野球工房体験
翌朝。パーティーは停留所から乗合馬車に乗り、街の中央から端の方にある工房地帯へと向かった。もちろん、野球工房体験に行くためである。
乗合馬車は馬2頭で引く2階建ての大きな馬車で、ほとんどバスと言っても良いサイズだった。最初のうちは山田たちしか乗客がいなかったが、工房地帯が近付くにつれて人が増え、到着する頃には車内はギュウギュウ詰めになっていた。
目的の停留所へと着き、乗合馬車から降りて少し歩く。
「ここが『サンライト』の野球工房ですね」
辿り着いたのは、赤褐色のレンガの壁が美しい、巨大な建物。壁面にはサンライト社のロゴがでかでかと描かれていた。乗合馬車から降りた人間は、建物の中へと続々と吸い込まれていく。大勢の人が働いているようだった。
一行がぽけっと建物を見上げていると、恰幅の良い男性が近寄ってきた。
「おはようございます。ルーチェさん達ですね? ようこそいらっしゃいました」
「おはようございます。今日から来週まで、お世話になります」
ルーチェはぺこりと丁寧にお辞儀をした。他のメンバーもそれに合わせる。
「いえいえ、こちらこそ、宜しくお願い致します。私共としても、フィンガーズに新入団される冒険者をこうして迎えられるのは、とても鼻が高いことなんです。宣伝効果も抜群ですからね。さ、こちらへ。新聞記者の方々が待ち構えていますよ」
山田たちは周囲の注目を集めながら、男に案内されて工房内の部屋に通された。そこにはずらりと新聞記者が並んでいて、しばらくあれこれとインタビューを受けることになった。
街の印象や、野球への意気込み、工房を初めて見た感想などを聞かれ、冒険者ギルドの人間と事前に打ち合わせていた通り、無難な回答を返していった。こういう所で、ボケたりする必要はないのである。
ゴーンゴーンゴーンゴーン。
一通り質問が終わったころ、時計塔の鐘が鳴り響いた。
「ちょうど始業時間になりましたね。では、みなさんに実際に製造を体験してもらう前に、まずはざっと全体の工程を見学してもらいましょうか」
「はい! よろしくお願いします!」
山田はワクワクが止まらなかった。何しろ野球ボールの工房である。
男に続いて廊下を歩き、観音開きの扉を開け放って中へと入る。
「すっげぇ……!」
山田はそこに広がる光景に、思わず感嘆の声を漏らした。
向こう端にいる人が小さく見えるほどに広大な部屋に、いくつも作業机が並んでいる。人々は机の周囲に立って、各工程で行うべき作業に没頭していた。作業者の種族の割合はダークエルフと亜人が多い。こんなにも大勢の人が関わって、1つの野球ボールを作っているということに、山田は感動さえ覚えた。
「おい! みんな! ちょっと手を止めてくれ!」
恰幅の良い男性は懐から音拡散石を取り出して、大きな声で呼びかけた。作業員たちの視線が一斉に山田たちへと集まる。
「紹介しよう! 今日からこの工房で職場体験をする、フィンガーズの新入団冒険者の方々だ! 1人ずつ自己紹介をしてもらうから、良く聞いてくれ!」
音拡散石を手渡され、山田たちは1人ずつ名前を名乗っていった。1人1人に大きな拍手が送られる。みな憧れと興奮が入り混じった視線を山田たちに向けていた。
(なんかくすぐったいよなぁ……)
山田としては照れ臭い。ただ、冷静に考えてみれば、自分の働いている場所に冒険者が来るというのは、高校の教室にプロ野球戦手が来て、一緒に授業を受けるようなものだろう。盛り上がるのも無理はない気もした。
「今から各班を回って見学をさせてもらうが、みんなは気にしないで作業を続けてくれ!」
○
男は広い工房内を順に回って、低級兎球の製造工程を見せてくれた。後ろからは新聞記者も引っ付いて来て、山田たちが見学する様子を何やらメモしているようだった。
