パーティー結成!
翌日の昼前。
「あうー。頭が重いです」
「俺も体の節々が痛い……」
二人は良好とはいえないコンディションで、冒険者ギルドの前に立っていた。
山田は建物を見上げる。
「これさ、どうみても野球場だよな?」
冒険者ギルドはレンガ造りの野球場のような形をしていた。
「そりゃそうですよ。冒険者ギルドですから」
「この世界の冒険者ギルドは、みんな立派な野球場なのか?」
「冒険者ギルドが全て野球場というのはそうですが、ファンボーケンの冒険者ギルドは中でも特別です。普通はこんな立派な球場じゃないですよ。ここはルーキーレベル帯で最大の街ですから、冒険者ギルドも大きいのです。一年間に数試合だけですが、ここではメジャーリーグの試合も行われるんですよ? 地方巡業ってやつですね」
二人はアーチ状の入口をくぐってギルドの中へと入る。
中は石床の広い空間だった。木製の机が並び、冒険者と思われる人々が食事をしたり、昼から酒を飲んだりして話に興じていた。そしてやはり、ここにも大きな水晶玉が置かれていた。野球中継を見る為の魔道具。昨日の酒場と似た雰囲気だ。
野球場の外形に合せているのだろう、奥の壁面は緩やかな弧を描いていた。壁沿いにはカウンターが並び、職員が控えている。カウンターとカウンターの間には階段があり、陽の光が差し込んでいた。どうやらあそこが野球場のグラウンドに繋がっているらしい。
山田はその光景に既視感を覚える。現実世界で足繁く通った、プロ野球の球場によく似ていた。
「この広間は冒険者たちの為の集会所です。私も初めて入ります。お金を払えば食事をすることもできるそうですよ」
机の合間を歩いて奥へと進み、二人は『魔道具販売』と看板に書かれたカウンターの前に立った。
「さて、今からイッキューには、クラスチェンジをしてもらいます。昨日私は考えたのですが、あなたには『魔法使い』になってもらうのが良いと思うんです。野球をやるには魔力のステータスが重要です。ゼロでは話になりません。なので欠点を補うために、それらの成長率が高い、『魔法使い』になるのが良いと思うのです」
「魔法使いか。熱いな」
なにしろ魔法である。アニメ好きの山田としてはテンションが上がった。
「ただし、役割としては前衛を期待します。力のステータスは高いので、ルーキーレベル帯ならそのままでも十二分に通用するはずです。あなたは魔法使いだけど戦士として活躍してもらいます。わかりましたか?」
「あぁ。つまり魔法戦士ってことだな?」
「それは違います」
あっさりと否定されて悲し気な顔を浮かべる山田を捨て置いて、ルーチェはカウンターにいた男性職員に話しかけ、紫色の宝石のようなものを購入した。
山田はルーチェが支払った金額に驚いた。
昨日の支払いの際に得た知識によれば、この世界の通貨の単位は『ベイス』であり、昨日の食事代は2人合せておよそ3000ベイス。
そして今ルーチェが払った金額は、5万ベイスだった。まだ金銭感覚は無いも同然だが、それでも、それが高額な代物であるということは理解できた。
二人は近くにあったテーブルに移動して、向かい合って座る。
「随分と高いものを買ったな?」
「仕方ありません……。初期投資というやつです」
「それは?」
「『願いの魔石』です。人の願いに反応し、願いを増幅する力があります。一般的にはクラスチェンジに利用される魔道具です」
「クラスっていうのはどういう理屈なんだ?」
「その生命が属するカテゴリーのようなものです。それまでの生き方が反映されて、ある時を境に自然とクラスに分けられます。私は小さい頃から神を信奉していたので、『神官』になったという具合です。そうありたいと願うことがクラスを決定づけるとも言われています。クラスを同じくする者は『理の水脈』で無意識化で繋がり合い、習得可能なスキルや、ステータス上昇傾向を共有します。集合的経験則とも呼ばれていますね」
(よくわからんが、要するにRPGみたいなもんか……)
山田はそのように理解した。
ルーチェは『願いの魔石』を山田に渡す。
