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第18話 ハルトムートの正体


 観覧席では闘技場に突如現れた黒い球体にどよめいていた。

 これまで膨大な熱と光を発していた塊は、すっぽりと黒い空間に覆われ、中からはなんの音も聞こえない。


「えーっと、い、一体何が起きたのでしょうか! 私も避難していましたので、詳細を見ていませんでした!」


 お姉さんが戻ってきて再び実況を始めた。

 何が起きたのかわからないのは観客も一緒で、一様にざわめき出す。

 しかし一番驚いているのはもちろん、炎の塊を作った本人だった。


「な……なんだこれは……」


 ニクラスがあんぐりと口を開けたまま黒い空間を見つめている。

 効果のわからない漆黒の空間(アイゼン・サヴァ)を使うのは正直、賭けだったが、炎のかけらが降り注いでいないということは、うまくいったと考えてよさそうだ。

 やはりこの黒い空間は、魔力へ大きな影響を及ぼしている。


「お、お前! いったい何をやったんだ! 僕の降り注ぐ炎の刃(メテオ・ストライク)をどこへやった!」


 ニクラスが黒い球体を見ながら叫んだ。

 全ての魔力を使い果たしたのか、これまで陽炎のように身体から立ち上っていた魔力は消えている。

 僕はニクラスのそばへ近づき、こちらへ振り向いた彼の顔を思いっきり殴りつけた。


 ボグッ


「ぐえっ!」


 ニクラスは2メートルほど飛んで地面に突っ伏した。

 その時、制限時間が来たのか、黒い球状の空間はそのまま空気に溶け込むかのように消えていった。

 炎の面影は一切なく、晴れ渡る空が広がっている。

 僕はそれを確認すると、倒れている彼の胸ぐらを掴んで引きずり起こす。


「ひいっ!」

「ニクラス! 自分が何をやったかわかっているのか!? お前はこの会場にいる全員を傷付けようとしたんだぞ!?」


 ニクラスは鼻血を出しながら、涙ぐんだ目で僕を見た。

 その目の中の瞳孔がみるみると開いていく。

 まるでお化けでも見たような表情で、彼は唇を震わせた。


「お、お前……あ、アルノー……?」


 僕はハッとして顔に手を当てた。

 仮面がなくなっている……。

 周りを見渡すと、先ほどまでニクラスが立っていた辺りに外れた仮面が転がっていた。

 さっき彼が振り回した手がこめかみに当たった際に、仮面が外れてしまったようだった。

 ここにきて正体がバレるとか……。

 やり場のない憤りを感じ、僕はもう一発ニクラスを殴っておいた。

 キュウとその場で倒れるニクラス。


「おーっと、直接対決の結果、軍配はハルトムートに下ったようです! 第386回、魔法実技試験の優勝者はハルトムートだあああ!!!」


 お姉さんが実況すると、それまでざわついていた観客は一斉に歓声を上げた。


 ウオオオォォォ! 


 いいぞー、ハルトムートォ!!

 炎の玉を封じてくれて助かったぞー!

 やっぱり俺の娘を嫁にー!


