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第24話 3体目の聖魔獣


 中庭に着くと、既にオスヴァルド国王が今や遅しと待っていた。


 そこは中庭にしては立派な広さで、中央に噴水があり、周りは切り揃えられた芝生が一面に広がっている。

 日が高ければ思わず芝生に寝転がりたくなるだろうが、既に日は地平線付近にあり、辺りを赤く染めていた。

 国王の傍らにはモニカとイリーネの姿がある。


「アルノー、新たな聖魔獣の珠を手に入れたって?」

「はい、これです」


 僕は手に入れた珠をモニカに見せた。

 そばにいるイリーネを見ると、国王の前で緊張して固まっているようだ。

 平民にとって国王に謁見できるチャンスなんて、一生に一度あるかないかだ。

 モニカが助手の名義でイリーネを連れてきたのかもしれない。


「確かにこれは聖魔獣の珠だな、非常に力強い魔力を感じるぞ。念のため、呼び出す前に力の強い衛兵を数人、待機させたほうがいいかもな」

「ふむ」


 国王はすぐにクリストフに命じ、身体の大きな衛兵を周りに配置させた。


「では、始めようか、アルノー」

「はい」


 聖魔獣を召喚するのはこれで3度目だ。

 僕は静かに魔力を集中すると、召喚の呪文を唱えた。


聖魔獣召喚ヘィル・ティア・ヴィーテ


 すると珠が鈍く光り出し、ピシッピシッと亀裂が入っていく。

 それに合わせて珠から強力な圧力を感じた。

 その場に立っているのも辛いほどだ。

 バキバキッと珠が粉々に砕け、中から何かが飛び出したかと思うと、10メートルほど後方へ着地した。

 それは4本足で背中を丸め、こちらを警戒している。


「おぉ、これは……ホワイトタイガーか?」


 オスヴァルド国王が聖魔獣を見てそう言った。

 確かに見た目はホワイトタイガーに見えるが……大きさは3メートル近くありそうだ。

 身体から立ち上るオーラのようなものが、より一層強さを感じさせる。

 さて、ここからが問題だ。

 ヤミィの時のように、口下手な聖魔獣だったらどうしよう。

 何とかして契約方法を聞き出し、無事契約まで漕ぎつけなければ。

 しかし僕の心配は単なる杞憂だった。


「なんだなんだ、随分と人がいっぱいいるな。ワシを呼び出したのは誰だ?」


 よし、ひとまず会話ができることに安心する。

 僕は聖魔獣が見えるように手を上げた。


「ぼく、です……」

「なんと! まだ小童(こわっぱ)ではないか。よくもワシを呼び出せたものだ。感心感心、ワハハハ」


 思ったより気さくな聖魔獣かもしれない。

 アスヴァルド国王を始め、アリシア王女、モニカ、ヨアヒム、イリーネの緊張感が少し薄れていくのを感じた。

 しかし衛兵とクリストフは変わらず警戒を解いていない。

 さすがだ。


「それで、あなたと契約したいんですけど……」

「ふむ、よかろう、ワシも呼び出されたからには魔力供給が必要だからな。だがひとつ条件をつけさせてもらうぞ」


 やっぱり契約には必ず何か条件が必要なんだ。

 ウィンディは僕を気に入ることで条件を満たし、ヤミィは定期的にワインを与えることが条件だった。


「む、条件とは……何をすればいいのだ?」


 オスヴァルド国王が僕の代わりに聖魔獣に尋ねた。


「ふふん、簡単なことよ。ワシが仕えるのはワシより強い者のみ。ワシの攻撃を耐えきったらお前に仕えてやろう」


 そう言って不気味な笑みを浮かべた。


「ちょっと待て、アルノーはまだ子供だ。こちらで助っ人を出しても良いか?」

「好きにするがいい。何人集めたところでワシの速さに追いつける者はいない」

「よし、カート、ゲーブル、ふたりでアルノーを守れ。怪我をさせるなよ」

「かしこまりました」


 衛兵のふたりが僕の前に立った。


「準備は良いか? では行くぞ?」


 そういうや否や、聖魔獣の姿が消えた。


「え?」


 そして後方寄り、左右の壁に同時に何かが激突する音が聞こえた。


 ズズウゥゥン!