「これを使って、今から『魔法使い』にクラスチェンジをしてもらいたいのですが、『魔法使い』という言葉の意味するもののイメージは、あなたの中にありますか? 『魔法使い』になった自分を、イメージすることはできますか?」
「あるぞ! できる!」
やはり山田は二つ返事である。
それに自信もあった。なにしろオタクだ。妄想するのは得意なのだ。
杖を持ち、魔法を操り、モンスターと戦う自分の姿をイメージする。
かっこいい。胸が高鳴る。最高だ。
「では、それを持って、魔法使いになりたいと強く願ってください。その願いに反応して、クラスが変わるはずです」
「わかった」
山田は『願いの魔石』を握り締めて、願う。
魔法使いになりたいと。
すると間もなく『願いの魔石』は光を放った。
ルーチェは早速羊皮紙を取り出して、「”能力転写“」と唱えた。
「ちゃんと魔法使いになれたか? 特に変化は感じないんだけど」
「大丈夫です。ほら、ばっちりですよ」
ルーチェは羊皮紙を山田に見せた。
表示されたステータスの【クラス】の項目が『魔法使い』に変わっている。昨日はステータスしか記載されていなかったのが、その下に樹形図のようなものも追加されていた。
「これなんだ?」
「それはスキルツリーです。スキルポイントを消費して、クラスに応じたスキルを習得できます。ま、今はレベル1なので関係ないです。レベルが上がったら検討しましょう。それより、転職祝いです。イッキューにこれをあげましょう」
ルーチェは鞄をごそごそと漁って、金属製の杖を取り出した。鞄の容量よりも長い杖。
「どうなってるんだよ? その鞄」
「拡張の魔法が付与されてるんですよ。私の師匠に頂いた魔道具です」
ルーチェは金属製の杖を差し出した。
「はい、これがあなたの武器です。打撃を優先した杖。私のおさがりの安物ですが、無いよりかはマシでしょう。魔法使いは杖を装備することでステータスにボーナスが付きますから」
山田は受け取ってマジマジと眺める。
長さも重さも、使っていた金属バットと同じくらいだった。持ち手もバットのグリップに似ている。予告ホームランをするように杖を構えてみた。
「いいなこれ」
山田は一発で気に入った。
〇
それから二人はギルドの受付で冒険者の仮登録を済ませた。山田はルーチェの召喚獣として登録したが、受付は人間の召喚獣という異例の存在に驚いていた。
二人は掲示板の前に立ち、掲示されている大量のクエスト発注書を眺める。
「どれが良いんだかさっぱりだな……」
『ゴブリン退治』や『初級森林迷宮の攻略』といったRPGのような依頼もあれば、ドブさらいや配達といった雑用、商人の護衛依頼などもある。
「急に王道の異世界転生っぽくなったな……」
「王道? どういうことです?」
「いや、こっちの話だ。それでご主人、どうするんだ?」
「我々は入団テストの資格を得ることが目的です。なので、あの判子が押されたクエストをクリアしたいところですが……」
ルーチェが指差した依頼書には、『入団テスト受験資格』という判子が押されていた。
「入団テストって?」
「冒険者ギルドに正式登録するための、野球の実力を図るテストです。あの判子のある課題クエストを達成できれば、実力が一定の水準にあると認められ、入団テストを受けることができます。合格したら、晴れてルーキーリーグに所属する冒険者です。次のテストは一週間後。どうせならそれまでに課題クエストをクリアしたいところですね」
「なるほど……」
観察していると、『入団テスト受験資格』の判子が押されているのは全て迷宮攻略系のクエストで、どれも【推奨レベル】10以上【推奨人数】4~5人と書かれていた。
「うーん、2人だけでは厳しそうですね。推奨レベルと推奨人数は守れと、私の師匠に口を酸っぱくして言われましたし。死なないことが、メジャーへの一番の近道だと」
「じゃあ、仲間を集めるか?」
「そうですね。そもそも冒険者は、最大で5人のパーティーを組んで活動するものです。入団テストもリーグの昇格もパーティー単位で行いますし、今後のことを考えても仲間を探すのが得策でしょう。張り紙でもして、仲間を探しましょうか。入団テストまで時間もないので、フリーの人はなかなかいないでしょうけど……」
