第36話 討伐、そして……
態勢を立て直したゴールドシェルクラブは、僕の正面に立つと両腕のはさみを上に掲げて再び咆哮を上げた。
キシャアアァァァ!
まずはどこまで殻が硬いか試してみるため、僕はやつの腕が届かない真横まで走り、数メートル離れた場所で地面に魔法陣を描いた。
「影虎の惨爪!」
地面に置いた右手から、3本の爪跡が砂浜に深い痕を残しながらゴールドシェルクラブに迫っていく。
ガリガリガリ!
3本の爪跡はやつの足に当たり、わずかに甲羅の破片を飛び散らせた。
しかし反応を見る限り、それほどダメージはなさそうだ。
やっぱりお腹への攻撃が必要か。
僕は冷静に攻撃の跡を観察していると、ゴールドシェルクラブは突然こちらを向き、口から泡のようなものを噴き出した。
ブシャァァ!
「え!?」
距離にして7~8メートルは離れているため、僕は少し油断していた。
慌てて左手を前に出してガードするが、さすがに泡の全てをガードできるはずもなく、僕は全身が泡だらけになってしまった。
「あ、アルノー様!!」
僕は静かに呼吸しながら、冷静に身体の異変について確認する。
全身が粘ついており、手足を動かすのが少し重く感じる。
しかしそれ以外には特に異常はなさそうだった。
相手の動きを鈍らせるための攻撃なのかもしれない。
「僕は大丈夫! できるだけ遠くに逃げて!」
ゴールドシェルクラブは僕に泡を掛けた後、頭を低くしたままこちらの様子を伺っている。
僕は改めてゴールドシェルクラブの倒し方を頭の中で考えた。
お腹を攻撃するにしても、頭を下げた状態では砂浜との隙間は数十センチしかない。
潜り込んでも攻撃は出来ないだろう。
先ほどのように腕を振り回してくれれば、鈍風の塊で弾き返して腹を露出させられるかもしれないが、僕も後方へ飛ばされてしまうため、攻撃が間に合うか微妙だ。
①やつの攻撃を避けながら懐に飛び込み、
②顔を上げさせてお腹を出し、
③硬い殻を砕く攻撃をする。
この3つの関門をクリアしてようやく、ゴールドシェルクラブへダメージを与えられるのだ。
ともかく、やつの懐に飛び込んでからが勝負になりそうだ。
「自信はないけど……やるしかないんだよな」
僕は覚悟を決めると、ガードを固めているゴールドシェルクラブに向かって走り出した。
体が重く、思ったよりスピードが出ない。
まずひとつ目の関門を解決する。
「獅子躁妓の理」
僕は魔法陣を描くと魔力を集中させた。
周りの動きがゆっくりとなる。
ゴールドシェルクラブは僕が近づくや否や、頭を下げたまま口を開き、何か塊のようなものを複数射出した。
僕は超スピードのままその塊を全て避け、わずかに開いたゴールドシェルクラブの腹と砂の隙間に滑り込んだ。
隙間はわずか50センチ程度しかない。
僕はザザーっと滑り込むと同時に、砂浜に魔法陣を描く。
「聖なるつむじ風!」
今度はそれなりに魔力を込める。
砂浜から巻き起こったつむじ風は、砂を巻き上げて竜巻となり、ゴールドシェルクラブの身体を持ち上げた。
キシャアアアア!
咆哮を上げながらゴールドシェルクラブの身体が2メートルほど持ち上がる。
間髪入れずに右手の甲に再び魔法陣を描く。
「影虎の惨爪!」
僕は右手に宿る力を感じながら、それを目の前に浮いているやつの腹目がけて振り抜いた。
バキバキバキィィィ!
今度は手ごたえがあった。
よく見るとやつの腹は大きく砕かれ、中から体液のようなものが降り注ぎ始めていた。
僕は慌てて超スピードでその場を離れる。
ゴールドシェルクラブは体液をまき散らしながら、風に煽られて仰向けに倒れた。
ズズゥゥン!
しばらくは6本ある足がもがいていたが、次第にその動きもなくなり、完全に停止した。
「ふぅ……なんとかうまくいったみたいだ」
僕はゴールドシェルクラブを倒したことを確認すると、思わずその場に座り込んだ。
「アルノー様!」
振り返ると、いつの間にか近くまで駆け寄ってきていたイリーネが、その勢いのまま僕に抱きつこうとした。
「ちょ、ちょっと待ったあ!」
思わずイリーネを超スピードで避けてしまう。
目標物を失ったイリーネはそのまま砂浜へヘッドスライディングの態勢で滑っていった。
「あ、アルノー様……避けないで下さいよぅ」
「ご、ごめん、ほら僕、泡だらけで汚いから……」
イリーネが寂しそうな顔をする。
そのやり取りを見ながらライナーとシーラも駆け寄ってきた。
「お前、すごいな!」
「さっきは全然、刃が通らなかったのに……どうやってやったの?」
「なんか、バババってよけて下からコイツを浮かせたと思ったら、素手でバキバキッだろ? 人間業じゃないな!」
興奮するライナーを見て苦笑いをする僕。
確かに遠くからだとそう見えるかも。
「イリーネがこの魔獣のことを良く知っていたから倒せたんですよ。イリーネのおかげです」
「あ、い、いえ、私は別に……」
慌てながら否定するイリーネ。
顔を赤くして満更でもなさそうなのが可愛い。
「まぁでも、これで地引網漁は再開されるだろうね、ホントありがとう」
「いえ、お役に立てたなら良かったです。それに、イリーネが絶賛するシザークラブを、僕も食べてみたかったし」
そう言ってイリーネを見ると、嬉しそうに僕を見て笑顔を見せた。
「アルノー様、ゴールドシェルクラブはかなりのレア魔獣で、その素材は市場でかなりの高額で取引されてるみたいですよ」
「そうなんだ、でもどうやって売ればいいんだろう」
僕は朝日で金色に光り輝いているゴールドシェルクラブの死骸を眺めた。
いかがでしょうか。
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