 様々な歓声を一身に浴びる。

 僕はこの会場にいる皆を守れてよかったと思う気持ちと、ニクラスに正体がばれてしまった焦りがごちゃまぜになり、微妙な笑みを浮かべていた。

 そもそも実技試験なのに『優勝』とはなんだろうと疑問を持ちながら。

 そんな中、聞き覚えのある声が耳に届いた。

 畏怖の象徴として忌み嫌っていた声だ。


「お、お前、アルノーなのか!?」


 一番近くの観覧席から身を乗り出してこちらを見ているのは、僕を地下室へ幽閉した張本人であり、僕の父親でもある、ヘンリック・クラーバルだった。

 考えてみれば、ニクラスの晴れ舞台だ、見に来ているに決まってる。

 彼は驚きつつも、何とも言えない表情で僕を凝視した。

 僕は彼から視線を外し、少しでも距離を取ろうと後ろを向いて歩き出す。


「お、おい、アルノーなんだろう? おい、そこのスタッフ、そいつは私の息子なんだ、こっちに連れてきてくれ!」


 歩き出した僕にスタッフが駆け寄るが、僕は他人の空似だとそのスタッフに伝え、その場を離れた。


「なんでそのまま行かせるんだ、使えないスタッフだな、そいつは私の息子なんだ、早く引き止めろ!」

「クラーバル様、あなたの息子はそちらで救護を受けているニクラス様でしょう」

「何を言っている、そんな恥知らずは知らん、アルノーこそが私の跡を継ぐに相応しい子だ、早く呼んで来い!」


 遠くから聞こえてくる声を無視し、僕はボルツの案内に従って闘技場から出て行った。

 暗い廊下を歩いていく中、いつまでも闘技場の歓声が聞こえてきていた。



◇◆◇◆◇



「やりましたね、アルノー様!!」


 受付まで戻ると、イリーネとモニカ、ローレンツが僕を待っててくれていた。

 イリーネが勢いをつけて僕に抱きつく。


「あ、ありがとう、イリーネ」

「アルノー様なら、あのにっくきニクラスをぶっ飛ばしてくれると思ってました!」


 そう言って僕の顔に胸を押し付ける。

 こ、このままでは窒息してしまいそうだ。


「素晴らしい内容でしたよ。アルノー様がこれほどの魔力持ちだとは、このローレンツ、見誤っておりました」

「そうだろう、アルノーは私が発掘した試金石だからな、こんなに面白い逸材は他にはいない」


 ローレンツとモニカも僕を褒めてくれる。

 僕はやっとイリーネの胸から顔を外すと、モニカに対して謝った。


「モニカさん、すいません……漆黒の空間(アイゼン・サヴァ)、使ってしまいました」

「気にするな、私も同じ立場なら使っている。結果オーライだ」


 そう言ってモニカは笑った。


「それに原因を作ったのはニクラスだ。お前はあの馬鹿から全員を守ったんだぞ? もっと誇っていい」


 そう言ってもらえて、胸のつかえが取れた気がした。

 そんなやり取りをしていると、モニカの後ろから受付嬢がやってきて、僕に向かって一礼した。


「おめでとうございます、ハルトムート様。試験は全て合格となります。『魔法使用許可証』については、本日手配をいたしますので、また明日、こちらにお越し頂けますか?」


 僕はその言葉に頷くと、気になっていたことを聞いた。


「あの、僕とニクラス以外の受験者はどうなるんでしょう……今回の実技試験はあまりにも一方的だったので、これで不合格というのは可哀そうで……」


 受付嬢は少し考え込むと、顔を上げて言った。


「そうですね、ボルツ試験官に後程、確認いたしますね。ハルトムート様からの口添えがあったことを申し伝えておきます」


 そういうと受付嬢は仕事に戻っていった。


「さて、早く帰って祝杯でも挙げようじゃないか。ここにいると余計な奴が来そうだしな」


 余計な奴と聞いて僕は身震いした。


「あ、そういえば終わった後にクラーバル家の旦那様が騒いでましたね」

「まったく、今さらどんなツラ下げて話しかけられるんだか。何かあっても無視していいからな、アルノー」

「はい、今さらあの家に戻るなんてあり得ないですから」


 僕らはローレンツが手配した馬車に乗って屋敷に戻った。

 この時はまだ、次の日に起こるとんでもない事態に気付いていなかった。


いかがでしょうか。

一部でもこの物語が良いと思われましたら、「ブックマーク」や「評価」を是非ともお願いいたします!(評価は広告下の【☆☆☆☆☆】をクリックすることで行えます!)


本作品を最後まで楽しんで頂けるよう、全力で頑張りますので、是非ともよろしくお願いいたします!

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