第26話 国王からの提案
「だ、大事な話……ですか?」
僕は飲み物でパンを流し込むと、国王に向かって聞き返した。
「そなたはこれから、どのように生きていくつもりだ?」
思いのほか真剣な表情でこれからの人生について聞かれ、僕は面食らってしまった。
ひとまず、今考えていることを正直に言ったほうが良いかもしれない。
「今日のように聖魔獣の珠を集めに『聖地』を旅してまわりたいと考えてます」
「そうか、もう予定は決めているのか?」
「いえ、まだ具体的には……」
「もちろんひとりで行くわけではないんだろう? 世界各地にある『聖地』の場所はわかっているのか? それに旅をする資金は大丈夫なのか?」
「え、えーと」
立て続けに質問攻めにあい、言葉を詰まらせてしまう。
そこへモニカが助け舟を出してくれた。
「陛下、アルノーへの援助は我がエーベルヴァイン家、キースリング家が可能な限りいたします。私も彼が手に入れる聖魔獣に興味がありますので」
「今、陛下が仰った『聖地』については、ある程度調べがついてますよ」
ヨアヒムが鞄から地図を2枚取り出し、空いているテーブルの上に並べた。
国王は我先にとその地図をのぞき込む。
「こちらが現在の世界地図で、こちらが400年前に滅んだとされる『グレーナリア大国』の地図です。多少違いがありますが、大陸の形をもとに合わせてみると……」
ヨアヒムはふたつの地図を重ねて持ち、後ろから光を当てた。
するとグレーナリア大国の各要所の位置が現代の地図に透けて見えた。
「この印が付いている場所が『聖地』と呼ばれる場所です。主に我が国を中心に周辺国に集中しているようですね」
「ふむ、やはりこの国を出ることは避けられんか」
オスヴァルド国王はぶつぶつと独り言を言った後、僕のほうを向いた。
「アルノー、唐突だがアリシアと結婚する気はないか?」
ブフッ
今度こそ僕は飲み物を噴き出した。
「ぱ、パパ! ななな何を……!」
アリシア王女が真っ赤になって国王を見た。
「もちろん、アリシアの気持ちが最優先だから無理強いはしない。先ほど手を繋いで歩く姿を見て、悪くはないと思ったんだが……」
「そ、そんなことを急に言われましても……」
焦ってしまって二の句が継げない。
僕の顔もきっと真っ赤になってるだろうな。
「正直に言おう、アルノー、そなたを我が王国で囲いたいのだ。そなたの力は味方であれば頼もしいが、敵になればこれほどの脅威はない。そなたとはこれからも仲良くしたい、その為に身内になってほしいというわけだ」
そういうことだろうとは思っていたが、まさか王女との結婚を進めてくるとは思わなかった。
「打算的なのはわかっている。アリシアにも負担をかけてしまうしな。しかし一国の王として、そなたを離すわけにはいかないのだ」
「わ、私は別に……嫌では……ない……です」
アリシアが蚊の鳴くような声で言った。
「そうか、よく言ってくれた。後はアルノーの気持ち次第というわけだな」
そう言ってオスヴァルド国王は僕を見た。
駄目だ、この人の強制力に抗わないと、きっと思うままに進められてしまう。
「あ、あの、そんなに簡単に決められる事ではありませんし、少し考える時間をください!」
「ああ、もちろんいいとも。いい返事が聞けると信じてるよ」
国王はそう言って笑みを浮かべた。
「さて、大事な話は終わりだ! 存分に飲もうじゃないか!」
いつの間にか静かだった会場内に、再び音楽が流れ始めた。
クリストフさん、雰囲気に合わせて演出しなくてもいいですよ……。
僕は難しい宿題を抱えてしまったことに頭を悩ませた。
「ところでイリーネ殿、今日頂いた弁当のことだが」
「ひ、ひゃい!」
ぼーっとしていたのか、国王に声を掛けられイリーネが飛び上がった。
「どれも素晴らしい料理だった。あれは全てイリーネ殿が作ったのか?」
「は、はい、モニカさんの家の調理場を借りて、私が作りました」
「そうか、どれも食べたことのない料理だった。良かったらこれから一品作ってみてくれないか? 是非皆にも振舞ってやりたい」
あわあわするイリーネにモニカが話しかけた。
「イリーネ、言ってやりな。私の料理はそんなに安くないですと」
「いえいえいえいえ! 調理場をお借りします!」
そう言ってイリーネは召使いの案内で調理場へ向かっていった。
クックックと顔を伏せてモニカが笑っている。
程なくして大皿を持った召使いと共に、イリーネが戻ってきた。
「おぉ、これはまた旨そうだな、なんという料理なのだ? これは……」
「調理場に新鮮なレントサーモンがありましたので、直火で焼き上げ、泡立てた卵白とコクのあるシャムルで風味をつけました。下に敷いた蒸かし芋と一緒にお召し上がりください」
皆の前に切り分けられた皿が並ぶ。
率先して口に入れたのは国王だ。
「うむ、カリッとしたレントサーモンの皮と肉厚の身がたまらんな。あふれ出る脂が卵白と蒸かし芋に染みて最高に旨い。さぁ皆も食べてみるが良い」
一口食べた後、皆一様にして幸せそうな顔をする。
この料理は昔、地下室にいた頃にイリーネが作ってくれたことがある。
父にバレないようレントサーモンを手に入れるのに苦労したと笑っていた。
食べている場所が違うせいなのか、昔と比べてずっと美味しく感じる。
「どうだ、美味しいだろう。イリーネ殿の料理の才はこの国の中でも群を抜いていると私は思う」
過剰に褒められ、イリーネは首を横にぶんぶんと振った。
オスヴァルド国王はイリーネの顔を見て言った。
「イリーネ殿は、今はアルノーの世話係をしていると言っていたな。どうだ、宮廷で働く気はないか?」
「え!?」
唐突な勧誘に、イリーネは目が点になった。
いかがでしょうか。
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