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第1話 僕、実家から追放される

「まったく、お前など生まれてこなければよかったものを……」


 イシュテリア王国の端に位置する辺境の領主、クラーバル家。

 その領主の長男として生まれた僕は今日、14歳の誕生日を迎えた。

 物心ついたころからずっと屋敷の地下に幽閉され、これまで日の光をほとんど浴びたことがない。

 一度、興味本位で地下を抜け出し階段を上がった幼い僕は、1階の廊下で父に見つかり、ひどい体罰を受けて死にそうになった。

 それ以来、怖くて階段にすら近寄れない。 


「ごめんなさい……」


 数か月ぶりに顔を見た父から辛らつな言葉を投げられ、僕は咄嗟に謝った。

 何に対して謝っているのか自分でもわからない。

 が、この人に逆らえば酷い扱いを受けるのは明白だ。

 ふんっと父は鼻息を荒くし、僕の姿を眉をひそめながら一瞥した。


 これまで幽閉された僕の身の回りの世話は専属のメイドが行ってくれていた。

 そのため生きるのに支障はないが、それ以外では僕に行使できる権利はなにひとつなかった。

 僕の生きる世界はこの20平米ほどの薄暗い地下室の中だけだ。


 父は改めて僕をじろりと睨みつけると、吐き捨てるように言った。


「長年かけてお前に魔法の家庭教師をつけてやったのに、結局成果はないままだったな。魔法の素質がない者は我が家には必要ない。今日をもって親子の縁を切る。この屋敷を出て行き、くだらない人生を送ると良い」


 どうやら僕はこの家から捨てられてしまったようだ。

 この国では魔力を持った者が国の要職に就くことが多い。

 誰でも魔力を手に出来れば、平民から一気に貴族に伸し上がることも可能だ。

 ただし一般的に魔力は遺伝により両親から受け継がれることが多いため、その結果、この国は魔力を要する貴族と、魔力を持たない平民という貧富の差が大きく出ることとなった。

 誰もが魔力を夢見る反面、貴族は遺伝により魔力が子に受け継がれないと、爵位に影響を及ぼしてしまう。

 滅多にないことだろうが、魔力を持っていない僕という存在はクラーバル家にとって邪魔でしかないわけだ。


「いいかアルノー、お前という存在を知る者はこの世界にほとんどいない。今後お前が生きようが死のうが構わん、だが決してクラーバル家の名前を口にするな」


 父は蔑むような眼で僕を見ると、階段を上がっていった。

 僕も父の後を追うようにゆっくりと階段を上がる。

 途中で部屋を振り返るが、特に思い入れもない無機質な部屋が広がっていた。

 僕はこんな場所で14年間も過ごしていたのかと怖くなった。


 階段を上がると玄関の窓から刺す光に僕を目を細めた。

 幼少の頃以来に見る風景に気を取られていると、横から嫌悪感をあらわにした声が聞こえた。


「うわ、まだ居たのかよ、もう死んだのかと思ってたぜ」


 僕のひとつ下の弟、ニクラスだった。

 たまに僕を蔑むためだけに地下室へ見物に来た意地の悪い少年だ。

 無論、兄弟という感覚は僕にはない。


 ニクラスは僕と違って生まれながらにして大きな魔力を有していた。

 僕らはもともと、国家の要職に就いている父親と、王都の魔法専門学校で理事を務めた母親との間に出来た子供だ。

 生まれてくる子供への周りからの期待は想像以上だったらしい。

 しかし、生まれてすぐ行われた魔力検査の結果、僕には魔力が無いことが判明した。

 両親はひどく落胆し、魔力検査の結果を公表せず、僕の存在を無いものとした。

 その後、期待を背負った弟は、僕の分まで受け継いだのかと思うほどの膨大な魔力を持って生まれた。

 結果、我がクラーバル家は、屋敷に幽閉され死んだことになっている兄と、世間からチヤホヤされ、丸く太った生意気な弟といういびつな家庭となったのだ。


「やっとアルノーが出て行くのか、これでこの家も安泰だね、パパ」

「ああ、後はお前が私の跡を継いでくれればな」


 僕は初めて父の笑顔を見た。

 こんな表情をするのかと半ば驚いていると、横からニクラスの蹴りが飛んできた。


 ドガッ


 思わず床に突っ伏してしまう。


「ボケッとしてんな! 早く出て行けよ! 門から出るのを人に見られるなよ!」


 どうしてこんな目に合わされているんだろう。

 魔力を持たない人間は生きる価値などないとでも言うのだろうか。

 僕は悔しい気持ちを押し殺し、門へ向かって歩き出した。

 ニクラスはイライラしながら僕が出て行くのを見守っている。

 門までたどり着くと僕は振り返って屋敷をくまなく見渡した。

 細部まで記憶するように。

 そして一息つくと、僕はふたりに対して声を掛けた。


「弟よ、こんな兄でごめんな。父上、今までありがとうございました」

「なっ!」


 右手を胸に当て軽く頭を下げた体制で、皮肉たっぷりにお礼を言う。

 悔しさを晴らす目的もあったが、これは僕なりのケジメだった。

 クラーバル家にはいつか恨みを晴らしに来る。

 その憤りこそが僕がこれから生きていくために絶対に必要になる。


「こ、このやろう!」

「待てニクラス、放って置け」


 気持ちで負けたら立ち上がれなくなる。

 僕は頭を上げると、ふたりの顔を見て笑みを浮かべた。

 そう、僕はやっとこの牢獄から解き放たれ、自由を手にしたんだ。

 これからは僕の行動を咎める人もいない。

 もっと前向きにたくましく生きて行ってやる。

 僕は街の中心部に繋がる緩やかな下り坂を、悠々と歩き出した。


いかがでしょうか。

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