製造は流れ作業で行われていた。1つの机につき1つの作業。各机での作業が完了したら箱に詰め、次の机へと運ぶ。各机で行っている作業は以下のようなものだった。
1 剣兎の皮の厚みを整えてから、専用の型でくり抜く作業。
2 真ん丸に成形された魔核にゴム片を巻き付けて芯を作る作業。
3 完成した芯に、ミシンのような足踏み式の機械で、巨大蜘蛛の糸が混ざった毛糸を巻いていく作業。
4 球形に巻かれた糸に接着剤を塗布し、くり抜かれた剣兎の皮を張り合わせる作業。
5 赤く染められた糸で皮を縫い合わせる作業。
6 完成品を検査して、出荷用の箱に詰める作業。
これらの工程が全て完了すれば、晴れて低級兎球の完成である。他のラインで作られている上位リーグ用の魔力球に関しても、素材が異なるだけで作業内容は同様だった。
ゴーンゴーンゴーンゴーン。
最後の机まで一通り見終えるころには、1時間が経過していた。
「では、いったん先ほどの部屋に戻りましょうか」
引き返す途中、山田たちを案内していた恰幅の良い男は、赤い糸で皮を縫い合わせる作業をしていた男に声をかけた。40前後に見える、無精ひげを生やした背の高い男だ。
「おいロバート、冒険者の方々が見ておられるから、いつもより手を動かすのが速いんじゃないか?」
「工房長、茶化すのはやめてくださいよ。平常運転ですよ、平常運転」
無精ひげの男――ロバートは、作業の手を止めずに言った。太めの武骨な指で、巧みに針を操っている。ロバートの手つきは洗練されていて、スピーディーに両手の指を動かす様は、ダンスを踊っているみたいだった。
「このロバートという男には後程、みなさんの指導役になってもらいます。この班の班長を務める男です。それじゃあロバート、また後で」
「へい」
先ほどの部屋に戻ると、再び新聞記者たちから見学の感想を聞かれた。山田は素直に感動した旨を伝えた。普段何気なく使っていた野球ボールが、こうして大勢の人の手で作られていることを見れて、良かったと。本当に、大事に使わなければと思った。
記者からの質問を締め切ったあと、工房長は山田たちの方を向いた。
「それじゃあ、これから皆さんには、2組に分かれて、実際に作業に入ってもらいます。えぇと、どういう分け方に致しましょうか?」
工房長が聞くや否や、ノアは山田の片腕に抱き着いた。
「ノアはイッキューと一緒にやる!」
「ちょ、おい、やめろよ」
大きく柔らかい胸が腕に当たり、山田は思わず赤面した。
新聞記者たちからは「おぉー」とどよめきが起こり、それから熱心にメモを取った。
「はは。仲がよろしいですなぁ。では、イッキューさんとノアさん、それから他の方々という組合せで――」
「ま、待ってください!」
ルーチェはローブをギュッと握りながら、大きな声でカットインした。
「私もイッキューと同じ組になります!」
宣言を聞いた記者たちは再び「おおぉー」と色めき立ち、カリカリカリカリと万年筆を走らせた。
「ちょ、何ですかそのリアクションは! ち、違いますよ!? 変なこと書かないでくださいね! イッキューはその、私の召喚獣ですから! 召喚士として、しっかりやるように監視するとか、そういう目的で言ったまでですよっ!?」
記者たちはルーチェの主張に耳を傾けた後、それからまた一心不乱にカリカリカリカリやりだした。まるで創作意欲に駆り立てられた小説家のようだった。
○
山田、ノア、ルーチェの3人は、工房長に案内され、ロバートが作業をする机にやってきた。最終工程である、ボールの皮を赤い糸で縫い合わせる班だ。
「それじゃあロバート、あとは宜しく頼むぞ? 新聞記者の方々も見ているから、粗相がないようにな」
「わかってますって」
ロバートはボリボリと頭をかきながら3人に向き合った。