 瞬きをする間もなく、衛兵のふたりは壁まで吹っ飛ばされた。


「だから言ったであろう、ワシの速さを目で追える者はいまい。ちなみにひとつ教えてやる。聖魔獣は基本、自分自身で能力を使うことはできない。今のは速さによる衝撃波のみで吹っ飛ばしたのよ」


 予想外の出来事に驚いたが、僕にはあるアイデアが閃いていた。

 僕は固まっている皆に向けて声を掛けた。


「陛下、皆さんを中庭から避難させてください。僕だけで聖魔獣と向き合います」

「あ、アルノー、大丈夫か?」

「はい、何をやろうとしているのか、詳細はモニカさんに聞いてください」

「わかった、皆、一度城の中へ戻るぞ」


 そう言って僕以外の人は城の中へ避難した。

 聖魔獣は姿勢を低くしてこちらを狙っている。

 僕は前方の空中に大きく魔法陣を描き、それを両手で受け止めるポーズを取った。


「フハハハ、ワシの攻撃を受け止めるつもりか、なかなか度胸のある小童(こわっぱ)だ。気に入ったぞ。次の攻撃に耐えることが出来たら、お前に仕えてやろう」


 そう言うと聖魔獣は姿勢を低くし、後ろ足に力を込めた。

 僕は両手を突き出したまま、聖魔獣を向き合う。

 フッと聖魔獣が消えたかと思うと、ものすごい突風が吹き荒れた。

 そして両手に軽い衝撃を感じる。


「たあ!!」

「ッッッ!?!?」


 聖魔獣は一瞬にして僕の手に跳ね返り、城の屋根の一部を破壊して空へ消えていった。

 キラッと星が瞬いたように見える。

 城の中から一部始終を覗いていた人には、何が起きたのかわからなかったと思う。

 その時、裏口の扉が開き、国王とモニカが中庭にやってきた。


「なるほどな、今のはウィンディの力だろう?」

「はい、鈍風の塊(ウィンド・マッセ)です。衝撃を吸収して跳ね返す技なので、きっとうまくいくだろうと」

「あの凄いスピードを跳ね返したというのか……聖魔術とはなんという力なんだ」


 オスヴァルド国王は驚きと感心が入り混じったような表情で僕を見た。

 僕の力ではなく聖魔獣の力なので、国王からの賛辞に照れてしまうが、それでも誇らしく思ってしまう。

 その時、中庭中央に魔力が集まり、ホワイトタイガーの形になった。


「むむぅ、いったい何が起きたというのだ。気が付けば空を飛んでおったぞワシは」


 僕は聖魔獣に種明かしをした。

 ウィンディの話を聞いた途端、聖魔獣は高らかに笑いだした。


「ワハハハハ、ウィンディの嬢ちゃんと既に契約しているとはな、合点がいったわ。よし、ワシもお前と契約するぞ。今与えられる力はふたつだ、覚えるがいい」


 聖魔獣は手の肉球を僕の額にぷにっと押し当てた。

 頭の中にふたつの魔法陣が浮かぶ。

 どちらも一筆書きで書けるものだ。


「ひとつは影虎の惨爪(エインスラッグ)、ワシの爪で物理的な攻撃ができる。その辺の岩ならコナゴナに砕けるだろう。そしてもうひとつは獅子躁妓の理(フェイトラーゲン)、お前の身体能力が高まる技だ。ワシのように消えるほど速くなることはないが、人間の限界は超えられるかもしれんな」


 これは凄い力が手に入った。

 早く試してみたくてウズウズしてしまう。


「ではこれでワシは帰るぞ。ワシの名前は『タイガ』、困ったことがあったら呼び出すがいい」


 そう言ってタイガは消えていった。


いかがでしょうか。

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