第15話 筆記試験の結果
「その元気は実技試験まで取って置け。まずは筆記試験で良い点を取るんだな」
試験官はそう言うと、いきがるニクラスを放ったまま、試験用紙を配り始めた。
「まずは筆記試験だ。あまりに点数の悪いものはこの場で不合格にするからな。実技試験については、筆記試験が終わった段階で説明してやる。では始めるぞ」
試験開始と同時に僕は全ての問題を最初から最後まで眺めた。
全体の半分は魔力の基礎、そしてもう半分はこの世界の常識や魔力に関する歴史問題になっていた。
『今から1000年以上前に栄えていた古代文明は、現在の魔力とは違う稀有な能力を持って、非常に高度に栄えていたという。だが今からおよそ400年前に、一夜にして文明が消え失せている。今のところ原因は解明されていない』
地下室で幽閉されていた時に、何度も繰り返し読んだ本の内容だ。
僕には本を読む時間だけは有り余るほどあったため、恐らく数千冊の本の内容が頭の中に入っている。
この筆記試験の内容も、結局は本の知識を書き写すだけで事足りてしまう。
僕は解答用紙を全て埋め、試験が終わるまでじっと待っていた。
「時間だ、みんなペンを置け」
試験官の言葉に、一斉に張り詰めていた空気がゆるむ。
「この場で採点するから少し待て」
全員分の解答用紙を集めた後、ボルツはひとりひとりの解答用紙を撫でてはその内容を見ていく。
恐らくさっきの転写の能力を使って、簡単に採点できるんだろう。
どんな魔力でも使い道があるんだなと感心してしまった。
「よし、順位が下のものから発表するぞ、6位は45点のミアン、5位は56点のドルックだ」
両隣に座っていた女の子と男の子が同時にがっくり凹む。
ニクラスは自信があるのか、余裕の表情だ。
「4位は60点のフラウ、3位は72点のゲルト」
「やっぱり俺の敵はいないな、雑魚ばっかりだ」
嬉しさのあまりか、ニクラスが勝利宣言をする。
「ニクラスとやら、お前なかなかやるな。88点の2位だ」
ふふんと鼻を鳴らしたニクラスだが、2位という言葉に浮かべていた笑みが消えた。
「1位はハルトムート、100点満点だ。すごいなこれは」
ボルツは興奮している。
「今回の筆記試験はあまり公にしていない魔力の歴史から出題している。これを知っているのは王宮貴族か学者くらいだと思ってたが、こんなところで正解に出会えるとは」
「ちょっと待てやあああ!」
ニクラスが突然大声を上げた。
「俺が2位だって? いやそんなことはいい、この中にハルトムートがいるんかい! 誰や! お前か!?」
そう言って隣に座っていたゲルトの胸ぐらをつかんだ。
「おい、暴力をふるったらその場で不合格にするぞ」
「……ちっ」
ボルツの言葉に煮え切らない様子でゲルトの胸ぐらを離すニクラス。
僕はニクラスの態度に苛立ちを感じながらも必死に耐えていた。
「お前がハルトムートに対して何を憤ってるのかは知らんが、せっかくならそれを実技試験で活かせ。次は全受験者一斉の模擬戦闘をやるぞ」
「えええ!」
「うそでしょ?」
女の子から悲鳴が上がる。
ボルツの言葉にニクラスは嫌な笑みを浮かべた。
「よっしゃ、俺の実力を見せる時が来たぜ。おい、ハルトムート、あの時逃げたのを死ぬほど後悔させてやるからな」
そう言って全員の顔を順番に流し見するニクラス。
こんな下品で野蛮なやつに魔法を使わせてはいけない。
自分が合格することも大事だが、ここでクラーバル家に最初の復讐を見舞ってやる。
僕はこれまでのやり切れない思いを、全てニクラスにぶつけてやろうと心に決めた。
「よし、では実技試験の会場へ移動するぞ」
僕たちはボルツの指示に従って、隣にある円形闘技場へ移動した。
石造りの暗い廊下を延々と歩いていく。
肌寒さからか緊張からか、皆一様に身体を縮こまらせている。
ニクラスだけは偉そうに肩を切って歩いているが。
「さぁ、あの扉の向こうが実技試験会場だ。驚くぞ」
そう言ってボルツは金属でできた重い扉を力任せに押した。
ギギギギと軋み音を鳴らせて扉が開く。
その扉から漏れる光に目を細めながら一歩を踏み出すと、そこは日の光が降り注ぐ、大きく開けた場所だった。
屋根はなく、円形の広場の周りには階段状に観覧席が設けられている。
まさに本で読んだ通りの闘技場の形だ。
観覧席には所狭しと客が並び、皆僕たちに注目していた。
ウオォォォォォ!
闘技場の出口から出てきた僕たちを見て、観客は一斉に盛り上がった。
マスクで顔を隠しているとはいえ、この歓声には少し怯えてしまう。
「どうだ、気持ちいいだろう? 今日はこれまでで一番客が入っているらしいぞ。一体誰目当ての客なんだろうな」
ボルツは観客をぐるっと見渡すと、近くにいた女性に合図を送った。
その女性は待ってましたと言わんばかりに、会場に向けて大きな声を張り上げた。
「お待たせいたしました! 本日の受験生の入場です!」
会場が異様なほど盛り上がる。
あの女性は魔力で声の音量を上げることができる能力だとボルツが説明する。
なるほど、これから僕たちの状況を客に知らせる役割なのか。
「本日はこれまでとは違い受験生が6名しかいません! そこで今回はこれまでと趣向を変え、実技試験を全員参加のバトルロイヤルといたします!」
オオオオオオォォォォ!
歓声が耳に痛い。
「本日ご観覧のお客様は、恐らく貴族の皆様ならびに新しい人材の発掘を目的とした冒険者の方々が多いことでしょう。存分に若き力を見定めください。ちなみに観覧席の前には魔法障壁が張られているため、お客様に被害が及ぶことはありません」
これはまさにショービジネスだ。
僕たちにとって大事な免許取得の工程を、お金を取って見世物にするとは……。
だがこれにより市民には娯楽を提供し、貴族には情報を、冒険者には勧誘の機会を与え、更に国庫を潤わせるとなると、この国のやり方は上手いといえる。
納得はできないけど。
「それでは準備は良いですかぁ?」
そう言ってアナウンス役の女性がこちらを見た。
僕たちは慌てて距離を取る。
「では、第386回、魔法実技試験、開始ィィ!」
ついに実技試験が始まった。
いかがでしょうか。
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