表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/40

第21話 遺跡の探索


 次の日の朝、僕はベッドの中でイリーネの息遣いを感じて目を覚ました。

 身体を押さえつけられているような感覚に目を開けると、目の前にイリーネの顔が迫っている。


「ひやぁぁぁ!」


 僕が急に目を開けたことにびっくりしたのか、イリーネはベッドの上から足を踏み外し、ドテッと床に落ちた。


「すすすす、すいません! 決して不埒なことをしようとしていたわけじゃあ……」


 顔を真っ赤にするイリーネ。


「おはよう、イリーネ、凄い音がしたけど、大丈夫?」


 僕は笑顔でベッドの上から手を伸ばした。

 イリーネは恐る恐るその手を取り、立ち上がった。


「あ、あの、アルノー、様の……寝顔を見てたらですね、つい……」


 もじもじとするイリーネはこれまであまり見たことがない。

 なんだか僕も一緒になって照れてしまう。


「き、着替えを用意しておきましたので、お召しになりましたらお声掛けください!」


 そう言ってイリーネはすごい勢いで部屋を出て行った。

 この前まで僕の着替えを手伝ってくれてたのに、今日はそっけなくされてしまった。

 何か心情の変化でもあったのかな。

 僕は着替えを終えて部屋の外に出ると、モニカが勢いよく階段を上がってきた。


「おい、アルノー! お迎えが来たぞ!」

「あ、モニカさん、ありがとうございます」


 慌てて洗面所で顔を洗い、玄関へ向かうと、イリーネがお弁当を持って待っててくれていた。

 

「アルノー様、これよろしかったら皆さんで食べてください」

「わあ、いいの? ありがとう」

「わ、私にはこれくらいしか出来ませんから」


 玄関を開けて、初めてその異変に気付いた。

 門の前に馬車が止まっている。

 それを遠巻きに見守る野次馬の数が尋常じゃなかった。


「やあ、アルノー、迎えに来たぞ。早速行こうじゃないか!」


 僕はその声の主を見て噴き出した。


「お、お、お、オスヴァルド国王陛下! み、自ら僕を迎えに来たんですか!?」

「そりゃそうだろう、そなたはこの国の宝になるかもしれん逸材だ。放っておくわけはあるまい」


 はっはっはと高らかに笑う国王陛下。

 思いのほか気さくな国王のようだ。

 馬車の扉を開けると、中には困った顔で笑うヨアヒムの姿があった。


「ではモニカ・エーベルヴァイン殿、アルノー殿をお借りするぞ」

「に、煮るなり焼くなりお好きにされるが良いかと……」


 僕は生贄か。

 僕と国王、そしてヨアヒムを乗せた馬車は、多くの野次馬が集まる中、ゆっくりと出発した。

 この後のモニカの対応を考えると、心から申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 馬車はアルダムール城のそばを迂回すると、そのまま山道へ入っていった。

 山道とはいえ道は石畳で整備されており、遺跡の近くまでは馬車に乗ったまま行けるらしい。

 僕はヨアヒムと国王陛下の何気ないやり取りを耳にしながら、感じた疑問を口にした。


「国王陛下とヨアヒムさんってどういう間柄なんですか?」


 するとオスヴァルド国王は気さくに返答した。


「キースリング家は前国王である私の父と親交が深く、子供だった私も同年代のヨアヒムとは良き遊び仲間だったのだ。父が亡くなり私が王位を継承した後も、信頼関係は変わらないからな。むしろ今では私のほうから知恵袋として傍にいてほしいとわがままを言ってるのだ」


 そうだったのか……。

 それを聞いてヨアヒムが少し照れている。


「陛下は子供の頃から無茶な遊びをよく思いつかれて、それを止めるのが僕の役目だったんですよ。今では陛下と坊ちゃん両方の家庭教師という立場ですね」

「はっはっは、では私とアルノーは同じ生徒同士というわけだな」


 アスヴァルド国王は愉快そうに笑った。

 とても恐れ多くて、僕は苦笑いしかできなかった。


「さて、着いたようですよ」


 ヨアヒムの合図で僕は馬車を降りた。

 そこは鬱蒼とした林を抜けた先にある開けた場所で、岩肌にぽっかりと洞穴が開いていた。

 その洞穴の入り口には装飾された柱と扉が設置され、衛兵ふたりがそれを見守っている。

 馬車から国王が降りるのを見て、衛兵は一斉に敬礼した。


「ああ、あまり畏まらなくてもいい。今日はお忍びのようなものだからな、入り口を開けてくれ」

「は、少々お待ちを!」


 衛兵が重い扉をギギギと開けていく。

 僕は国王自らモニカ邸へ派手にやってきたことを思い出し、どこがお忍びだと心の中で突っ込んだ。

 洞窟の中は幅と高さがそれぞれ5メートル程はあり、大人が飛び跳ねても問題ない広さだった。

 ひんやりとした空気が頬に刺さる。

 ヨアヒムは持ってきたランタンに火を灯すと、先頭を歩き出した。


「陛下はここへ来るのは初めてですよね。それほど深い洞窟ではありませんが、最奥に巨大な空間があり、そこに祭壇があります。まずはそこを目指しましょう」


 そうヨアヒムは解説する。

 僕と国王陛下はその言葉に頷きながら、暗い洞窟を進んでいった。

 すると先の暗闇からキィキィと小動物の鳴き声と羽ばたき音が聞こえた。

 途端に3匹のこうもりがこちら目がけて飛んでくる。

 目が赤く光り、明らかに敵意を持った行動だ。

 それを見たオスヴァルド国王は腰に差した短剣を抜き、飛んできたこうもりを一刀両断にした。


 ズバババッ!


 順番に3匹のこうもりは地に落ちた。


「どうだ、まだまだやるだろう」


 国王は満足げだ。


「さすが陛下、剣の腕は衰えてはおりませんね」

「この程度の魔獣なら私ひとりでも大丈夫だな……ん?」


 耳を澄ますと奥から再び羽ばたき音が聞こえてきた。

 今度は数匹どころではない、恐らく数百匹はいるだろうか。

 もはや羽ばたき音ではなく、ゴオォォと空気のうねりを感じる。


「さ、陛下、先ほどの剣技でズバッと……」

「出来るか!」


 一旦退却しようと陛下が言う前に、僕はふたりの前へ出た。

 そして奥の暗闇に向かって、魔法陣の軌跡を描く。


聖なるつむじ風(スタークル・ウィンド)


 空中に書いた軌跡から、らせん状に風が巻き起こる。

 その風は洞窟内を隙間なく進み続け、飛んでいるこうもりを巻き込んで壁や床に叩きつけるだろう。

 暗くて先は見えないが、こうもりの断末魔のような鳴き声とともに羽ばたき音が徐々になくなっていき、やがて聞こえなくなった。


「これが風の聖魔獣の力か、すごい威力だ……」


 オスヴァルド国王は驚いたようだ。

 洞窟内で出すのは初めてだったので、だいぶ魔力は抑えて出している。

 僕は以前、災害級の竜巻を起こしたことは黙っておくことにした。


いかがでしょうか。

一部でもこの物語が良いと思われましたら、「ブックマーク」や「評価」を是非ともお願いいたします!(評価は広告下の【☆☆☆☆☆】をクリックすることで行えます!)


本作品を最後まで楽しんで頂けるよう、全力で頑張りますので、是非ともよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