇ……」
予想外に大きな金額を聞いて、僕は卒倒した。
◇◆◇◆◇
「よう、ジェンスさんに会ったようだな」
取引を済ませ、ジェンスが帰った後、入れ替わりでライナーがやってきた。
「紹介して頂いてありがとうございます。おかげで良い取引が出来ました」
「ははは、大金を吹っ掛けたな、さっきジェンスさんとすれ違ったが、泣きそうな顔をしていたぜ」
ライナーは愉快そうに笑った。
「はい、これ……ライナーさんの紹介料です」
イリーネはそう言ってライナーに金貨10枚を渡した。
「え、これはいくら何でも貰いすぎだろ、金貨1枚もあればいいよ」
「いえいえ、取引額からすればこれでも全然少ないですから、遠慮せず貰ってください」
「お、おまえら……一体いくらでアレを売ったんだ。じゃあ遠慮なく貰うぞ、もう返せと言っても遅いからな!」
そう言ってライナーは貰った金貨を大事そうに懐にしまった。
「それはそうと、ライナーさんにひとつお願いがあるんです」
「お願い? 金のこと以外なら相談に乗るけど?」
「これまで駄目になった地引網を貸してほしいんです」
「は? ズタズタに穴の開いた地引網か? そんなもの貰って何をするんだ?」
僕はキョトンとするイリーネに目配せした。
「実は、水の中に沈んでいるものを動かすのに使おうと思って」
それを聞いてイリーネが「あ!」と何か閃いた顔をした。
「まぁそんなもので良ければ用意するけど……」
「ありがとうございます! では海岸沿いの岩場の辺りまで持って来てもらえますか?」
「ああ、わかった。30分後くらいに持っていくよ」
そう言ってライナーは宿を出て行った。
「なるほど! さすがアルノー様、頭いいですね!」
「僕は泳げないからね、水の外から何かできないか考えてたんだ」
そう言って僕とイリーネは笑いあった。
いかがでしょうか。
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