「ご主人はどんな人が良いんだ?」
「断固として女性が良いです!」
ルーチェはグッと両拳を握る。
「なんでだよ?」
「私は男の人に苦手意識があるのですよ……。別に何かされたってわけではないのですが、小さい頃から忌避感がありまして。だいたい、男なんてパーティーにいたらめんどくさいですよ! 野球を志す者に、異性との交流など不要なのです!」
「おい。俺は良いのかよ?」
「イッキューは……ゴブリンですから」
ルーチェはそう言って、にっこりと笑った。
――その時。
「はああぁぁぁっ!? 解散ってどういうことよ!」
不意に、集会所に大きな女性の声が響いた。
何事かと、集会所にいる皆が一斉に、声の方向に視線を向ける。男2人と女2人のパーティーが、クエスト報告カウンターの前で言い争っているようだった。
男の方は、真面目そうな戦士と、柔和な顔つきの神官。
女の方は、胸の大きな金髪のエルフと、とんがり帽子を被りローブをまとった魔法使い。
男女ともに若い。声を張り上げているのはエルフの少女の方だった。
「ちょっと摘まんでみて、飽きたらすぐにポイってこと!? 最低よ! 遊びだったのっ!? それがあんた達のやり方なわけっ!?」
「おい! 人聞きの悪いことを大声で言うな! 試しに昨日、1回パーティーを組んで近場に出かけただけだろうがっ! その結果、なんというかほら、ちょっと違うかなーって思ったから、もう組むのは止めようって言っただけだろ?」
戦士の男はたじたじと後ずさった。
その様子を見ていた冒険者一行が、山田たちの隣で、ひそひそと囁くのが聞こえてくる。
「おい、あれ。最近噂の、ネタエルフとポンコツ魔法使いだろ……?」
「あぁ……。やつら見ない顔だから、知らずに仲間に誘ったんだろう……。見た目だけは2人とも綺麗だからな」
確かに2人とも、人間離れした美しい容姿をした少女だった。
エルフの方は人形のように整った顔立ちをしており、長い金髪をなびかせる様は、まさに幻想の世界に住む妖精のようだ。背中には弦楽器を担いでいた。非常に大きな胸が、動くたびにたゆんたゆんと揺れている。山田は思わず見とれた。けしからんエルフである。
魔法使いの方は、やや身長が高いスレンダーな少女だった。髪の色は銀髪で、肩にかかる程度の長さ。何より特徴的なのは理性の光をたたえた双眸。とても知的な雰囲気を漂わせている。こちらも美少女だが、表情が乏しく、さながら氷の彫刻のようであった。
エルフは男たちに詰め寄った。
「ちょっと違うって何よ! そんなふんわりした理由で解散なんて認めません!」
「いや、ほら、それはさ、方向性の違いというか、そんな感じだよ。昨日の分の報酬は山分けしたんだから、それでいいだろ?」
歩いて距離を取ろうとする戦士の肩を、エルフはガシっと掴む。
「良くないーっ! こっちはね、3日ぶりにパーティーを組めたの! もう入団テストまで時間もないし、逃がさないんだからっ! 方向性の違いとか、そんなふわっふわな理由で納得できるわけないでしょ!」
「ええいっ! 離せ! オブラートに包んで言ってやったんだろ! じゃあはっきり言うけどな! 使えないんだよっ! お前! 首だ首っ!」
「んな……っ!」
エルフは目を見開いて絶句する。
「落ち着いて。彼女は彼女なりに頑張っていた。もう一度チャンスをあげるべき」
魔法使いの少女が表情を動かさずに、男の肩を掴んで、たしなめるように言った。
「おい。何しれっと自分はこっち側みたいな顔してるんだ。お前もだよ! このポンコツ魔法使い! 俺は2人まとめて首だって言ってんの!」
「な……」
魔法使いの少女は口を半開きにして、その場で凍ったように固まった。
「でも、でもでも! でもでもでもっ! 入団テストまでもう時間ないのよ!? 良いの!? 私たちを逃したら、もうパーティー見つからないかもしれないのよ!?」
神官の男が申し訳なさそうな顔で言う。
