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第25話 新たな力


 タイガが消えたのを見届けたのか、先ほど避難した者たちが中庭に戻ってきた。


「アルノー様、契約できたんですね、おめでとうございます!」

「うん、ありがとう」


 イリーネが真っ先に僕のもとへ駆け寄ってきた。

 アリシア王女やヨアヒムもそれに続く。


「早速手に入れた力を見てみたい、何か壊してもいいものはないか?」


 目を輝かせたオスヴァルド国王は周りに向かって声を掛けるが、返答はない。


「ふむ、あれなんかいいんじゃないか?」


 そう言って国王は噴水の横に鎮座している石像を指さした。


「へ、陛下、あの石像はクラウゼヴィッツ子爵より頂いた国宝とも呼ばれるもの、何卒ご容赦を」

「では、あの石碑はどうだ?」

「あ、あ、あれは初代国王様がこの国の礎を築いた記念碑です! どうか、お戯れを……」


 クリストフの言葉にオスヴァルド国王は小さくため息をついた。


「ではあの石碑と同じくらいの岩をここへ持て。急いでな」


 慌てて衛兵たちが岩を求めて四方へ散っていく。

 この行動力と容赦のなさが、この人を国王たらしめているんだな。

 そんなことを考えていると、数分後、3人がかりで岩を持った衛兵がよろよろとやってきた。

 

「よし、では新しい力を見せてくれ」


 僕は岩を置いた衛兵に小さい声ですいませんと謝り、その岩に対峙した。

 これまでの経験上、同じ力でも出し方によって効果の方向や現象が違ってくることがわかっている。

 僕は『影虎の惨爪(エインスラッグ)』を3つの出し方で試してみることにした。


「では、やってみます」


 まずは直接、岩に触れて聖魔力を呼び出してみる。

 右手の人差し指で岩に直接、魔法陣を描き、手のひらを押し当てた。

 極力、抑え気味に。


影虎の惨爪(エインスラッグ)


 ガキガキィッ!!


 僕の手から前方に3本の爪痕のような溝が発生した。

 その溝は岩の表面を10センチ程えぐり、岩の向こう側の地面の土まで、およそ3メートルほど進んで止まった。


「おぉ、岩に亀裂が!」


 周りがざわめいた。

 かなり力を抑えてこの威力だ。

 人に向けて出したら簡単に切り刻んでしまうかもしれない。

 僕はバラバラになる人間を想像して身震いした。


 次に僕は『聖なるつむじ風(スタークル・ウィンド)』と同じように、空中に魔法陣の軌跡を描いてみる。

 描き終わると一瞬、軌跡の先の空気が震えるような気がしたが、特に何も起きなかった。

 なるほど、あくまでも物理攻撃の技だから、空間に対しては威力が出ないのかな。


 最後は僕の手に直接魔法陣を描くやり方だ。

 『鈍風の塊(ウィンド・マッセ)』のように効力を手に宿すことが出来れば、攻撃の幅は一気に広がる。


「すいません、少し離れていて頂けますか?」


 僕は周りに注意を促した。

 皆が離れていくのを確認し、僕は前方に伸ばした右手の甲に魔法陣を描く

 描き終えるのと同時に、右手全体からオーラの揺らめきみたいなものが立ち上った。

 その状態で僕は、岩に向かって勢いよく右手を振り下ろした。


影虎の惨爪(エインスラッグ)!」


 ガキキィッッッ!!!


 岩は僕の右手から出た3本爪の力により、粉々に砕け散った。

 よく見ると岩を貫通し、地面にも穴をあけてしまっている。


 おぉー、と周りから感心のため息が漏れる。

 砕かれた破片が辺りに散らばり、中庭の景観を傷つけてしまったことにハラハラしていると、国王はより一層目を輝かせて、岩の破片のひとつを拾い上げた。


「いや、素晴らしい力だなアルノー! この破壊力は兵器にも匹敵するレベルだ」


 オスヴァルド国王は拾った破片を放り投げると、手を叩いて喜んだ。

 まだそれほど魔力を込めたわけでもないため、全力でやったらどうなってしまうんだろうと僕は少し怖くなった。


「さて、もうひとつの力のほうはどうだ?」

「陛下、既に日も暮れておりますゆえ、また後日に改めてはいかがでしょう」


 そばに歩み寄ったクリストフの助言に、オスヴァルド国王は少し残念そうな顔をした。

 中庭を照らす明かりであまり気にならなかったが、空を見るとすっかりと日が暮れていた。


「クリストフ、会食の準備はどうなっている?」

「数刻前からすでに整っております」

「よし、では皆をそこへ案内してくれ。これから大事な話をしたい」

「かしこまりました」


 僕らはクリストフの指示に従い、会食の準備が出来た広間へ向かった。


「きゃっ」


 途中、アリシア王女が段差に躓きそうになり、僕は咄嗟に彼女の身体を支えた。


「大丈夫ですか?」 

「あ、ありがとう……ございます……」


 さっきまで移動する際は手を取って来たのに、今は彼女が躓くまでそんなことは考えもしなかった。

 女性をエスコートする大変さを痛感する。


「気が利かずにすみません」


 僕は彼女の胸の前に手を差し出した。


「あ……あの、は、はい」


 彼女は緊張したまま僕の手を取ってくれた。

 

「そんなに緊張しなくても、もう聖魔獣の力は手に宿っていませんから」

「ふふ、そうですね、少し遠慮しちゃいました」


 そう言ってアリシア王女は左手を口に添えて笑った。

 僕らは聖魔獣の話をしながら歩くこと数分、会食会場に辿り着いた。

 そこはスポーツが出来そうなほど広い会場で、煌びやかなシャンデリアが辺りを照らしている。

 その中央に50人は座れそうなテーブルと椅子が用意され、華やかな料理が所狭しと並んでいた。

 僕らはその場にいた召使いに促され、それぞれ席に着いた。


「さて諸君、本日は私の我がままに付き合わせてしまって悪かった。お詫びというわけではないが、クリストフに言っていつもより気合を入れて食事とお酒を用意してもらった。存分に楽しんでくれ」


 オスヴァルド国王が皆をねぎらって一言を添えた。

 それが合図となり、会場を彩る華やかな音楽が流れ始める。

 よく見ると会場の壁際に5人ほど弦楽器を持った奏者が音色を奏でていた。

 クリストフが指揮をしている。

 音楽にまで精通しているクリストフに僕は変な笑いしか出なかった。


「アルノー、ちょっといいか、酔っぱらう前に大事な話をしておきたい」


 オスヴァルド国王から真剣な表情で声を掛けられ、僕は口に入れたパンがのどに詰まりそうになった。


いかがでしょうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイガ大きいし、機動力もあるから、騎獣に出来そうですね
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