第19話 宮廷からの呼び出し
次の日、僕とイリーネ、モニカの3人は再び試験会場へ足を運んだ。
受付につくと、昨日対応してくれた受付嬢が気付き、僕のそばまで駆け寄ってきた。
「ハルトムート様、大変申し訳ありません。『魔法使用許可証』ですが、手配が難航しておりまして、しばらくお時間が掛かりそうです」
え、どういうこと?
と問いかけようとした矢先、壁際に立っていた初老の男性に声を掛けられた。
「そなたがハルトムート殿ですかな? 私は宮廷執事卿のクリストフと申す者です。こちらに来ればお会い出来ると聞いて、お待ちしておりました」
突然の声掛けに固まってしまう僕。
綺麗な白髪に整ったあごひげ、スラリとしたタキシード。
上品な立ち居振る舞いは、まるでローレンツさんを思わせる。
「ほっほっほ、驚かせてしまって申し訳ない。実はそなたの『魔法使用許可証』の発行に、待ったをかける人がおりましてな、少し話を伺わせて頂きたいのです。馬車を用意してありますので、一緒に来て頂けますかな?」
そう言って出口へ向かって歩いていくクリストフ。
僕は困ってモニカのほうを見ると、彼女はすごい勢いで首を縦に振り、ついていくよう視線で合図をした。
戸惑いながらもクリストフについていく。
「よろしい、何も危害を加えるつもりはありません。用事が済み次第、屋敷までお送りしますので、お連れ様はお先に帰られるがよろしいかと。では、失礼します」
出口で振り返ったクリストフはそう言って深々とお辞儀をし、僕を促しながら建物を出ていく。
「宮廷執事卿といえば王族の世話係だ。許可証の発行に待ったをかけるなんて、何事もなければいいんだが……」
モニカは出口を見ながらそう呟いた。
◇◆◇◆◇
僕が乗った馬車はオルテール訓練所を離れ、整備された石畳を軽やかに進んでいく。
「それで、僕を呼んだ人はなんという方なんでしょう」
「それはお会いされて確かめるのがよろしいかと」
クリストフは何度確認しても、依頼主については教えてくれなかった。
一体、誰なんだろう。
僕は強烈に思い当たる節があり、少しうんざりしていた。
昨日、最後まで場を賑わしていた、ヘンリック・クラーバルだ。
僕らが屋敷へ帰った後に、何か権力を使っていちゃもんを付けたのかもしれない。
ニクラスに対しては評判を落とすことに成功したが、ヘンリックは貴族社会の中でもやり手だと聞いたことがある。
一筋縄ではいかない分、復讐を果たすにはもっと力を付けてからにしたい。
「ほっほっほ、もうすぐ目的地が見えてきますよ」
クリストフの言葉を聞いて、僕は馬車の窓から前方を見た。
先ほどまでの騒がしい雰囲気とは違い、一面を整備された花壇が広がっている。
その先には高い塀が延々と続き、馬車が向かう前方に仰々しい城が見えてきた。
「え”……」
もしかして、アルダムール城……?
横を見るとクリストフはニッコリと微笑んだ。
僕は緊張で胃が痛くなってきた。
帰りたい……。
城に着くとクリストフは僕を城内へ導いた。
高い天井からはシャンデリアが下がり、装飾が施された壁に大理石の床と、これまで見たことのない世界が広がっていた。
緊張しながら彼の後をついていくと、ひとつの部屋の前で立ち止まった。
「こちらにあなたをお呼びした方がいらっしゃいます」
そう言って扉をノックした。
僕は緊張し、下を向いたまま彼が開けた扉をくぐる。
「こんなところまでお呼びだてしてすいません」
その声に懐かしさを感じ、僕は顔を上げた。
「お久しぶりです、魔法試験の結果、聞きましたよ、坊ちゃん」
「ヨアヒムさん!」
ソファから立ち上がり、両手を広げて僕を歓迎したのは、僕の家庭教師のヨアヒムだった。
「え、ここって王様が住むお城ですよね、なぜこんなところに……?」
「坊っちゃんには私の本職については言ってなかったですね。では改めて、宮廷外務卿のヨアヒム・キースリングです」
そう言ってヨアヒムは右手を胸に当て、お辞儀をしてみせた。
「外務卿と言っても、主に情報を管理して国のために役立てるのが私の仕事です。表向きはしがない辺境の男爵と言うことになっていますけどね。だからここにいたことは誰にも話しちゃだめですよ?」
ヨアヒムはペロッと舌を出した。
そんなすごい人が僕の家庭教師をしてくれていたなんて……。
「でも、どうして僕をここに……?」
「坊ちゃんの試験の内容を昨日、師匠から連絡頂いたんです。それで坊ちゃんが使った聖魔術のことで是非とも確認したいことがあって。では行きましょうか」
そう言ってヨアヒムは僕を部屋の外へ促した。
僕が使った聖魔術……漆黒の空間のことだろうな。
どうしよう、もし何か問題があって『魔法使用許可証』が発行されなかったら……。
僕はヨアヒムの後をついていきながら疑問を口にしてみた。
「ヨアヒムさん、『魔法使用許可証』の発行、もしかして駄目だったんですか?」
「許可証? いいえ、試験に合格された方には必ず発行されますよ」
「え、でも待ったが入ったって……」
「ああ、坊ちゃんはハルトムートの名で試験を受けたでしょう、その名で許可証が発行されると、今後、身分証明の際に混乱するかと思って、一旦止めさせて頂いたんです。坊ちゃんは『アルノー』様のお名前のほうが慣れ親しんでいるでしょう?」
言われてみれば確かにそうだ。
このまま発行されたら、今後はハルトムートの名をずっと使い続けることになっていた。
ヨアヒムは大きな扉の前に立ち止まると、衛兵に僕を連れてきたことを告げた。
そして扉を前に僕の横に立ち、小声で僕に話しかけた。
「坊ちゃん、私と同じように振舞えばいいですからね」
「え?」
「陛下、ヨアヒム様並びにアルノー様がお見えになりました!」
「うむ、入るがよい」
扉の向こうから威厳のある声が聞こえた。
いかがでしょうか。
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