「あー。ごめんね。実は昨日、昔からの知り合いにパーティー組もうって誘われてさ。それもあってのこの話なんだ」
「おい。言うなよ」
「隠し事は良くないだろ?」
「なによそれーっ! 裏切り者じゃないのーっ!」
「薄情もの」
「あぁもう、うるせぇ! とにかく俺たちはもう行くから! あとは2人で頑張ってくれ! それじゃあな!」
「ごめんね~」
神官の男が最後に手を合せて申し訳なさそうに謝ると、二人はそそくさと立ち去って行った。
取り残される少女が2人。
それを見て山田は決意した。
「よし……。誘うか」
「〈待ってください〉!」
山田の体が淡く光り、ピタと足が止まる。ルーチェは山田の前に両手を広げて立った。
「今のやり取りを見ていて、なんでそうなるんですか!? 明らかに地雷臭がするじゃありませんか!」
「だって、さっき自分で、フリーの人はなかなかいないだろうって言ったじゃん。あの二人なら行けそうだろ? どっちもご主人が望む女だし!」
「とはいえですよ! 何もあんなのと一緒に組むことないじゃないですか! もう少し探してみてもいいでしょう!?」
ルーチェは声を張り上げて、背後を指差した。
「俺は初球から積極的に打っていくタイプだから」
「もう少し球を見極めることを学んでください!」
「…………あ」
その時、山田は気づいてしまった。ルーチェの背後で、がっくりと肩を落とす少女たちが、自分たちの方を見ていることを。あれだけ大声を出したのだから無理もない。
目が合った。完璧にロックオンされている。
エルフと魔法使いはつかつかと接近してきた。
「エルフの方は、脳の栄養が全部胸に吸われてるんじゃないかってくらい阿呆っぽいですし、魔法使いの方もあんな言われ方をするなんて、何か致命的な欠陥があるに決まってます!」
「おい。止めろって。人のことを悪く言うのは、良くないぞ?」
山田はすかさず梯子を外した。
エルフと魔法使いはルーチェのすぐ後ろまで来ると、肩を同時に掴んだ。
「ちょっといいかなー? 誰が阿呆なのかなー?」
エルフはニコニコと笑みを浮かべている。
「後にしてください! 私は今、このおバカなゴブリンに、説教をしているのです!」
「それはゴブリンじゃない。人間の男。欠陥があるのはあなたの目では?」
魔法使いの少女は抑揚のない声で言った。
ルーチェはゆっくりと後ろを振り返る。
「……あ」
そこでようやく、彼女は『あんなの』に話しかけられていると気付いた。
〇
集会所のテーブルに4人は座って向き合っていた。ルーチェは最後まで渋っていたが、エルフが昼飯をご馳走すると言うと簡単に折れた。ルーチェはむぐむぐと美味そうにハンバーガーを頬張っている。意外とちょろい女である。
「まずは自己紹介をしようかしらね。ノアはノアって言います。気軽にノアって呼んでね。30歳のうら若きエルフ。レベルは11。得意なポジションはセンター、ですっ」
ノアと名乗ったエルフは、ピースを作って顔の前に持ってきた。実にあざといジェスチャーである。話し方もきゃるるんとしていた。
豊かな胸がたゆんと弾み、山田はつい目が行ってしまった。
「30って、どういうことだ?」
山田は率直に聞いた。とてもそうは見えない。
「エルフやドワーフは長命種と言って、寿命が長いのです。だいたい人間の倍です」
ノアの代わりにルーチェが答えた。
続いて魔法使いの少女が平坦な胸に左手を当てて言う。
「ボクはドレミィ・ロック。魔法学園の出身。見ての通り魔法使い。レベルは11。得意なポジションはピッチャー」
どうやら自己紹介で得意なポジションを言うのが、冒険者としては当たり前のようだった。ルーチェもハンバーガーを飲み込んで、自己紹介をする。
「私はルーチェ・フルーリィ。召喚士で、神官です。レベルは10。得意ポジションはキャッチャー。今日、冒険者の仮登録をすませました。こちらの男はイッキュー。私の召喚獣です」
「人間の……召喚獣ぅ?!」
ノアは素っ頓狂な声を上げた。
「珍しい」
ドレミィも表情が乏しいが、驚いている様子だった。
