第13話 新たな聖魔獣を召喚する
「準備は出来たか?」
次の日、僕とモニカは再び、ウィンディを呼び出した開けた野原にきていた。
目的はもちろん、新しい聖魔獣を召喚するためだ。
2体目の聖魔獣とうまく契約できるかどうか、僕は少し緊張していた。
「そういえば、イリーネさんは今日は見に来ないのか?」
「あ、ええ、イリーネはローレンツさんの元で執事としての修行をしたいと昨日聞いてますから」
「そうか、彼女も影ながらお前の役に立つために努力してるんだな」
それを聞いて僕は少し胸が熱くなった。
この召喚、なんとしてでも成功させなきゃ。
「では、行きます!」
モニカはその言葉を聞いて数歩下がり、珠を凝視した。
「聖魔獣召喚」
僕がそう口にすると、急にズンッと重苦しい空気が流れ、僕の周辺が薄暗くなった。
なんだか息苦しい気持ちになってくる。
ウィンディを召喚した時とは全然違う現象だ。
重苦しい緊張感に耐えていると、うっすらと地面に映った僕の影が立体的に伸び、僕の目の高さまで盛り上がった。
同時に薄暗さは消え、目の前にある直立した影だけが残る。
まるで辺りの薄暗さを影が取り込んでしまったような感覚だ。
よく見るとその影は人の形をしていた。
「あ、あの……」
僕が話しかけようとすると、その影の目が開き、僕をじっと見つめた。
見た目は黒い影なのに、なんとなくシルクハットを被り、マントを付けているように見える。
非常に紳士的な立ち居振る舞いだ。
「えーと、あなたはなんていう名前ですか?」
「…………」
「あの、力を貸してほしいんですけど……」
「…………」
駄目だ、何を聞いても返事がない。
もしかして口がきけないのだろうか。
「すいません、あなたと契約したいんですが……」
「…………」
「僕の言ってること、わかりますか?」
「…………」
影は目だけは僕に向けたまま、何も反応しない。
僕は困ってモニカに視線で助けを求めた。
しかしモニカは聖魔獣の観察に集中し、僕のサインには気付いていない。
その後もいろいろと話し掛け、10分ほど経った頃だろうか、さすがにモニカが痺れを切らして話しかけてきた。
「文献を調べてみたが、影から出てくる聖魔獣は載っていないな。まぁ文献に乗っているものが全てではないだろうが……」
「このままじゃ埒があきませんね、モニカさんは少し木陰で休んできたらどうですか?」
「そうだな、少し喉を潤すとしよう」
モニカが木陰に置いておいたカバンからワインの瓶を取り出すと、聖魔獣の影の首がグイッと動いた。
「え?」
再び見ると聖魔獣の影は元の位置に戻っている。
が、目線がワインの瓶を追っているのがわかる。
もしかして……。
「モニカさん、ワインを注いだグラスを頂けますか?」
モニカが持っているワインから、その影はじっと見続けていた。
これはもう決まりだ。
僕がグラスを受け取ると、影はもう隠すことなくワイングラスに向けて顔を近づける。
いじわるすることなく、僕はそのままワイングラスを影に差し出すと、マントから影の手が出てきてグラスを受け取り、美味しそうに飲み干した。
影は一瞬恍惚な表情を浮かべると、すぐに真顔に戻った。
「私は……ヤミィ……そなたと……契約……する」
「あ、ありがとう!」
とても口下手な聖魔獣だが、どこか憎めない。
ヤミィの手が僕の額に触れると、ウィンディの時のように頭の中にマークがひとつ浮かんできた。
「これは、どういう聖魔術なの?」
「一定……範囲……闇……漆黒の……空間」
暗闇にする効果かな?
どこまで使えるかわからないけど、とりあえず練習したほうが良さそうだ。
魔力を込めようとしたその時、ヤミィが話しかけてきた。
「私……帰る……また……ワイン……ほしい」
そう言ってシルクハットを軽く持ち上げて礼をすると、再び影の中へ戻っていった。
人見知りの聖魔獣もいるんだと妙な感心をしてしまう。
少し親近感がわいてしまった。
僕は気を取り直して、改めて魔力を込め、空中に今覚えたマークの軌跡を描いた。
ちなみに空中に軌跡を描いても効果が出ることは、先日の練習で実証済みだ。
「漆黒の空間!」
初めてなので気持ち魔力を抑え気味にする。
すると僕の前方5メートルほどの範囲を円形状に黒い霧のようなものが覆った。
わずかに中が透けて見える程度の暗さだ。
僕はそっとその霧に触れてみるが、特に感触はない。
試しにその黒い霧の中へ入ってみると、夜を迎えたように真っ暗になった。
自分の手足さえも見えない……なるほど、これは暗闇だ。
そのまま10秒ほど経った頃、その黒い霧は空中に霧散し、視界が戻ってくる。
「わずかな時間だけど、一定範囲の視界を奪えるんだ。使い方次第では強力な武器になるかも」
「いや、そんなもんじゃないぞこれは」
モニカが難しい顔をして僕を見た。
「私の持っている魔力適性についてはまだ言ってなかったよな。『魔力を見通す目』と言って、あらゆる魔力を見通せるんだ。アルノー、君の魔力適性を見つけたのもこの力だ」
そうだったのか……。
だから彼女はこの若さで魔法管理局の役職に就いているのか。
「その私から見て、先ほど君が黒い霧の中に入った時、君の魔力を見失った。私に掛かれば、この街にどんな魔力を持つものがどこにいるのか正確にわかるんだが、先ほどの時間、君の魔力だけ明確に消えたんだ」
「えーと、どういうことでしょう」
「『漆黒の空間』は一定範囲を暗闇にするのではなく、その中に入った魔力自体に何らかの影響を与えている。どんな副作用があるかわからんから、霧の中に入るのはやめたほうがいいかもな」
言われてみて、確かに少し怖くなってきた。
ヤミィに詳しく聞きたいけど、あの口ぶりでは難しいだろうな。
「少し私に研究させてくれないか? 王立図書館にまだ調べ切れていない文献があるはずだ。結論が出るまでこの力は使わないようにしてくれ」
「そ、そうですね、わかりました」
理解していない力を使うほど怖いことはない。
残念だけど、僕は一旦ヤミィの力は寝かせておき、ウィンディの力を重点的に訓練することにした。
魔法試験まであと5日、その時はあっという間にやってきた。
いかがでしょうか。
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