「えー、この班の班長を務めるロバートです。よろしくお願いします。3人の自己紹介は大丈夫ですよ。さっき聞いてましたから」
「ロバートさん、よろしくお願いします! あ、あと、敬語は大丈夫です! 俺たちが教えてもらう立場ですから!」
「そうか……。それは助かる。はっきり言って、堅苦しい言葉遣いは苦手なんだ。だから班長より偉くなれないんだけどな。はは」
ロバートは自嘲気味に笑った。
「まぁ、それじゃあ早速、実際にやってみてもらおうか」
「……できますかね?」
山田は周囲で作業する人たちを見た。みなこちらを気にしながらも、素早く針を動かしている。とても真似できそうになかった。
「いきなりはできないに決まってる。というか、いきなりできるようになる必要もない。一生懸命やってくれたらそれで良いよ。君たちがここにいるだけで喜ぶ人もいるのさ。冒険者は……みんなの憧れなんだ」
それから山田たちは、ロバートに教わりながら作業に取り組んだ。とはいえもちろん、上手になどできるわけがない。モタモタモタモタと針を動かし、時計塔の鐘が鳴って1時間が過ぎたころに、ようやく各自が1つを作り終えた。
「なんか……縫い目が歪になっちゃいました。ところどころデコボコしてるというか」
「ノアも……」
「私も……」
3人は各自が作ったボールをマジマジと眺めて落胆した。とても売り物にはならなそうだった。
「まぁ最初はこんなもんだろう。今日君たちが作った分は、後で君たち自身に贈呈することになっている。だから不出来でも気にすることはないさ。普段の練習にでも使うといい。さ、次のやつをやろう。ゆっくりでいいから、丁寧な仕事を心掛けるんだ」
山田とルーチェは2つ目も上手くできなかったが、ノアは2つ目で早くも縫い目が綺麗になっていた。さすがは道楽師。楽器の演奏に長けているだけあって、手先が器用である。
ロバートに見守られながら作業を続け、やがて昼休みを告げる鐘の音が鳴り響いた。
○
昼休み、食堂でロバートと共に4人で昼食を取っていると、やはり新聞記者たちが周囲に集まってきた。冒険者たちの一挙手一投足を記事にせんとしているようだ。その中の1人、かなり高齢の記者が、隣で気まずそうに食事をしていたロバートに、半信半疑といった感じで尋ねた。
「すみません。あなたもしかして――ロバートさんでは?」
「……はい。そうですけど?」
「あぁ! やっぱり! あなた、フィンガーズの冒険者だったでしょう!? 覚えてますよ、私!」
記者は興奮気味にそう言った。周囲の記者たちからは「おぉー?」と驚きの声。当事者のロバートは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「参ったな。まさか、俺なんかのことを、いちいち覚えている人がいるとは。もう20年ほど前のことですよ? しかも控えだ」
「そりゃあ覚えてますよ。なにせ当時のエース、マギー監督と、同じパーティーだった方なんですから。確かあなたはキャッチャーで、たまにバッテリーを組んでおられましたよね。すごいです、驚きました!」
「やめてください。凄かったのはマギー……監督ですよ。俺はただのオマケ。今はしがない、ただの作業員ですから」
カリカリカリカリ。周囲の記者たちからメモを取る音が聞こえてくる。まだ若い記者が、万年筆を走らせる手を止めて、無邪気な表情で片手をあげた。
「冒険者だった方が、なぜ野球工房の作業員に? やはり、何らかの形で野球に携わりたいということでしょうか!?」
ロバートは顔をしかめた。
「おいおい。俺のことは良いだろう? 今はただの素人だ。放っておいてくれ。質問ならこいつらにしてくれよ」
「まぁそう言わずに。冒険者だった方が、どういう経緯で野球工房の作業員になったかというのには、興味があります。聞かせてくださいよ」