「召喚の際に選んだ魔法陣は投手の魔法陣。昨日召喚したばかりなのでレベルは1ですが、ステータスの高さはモンスターの召喚獣と比べても、さほど遜色はないはずです。魔力は0ですが……」
「ゼロぉ!? しかも人間なのにモンスター並の初期ステータスぅ?! なにそれ! そんなことってあるの!? ホントにぃ?」
ノアは目をぱちくりとさせて山田を見た。
「これが証拠です」
ルーチェはステータスの書かれた羊皮紙を取り出して2人に見せた。
「……魔力が0じゃ、まともに野球ができない。ボクのこと欠陥があるとか言ってくれたけど、キミ達にも十分欠陥がある」
「……うぐ。そこに関しては、そうですね。ただ、対策として魔法使いにクラスチェンジさせました。レベルが上がれば魔力が上がってくれると信じています。それに、その他のステータスが高いということには納得してもらえるでしょう? 戦士のようなものだと思ってください」
「……確かにステータスはモンスターの召喚獣と同等。特に力の高さは異次元。戦士としてなら、ルーキーレベル帯では即戦力」
「戦士! それは良いわね!」
ノアはパンと手を叩いた。
「戦士、魔法使い、神官、ノア。なんてバランスの取れたパーティー! それじゃあこの4人で、これから頑張りましょう! ぱちぱち~」
「ちょっと待ってください。そういえば、あなたのクラスは何ですか? 何がノアですか。ふざけてるんですか?」
「えー。ノアのことはぁ、別に良いじゃないですかぁ?」
ノアは前髪を弄って横を向いた。
「ノアは道楽師」
「ちょっとドレミィ! 何であっさり言うのーっ!? また避けられちゃうじゃないの!」
「ずっと隠すのは無理。最初から言った方がマシ」
「道楽師って……冒険者には向かないクラスじゃないですか。あはは。やだなぁ、その辺でドブでもさらっててくださいよ」
ルーチェはにこやかな笑みでさらりと毒を吐いた。
「何をーっ!? 道楽師でも良いじゃないの! 楽器弾いたり、歌ったり、皆を楽しませたりするのが好きなんだから、しょうがないでしょ!」
「では歌手にでもなれば良いのでは? なぜ冒険者に? 道楽師の場合、スキルポイントは人前で歌っているだけでも上がるでしょう?」
「ノアは野球もやりたいの! 良い?! ノアはね、世界で一番野球が上手い歌手になるのが目標なの! メジャーリーグのお立ち台に立って、ヒーローインタビューで歌を歌うのよ! それがノアの目標!」
ノアはグッと拳を握り締めて言った。
バカな目標だと山田は思う。
しかしノアの瞳は真剣そのもの。本気でそれを叶えようとしている目だった。
笑うことはできなかった。人の抱いた目標は、神様でも笑うことはできないのだ。
ルーチェにも真剣さが伝わったらしく、「むう」と黙ってしまった。
「面白いやつじゃんか。ご主人」
山田はノアのことが気に入ってしまった。同族の匂いがする。
「でも、仲間を面白いかどうかで判断するわけには……」
「俺だって魔力0って欠陥があるんだし、お互い様じゃないのか? むしろ俺たちと組んでくれる人なんて、なかなかいないんじゃないか?」
「それはまぁ……そうかもですけど」
「それに、こっちのドレミィさんって魔法使いは凄くまともそうじゃん。俺も一応クラスは魔法使いなんだし、先輩の魔法使いに色々と教えて欲しいんだけど?」
「ド、ドレミィで良い。そう言われると……嬉しい」
相変わらず無表情だが、僅かに俯いている。先輩と呼ばれて照れているようだった。
「わかった。ドレミィ。俺のことも気軽にイッキューと呼んでくれ!」
山田はルーチェに耳打ちをする。
「なぁご主人、俺の経験上、あぁいう話し方をする無表情なキャラは、有能な奴が多い。ドレミィはきっと実力者に違いないぞ」
「なんですか、どんな経験ですか、それは?」
「アニメの視聴経験だ」
「……はぁ?」
結局、その後もルーチェは渋っていたが、山田が乗り気になったことで三人に押し切られ、まずは一度、近場で簡単な討伐クエストに出かけてみようということになった。
山田にとってはようやく初めての冒険である。心が躍った。