第11話 魔法の試験
「うわあ、あれが王都ですか……!」
馬車に乗って数日後、僕らはついに王都へ辿り着いた。
左右を見渡す限り高い壁が延々と続き、正面の門も桁外れに大きい。
「どうだ、ちょっとした要塞だろう? 中も君がいた街とは比べ物にならない規模だぞ」
地図上でしか見たことのない都市を目の当たりにして、僕は知識とのギャップに驚きを隠せなかった。
馬車は正門前で一度止まると、衛兵とのやり取りの末、街の中へ入っていった。
「ようこそ、王宮都市アルダムールへ」
すれ違いざまに衛兵が声を掛けてくれた。
石造りの整備された道路をガタガタと馬車が移動していく。
建物はレンガ造りが多く、いたるところに植えられた樹木が美しい景観を演出している。
ゆっくりと流れる風景を見ているだけで、人の多さやお店の数の違いを感じる。
「このまま私の屋敷まで行くからな。気になるお店があったらチェックしとけ、後で買い物に来よう」
モニカの言葉で、しばらくここで生活する事実を改めて意識する。
こんな人が多い場所でやっていけるかな……。
僕も少しずつ人に慣れていかないと。
「あ、アルノー様! いま素敵な雰囲気のパン屋さんがありましたよ! 後で一緒に行きましょう!」
イリーネは楽しそうだ。
そんな彼女を見てつい笑みを浮かべてしまう。
そのまま馬車はお店が多い表通りを通り過ぎ、落ち着いた住宅街の一角で止まった。
「さて、着いたぞ、ここが我が家だ」
馬車を降りながら目を向けると、そこにはこじんまりとした屋敷が建っていた。
見た感じ、ヨアヒムの屋敷の半分にも満たない。
とはいえクラーバル領で見た一般の人の家とは比べ物にならない大きさだけど。
「小さい屋敷でガッカリしたか?」
僕は咄嗟にぶんぶんと首を横に振った。
「私はあまり無駄なことにお金を使いたくなくてね、寝るだけならこんな広い屋敷も必要ないと言ったんだが……」
「いえいえ、それは違いますよ、お嬢様」
屋敷の玄関が開き、ビシッとしたスーツを着た男性が現れた。
「ローレンツ、今戻ったぞ。今日からこのふたりも住まわせるからな、準備を頼む」
「承知いたしました」
ローレンツと呼ばれた男性は、玄関へ向かうモニカへ一礼すると、僕たちに笑顔を向けた。
「ようこそ、エーベルヴァイン邸へ。私、執事のローレンツと申します。普段よりモニカ様のお世話をさせて頂いております」
そう言ってローレンツは奇麗にお辞儀をした。
年齢は40歳くらいだろうか……前髪を後ろに流して固め、整った顔立ちに薄い眼鏡を掛けている。
背が高く、所作を見る限りではとても若々しく見える。
「あの……おひとりでモニカさんのお世話を?」
イリーネがローレンツに質問した。
やはり同じ世話係として、気になるのかもしれない。
「ええ、私は彼女が爵位を頂く前からの知り合いでして、いわゆる腐れ縁というやつですね。さ、立ち話もなんですから、こちらへ」
僕とイリーネは案内されるまま、屋敷の中へ入った。
無駄な調度品もなくシンプルな佇まいだが、中は清掃が行き渡っており、ランプはもちろん階段の手すりに至るまでピカピカに磨かれている。
屋敷としては小さいほうかもしれないが、愛情をもって手入れをしているのがすぐに分かった。
「まぁこの家が奇麗に保たれているのもローレンツのおかげだしな、感謝はしているよ」
「ありがとうございます、お嬢様」
「だからその『お嬢様』というのはよせ、モニカでいい」
「そういうわけにはまいりません。私は『お嬢様』と呼びたいがために執事になったのですから」
そう言ってローレンツは頭を下げた。
この人もなかなかの性格をしている。
そんなやり取りを見ていると、開いた玄関の隙間から声が聞こえた。
「あーーー! 室長、いるじゃないですか!」
玄関に目を向けると、そこには白衣を身にまとったひとりの青年が立っていた。
モニカを凝視し、指をさしている。
「うげ、もう見つかったのか」
「見つかったのか、じゃないでしょう、室長がいない間、仕事が溜まりまくっているんです。今すぐ研究室へ戻ってもらいますからね!」
そういうとその青年はモニカを後ろから羽交い絞めにして、ひょいと持ち上げた。
「あ、こら、何をする!」
モニカは宙に浮いた足をじたばたさせるが、その青年は何事もなく玄関を出て行った。
もう何度も繰り返しているのか、手慣れた手つきだった。
「あ、そうだ、ローレンツ! ふたりを『オルテール訓練所』へ案内してやってくれ! 次回の試験を受けさせたい!」
既に屋敷の門から出ようとするモニカが大声で叫んだ。
「かしこまりました」
ローレンツは誰もいなくなった門に向かって頭を下げた。
◇◆◇◆◇
僕らはローレンツの案内で街の郊外にある職業訓練施設、『オルテール訓練所』へやってきた。
こじんまりした施設をイメージしていたが、受付の建物の横に円形上の巨大な建造物が繋がっていた。
ローレンツに話を聞くと、ここでは魔力の適正を持つ者が魔法の試験を行うのと同時に、衛兵や冒険を生業とする者の実技訓練を行う場所として使われているようだった。
ってことは、この円形状の施設は、客席が配置された闘技場ってことかな。
僕は以前読んだ書物に書いてあった内容を思い返した。
「魔法の職業試験はおよそ100日に1回行われます。次回は8日後のようですね」
入り口に貼ってあった広告を見てローレンツが言った。
「どうです? 受けられるのであれば、これから受付を済ませてしまいましょうか?」
「え、えーと、試験ってどんなことをするのかな?」
僕はローレンツに質問した。
「申し訳ありません、そこまでは存じ上げておりませんでした。せっかくですので少しお話を聞いていきましょうか」
そう言ってローレンツは入り口から中へ入っていった。
僕たちもそれに続く。
受付窓口では奇麗なお姉さんが対応してくれた。
「はい、魔法試験は筆記試験と実技試験になります。実技試験は主に魔法を見せてもらうことになりますが、試験官によっては模擬戦闘を行って頂く場合もございます」
「ちなみに、次回の参加者は何人ですか?」
「えーと、現時点では5名となりますね。普段であれば20名ほどは集まるんですが、今回は特に少ないようです」
イリーネが僕に耳打ちする。
「アルノー様、人数が少ないほうが、あまり目立たずに合格できるかもしれませんね」
「確かに……そうかも」
僕は名目上、キースリング家の従兄弟ということになっている。
免許を取る際もその名前で取ったほうがいいだろうとモニカから助言ももらっていた。
「あの、次回の試験、受けたい、です……」
「はい、かしこまりました。ではこちらの受付書類に記載をお願いします」
こうして僕は受付を済ませ、8日後の試験を受けることになった。
もしかしたら少し考えればわかることだったのかもしれない。
次回の受験者が少ない理由は、僕が一番会いたくない人物が参加表明していたからということに。
いかがでしょうか。
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