「だから、話すつもりはないって。もう一度言うぞ? 放っておけ」
「良いじゃないですか。かつてのフィンガーズの冒険者が、新たなフィンガーズの冒険者と野球工房で交流し、自分がなしえなかったメジャーへの夢を託す。なんてな具合に、良い記事が書けそうです。色々と聞かせてくださいよ。あなたはなぜ野球工房の作業員に?」
ダン! ロバートは握った拳を机に打ち付け、声を荒げる。
「放っておけと言ってるだろうが!」
若い新聞記者はビクッと体を震わせた。その様子を見ていた工房長が慌てて近寄ってくると、パンパンパンと手を叩いた。
「ダメですよ。質問は既定の時間にしてください。1日が終わった時にまた時間を設けますから。彼らも昼休みはゆっくりとしたいでしょう。さ、散った散った」
工房長が言うと、新聞記者たちは蜘蛛の子を散らしたように遠ざかって行った。
「……すみやせんね」
「ダメだよ。ロバート。穏便に言ってくれなきゃあ。しかし、私も配慮が欠けていたかな? まさか、君に興味を示す記者がいるとはねぇ。すまなかった」
「ほんとですよ。もう、昔のことだってのに」
「そうだね。昔の話だ。今の君は、我が社の工房を支える、重要なスタッフの1人だ。それは冒険者であったことと関係のない話さ」
工房長はそう言うと、ロバートの肩を揉んだ。
「というわけで、午後も彼らの指導をよろしく頼んだよ。ロバート君」
「……へい」
山田たちも当然、その一部始終を見聞きしていたが、その後は誰も何も言わずに昼食を食べた。無論、山田とて、ロバートがマギー監督と同じパーティーだったという話は、とても気になる。しかし、不躾に質問できるほど、馬鹿ではなかった。
ゴーンゴーンゴーンゴーン。
鐘が鳴って、昼休みの終りを告げた。
○
その後は特に何事も起きることなく、工房体験の初日を終えた。
ブラットとドレミィの方は、他の作業員の女性に教わり、足踏み式の機械で芯に毛糸を巻く作業をしたとのことだった。夜に、難しくて全然丸くならないと嘆いていた。
翌日も山田たちは朝早くに起きて工房へと向かい、そして日が暮れ始めるまで延々と、赤い糸で皮を縫い合わせる作業に没頭した。
さらに翌日、3日目にもなると、ロバートの指導の甲斐もあって、山田たちは随分と作業が上達していた。もちろん、周囲の作業員のようにスピーディーにはいかないが、時間さえかければ何とか綺麗に糸を縫えるようになっていた。
3日目の昼休み。食べ終わって食堂でお茶を飲んでいると、ロバートが不意に3人に問いかけた。
「だいぶ上達したようだが、どうだ? 作業は楽しいか?」
ルーチェは背筋を正してハキハキと答える。
「あ、はい。とても。野球ボールはこうやって作られてるんだなって、勉強になりますし、道具を大切に扱おうという気持ちになります」
「はは。優等生な回答だな。そっちのエルフの嬢ちゃんはどうだ?」
「え、ノ、ノアですか? え、えと! その! あの! た、楽しい、です」
ノアはしどろもどろ。
それを見てロバートは苦笑した。
「くははは。顔に出る嬢ちゃんだな。嘘を吐くのが下手くそだ。正直に言うと良い。別に気を使わなくていいんだ。実際、退屈だろう?」
「……あの、その……はい。早く冒険に行って、野球をいっぱいやりたいよぉ」
ノアは申し訳なさそうに言った。
「ちょっとノア! あの、ロバートさん。すみません」
「いやいや、いいんだ。むしろ退屈だと感じてもらった方が良いんだよ。このイベントの趣旨は、そういうことだと、俺は勝手に思ってる。冒険者に、退屈を知って欲しいのさ」
「退屈、ですか……?」
