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第33話 海が見える宿


 馬車に揺られること丸3日。

 僕たちはテーベという漁村に辿り着いた。

 村の入り口付近にある馬車乗り場で地面に降り立つと、かすかな潮風が鼻をくすぐった。

 すぐ近くに村の入口であるアーチがあり、そこからゆったりとした下り坂が続いた先には奇麗な砂浜が広がっている。

 道は石畳で整備され、ところどころにレンガ造りの家が経っているのを見ると、村というよりは小さな街という感じだ。

 オレンジ色の屋根が青い空を背景に色彩豊かな光景を作っている。


「素敵な景色……」


 イリーネが思わず口に出した。


「そうだろう、そうだろう。俺たちの両親がやっている宿は少し高いところにあるんだ。ここよりももっといい景色だぞ」


 ライナーの言葉にイリーネは小躍りする。

 僕たちはまず一息つくため、ライナーの家が経営する宿へお邪魔することにした。


「母ちゃん、帰ったぞ!」

「おや、早かったね」


 ライナーの言葉に、調理場にいた母親が玄関へやってきた。

 そして後ろにいる僕とイリーネに気が付いた。


「後ろのふたりは新しいパーティの仲間かい?」

「違うよ、帰りの馬車で知り合ったんだ。部屋は空いてるだろ? お客さんとして迎えてくれよ」

「そりゃちょうど良かった、さっき一部屋キャンセルが出ちまってたんだよ、よくやった我が子よ」


 そう言って母親がライナーを抱きしめた。


「か、母ちゃん、そういうのは良いから」


 僕はふたりのやり取りを少し羨ましく思いながら眺めていた。

 すると隣にいたシーラが軽くため息をつき、カウンターの宿帳を確認した。


「まったくもう、いつもこうなんだから……アタシが部屋に案内するわね、こっちよ」


 僕とイリーネは歩き出したシーラについていき、とある部屋に招き入れられた。

 そこは白いじゅうたんが敷かれ、中央壁沿いに少し大きめのベッド、その先の窓を隔て木の板で出来たデッキが置かれ、椅子が外に向けてふたつ置かれている。

 言われていた通り決して広くはないが、清潔感があり居心地が良さそうだ。

 何より椅子に座って見る景色が最高だった。


「ふわああぁぁぁ」


 イリーネの開いた口が閉まらない。

 僕もこの景色には感動したが、取り急ぎシーラに確認しなければならないことがあった。


「シーラさん」

「はい」

「あの、ベッドがひとつしかないんですが……」

「うん、ここはそういう部屋だからね」

「い、いやいや、もうひとつベッドは用意できないんですか?」

「ベッドはこれしかないし、空いてる部屋もないよ。別に一緒に寝ればいいじゃん」


 あっけらかんと言うシーラに対して何も言えなくなってしまう僕。


「べ、別に私は……床でも寝られますから」

「だってさ、いいメイドさんだよね。食事までまだ時間があるから、良かったら観光でもしてきなよ。道を下った先にある砂浜は一見の価値ありだよ」


 そう言ってシーラは部屋を出て行った。

 残された僕たちは、急に静かになった部屋の中でぎこちなく笑い合った。


「それじゃ、せっかくだから村の様子でも見に行こうか」

「はい、お供いたします!」


 僕たちは宿を出て、下り坂を道沿いにゆっくりと下って行った。

 比較的遠くに見えていた海が近くになるにつれ、イリーネのテンションが上がっていく。

 次第に足取りが速くなり、砂浜が目前に迫るとイリーネは我慢できずに走り出した。


「わあ、アルノー様! すごく綺麗な砂浜ですよ~!」


 僕は初めて踏む砂の感触を味わいながら、これが海か、とひとり感慨にふけっていた。

 砂浜でくるくるとはしゃいでいたイリーネが、唐突に遠くを見つめたまま止まった。


「アルノー様、あれ……洞穴があります」


 イリーネが指さすほうを見ると、長く伸びた砂浜の端は崖が迫り出しており、内陸に向かって穴が開いているようだった。

 よく見ると洞穴の前には松明を飾る灯ろうのようなものが置かれ、そこに見張りがひとり立っている。


「もしかして、あそこが『聖地』かな」

「そんなに遠くないですし、見に行ってみましょうか」


 僕たちは洞穴に向け、砂浜を歩き出した。

 ざくっざくっと足からくる感触が心地よい。

 半刻も歩くと周りはごつごつとした岩が現れ始め、洞穴はすぐ目の前に迫っていた。

 よく見ると穴の前はロープが張られており、『立ち入りを禁ず』の立て看板がある。

 『聖地』で間違いなさそうだ。


「こら、ここは子供の遊び場じゃないんだ、さっさと離れなさい」


 洞穴前にいた衛兵が僕らに声をかける。


「あの、中を見せてほしいんですけど……」

「ここは重要な文化遺産なんだ。許可がない限り入れるわけにはいかないんだよ」


 丁寧に説明してくれる衛兵に対して、僕はポケットから『魔法許可証』を出し、衛兵に提示した。

 すると衛兵はみるみると目が見開いていき、僕に対して敬礼をした。


「失礼しました! お通りください!」

「ありがとう」


 僕らはロープを外した衛兵にお礼を言って、洞穴の中を覗き込んだ。

 中は十分な広さがあるが、少し奥へ行くだけで暗くて何も見えなくなりそうだ。


「中は暗いですが、魔獣の類はいないようです。よかったら、これをお持ちください」


 衛兵がそばにあった松明に火をつけ、僕に渡してくれる。

 なかなか出来る衛兵のようだ。

 僕らは松明を片手に、ゆっくりと洞穴の中を進んでいった。

 海沿いだからか、時折ぴちょんと水滴が落ちる音が響き渡る。

 曲がりくねった道を進むこと数分、前方の異変に気付いてイリーネが声を上げた。


「アルノー様、あそこ、何か光ってませんか?」


 ゆっくりとカーブした洞穴内を進む先に、何やら青白い光が揺らめいている。

 それは僕が以前、オスヴァルド国王と探しに行った洞窟内で見た光に似ていた。


いかがでしょうか。

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