「そうだ。実際、俺たちの毎日の生活なんて、退屈で仕方がないものなのさ。来る日も来る日も、同じ事の繰り返し。鐘の音が鳴ったら仕事を始めて、鐘の音が3回鳴ったら昼飯を食って、鐘の音が1回鳴ったら仕事を再開して、鐘の音が5回鳴ったら家に帰る。その繰り返しだ。毎日、時間をすり減らしているようなもんさ」
山田たちは無言で話を聞いていた。
「時間と言えば、時計塔の鐘だけどよ、あれ、俺たち労働者の間では、『セイレーンの歌声』なんて呼ばれてるんだぜ?」
「どういう意味ですか? セイレーンって、魔物ですよね? 美しい歌声で人々を混乱に陥れる、翼を持った人型の魔物。東と西の大陸間にある『楽園島』に出現し、歌声を聞いた船乗りが、海に飛び込んで死んでしまうとか……」
「そうそう。そのセイレーンだ。なに、そのまんまの意味さ。時計塔の鐘の音を毎日聞いていると、頭がおかしくなりそうだっていう皮肉だよ。神官の前で言うのは罰当たりかもしれないが、時計塔の天辺についてる聖教の守護鳥が、段々セイレーンに見えてくるなんて、みんな口を揃えて言ってるよ。ま、半分は冗談とか愚痴みたいなもんだがな」
山田たちはしょんぼりと下を向いていた。
誰も何も言えなかった。適当な言葉が見つからない。
「そんなに暗い顔をするな。落ち込ませたいんじゃない。励ましたいんだ。確かに俺たちの日々は灰色だ。でも、だからこそ、あんた達冒険者の活躍に労働者は夢中になるのさ。退屈してる連中にとって、グラウンドでプレーする冒険者はまさに『サンライト』――希望の光ってわけだ。退屈について知ってもらいたいというのはだから、そういう、冒険者に向けられる期待の源泉を知ってもらいたいってことだ。冒険者が活躍することは、労働者にとって、退屈の中にある、ささやかな救いや慰めなのさ。だから頑張れ。世界を照らしてくれ」
「世界を……照らす」
「そうだ。それができるのが冒険者だ。みんなの――憧れなんだ」
ロバートはそれから、少し悲しそうに続けた。
「まぁでも、俺の場合は、かつて冒険者をやってたから、やっぱり、そう素直に野球を楽しむこともできないんだけどな。見てると、どうしたって昔を思い出しちまう。球場にも随分と足を運んでない。野球を素直に楽しめるやつが、羨ましいよ」
「そんなぁ。なんだか、寂しいよぉ……」
ノアは泣きそうな顔をした。
「あぁ、いかんいかん。すまねぇ。ついポロッとしょうもない愚痴が出ちまったな。よし。今度、俺も久方ぶりに、野球場に行ってみるよ。あんた達を、応援しに行くことにする。こうして一緒に働いたわけだしな。これも何かの縁だ」
「ありがとうございます。俺、頑張ります!」
「あぁ。頑張ってくれ。そういや、明日からは敵地の遠征に同行するんだろ? 出番があったらしっかりやれよ? マギー……監督の、力になってやってくれ。来週、また工房に来た時に、良い話を聞かせくれるのを、期待してるぜ?」
ロバートはそう言ってニッと笑った。
○
その夜、部屋に戻ったノアは、ベッドで仰向けになる山田に向けて、ぽつりと呟いた。
「ノアも、冒険者をやめたら、好きじゃないことをして、働かなきゃいけないのかなぁ……」
「何言ってんだよ。らしくない。スキルのこと、まだ気にしてたのか?」
「うん……」
どうやらノアは、戦闘スキルを習得できないことを、未だに気にしているようだった。
ベッドの上に体育座りをして、しょんぼりとしている。
「今度、マギー監督とかにも相談してみようぜ。何か良い案を授けてくれるかもしれないし。それに、もしも冒険者を辞めたとしても、ノアには歌があるだろう?」
「イッキュー……」
ノアは山田の顔を見た。
「そうだね。あの夜にも、イッキューが『あーやって』言ってくれたもんね」
「あぁやって……? なぁノア、俺、他にも何か言ったのか? 何言ったんだ、俺?」
ノアは悪戯っぽく笑った。
「それは教えてあげな―い。はずかちーから」




