イッキューの38球
投球練習を終えると、ルーチェはマスクを被ってキャッチャーズボックスにしゃがんだ。バッターが右の打席に立ち、球審がプレイを宣告する。
「よぉ。さっきはどうも。よろしく頼むよ」
バッターは入団テストの前に話した戦士の男、ブレアだった。ノアとドレミィと、1回だけパーティーを組んだ男。
「こちらこそ。手加減はしませんよ?」
ルーチェは挨拶を返しながら記憶を辿る。
(このブレアというバッターは、ここまでの2打席、初球から積極的に打ってきていたはず。特にストレートはホームランにしていました。ならば……)
ルーチェの出したサインはフォーク。低めにミットを構えた。ボール上等。初球は間違ってもバットに当てさせないという慎重な入り方だ。
山田は頷き、振りかぶって投球する。赤いオーラをまとった火属性の魔球が真ん中やや低めに来る。
バッターのブレアは迷わずフルスイング。しかしホームベース手前でストンと落ちて、バットは空を切った。審判のストライクコールが響く。
(よし……)
ルーチェは頷きつつ投げ返し、次のサインを出す。
(早い段階で、速球を1つ見せておきますか)
最高速度を見せておくことで、投球の幅を広げる作戦。
ストレート。今度は高めの胸元に外すようにサインを出した。あくまでストレートのスピードを見せつけることが目的の球。絶対にストライクに行ってはいけない球だ。高さを間違えないようにとルーチェは念じた。
山田が投げる。顔の近くに来た速球を、バッターはのけ反ってかわした。もちろんボール。ルーチェの狙い通りの球だった。
「……速いな」
「えぇ。速球が武器のピッチャーですから」
それはルーチェの嘘だった。
スピードは150キロ後半。確かに速い。
しかし山田の持ち味はむしろ、多彩な変化球。
(次はカウントを取りに行きますよ? 多少甘くなっても、ストライクゾーンに来てくださいね?)
出したサインはチェンジアップ。ルーチェは外角のストライクゾーンに構えた。
チェンジアップはストレートと大きな球速差がある変化球。山田は強い腕の振りからブレーキの効いた遅い球を投じる。まるで時間の流れが一瞬止まったようだった。バッターがタイミングを崩して見逃すと、ストライクが宣告された。
(これで2ストライク1ボール。追い込みました)
ここまでは完璧。
ボールを投げ返し、さて、とルーチェは思考を巡らす。
初球はワンバウンドする低めのフォーク。続いて高めのストレート。そしてチェンジアップで追い込んだ。ここまでの投球は高低に球を動かすことで組み立ててきた。
(うん。最後は横の変化で仕留めましょう)
サインはスライダー。ルーチェは外角一杯にミットを構える。
山田は力強く頷き、振りかぶって投げた。外一杯。見逃せばストライクというコースから、途中で大きく横にスライドする。
離れていくボールに、ブレアのバットが空を切った。
「ストライーッ! バッターアウッ!」
審判の声が響き渡る。ルーチェはグッと右拳を小さく握った。
「ちくしょー。良い球だ。やるなぁ、あいつ」
「それはどうもです」
山田にボールを返しながら、ルーチェは気を引き締めなおす。
(まだワンアウト。喜ぶのは早いです)
次のバッターは神官の男だった。右のバッターボックスに入る。
「よろしく。お手柔らかに頼むよ」
「えぇ、わかりました。手加減するので、あなたの好きな球を教えてください」
揺さぶってみる。
「うーん。ストレートかな?」
「なるほど。参考にさせてもらいます」
ルーチェはにっこりと笑った。
(あんなことを言っていますが、この打者がこれまでに打った2本のヒットは、いずれも緩い変化球にタイミングを合せたもの。むしろ速い球に振り遅れていました……)
少し怖いが、思い切ってストレートのサインを出し、ルーチェは覚悟を決めて内角にミットを構えた。
(良いですか? 甘く入らないでくださいね?)
山田はルーチェの思いに答える。内角を厳しく突くストレート。僅かにホームベースをかすめてストライク。バッターは腰を引いていた。
(やはり変化球を待っていたようですね……。タイミングが全然合っていない)
その様子を見て、ルーチェはまたしてもストレートのサインを出す。
(同じ球を二度続けるとは思わないでしょう?)
再びインコースに構えると、リプレイのような球が来た。バッターは意表を突かれつつもスイングするが、振り遅れてルーチェのミットに球が収まる。
2ストライク0ボール。
「どうしたんです? あなたの好きなストレートですよ? 打てないんですか?」
「いやぁ、まさか本当に投げてくれるとは思わなくてね」
神官の男は苦笑いである。
「なんならストレート、もう1球投げましょうか? どうします?」
「はは。ノーコメントで。君はなかなか食えない人だね」
神官の男は打席を外してブルンと一度素振りをした。
(さて……簡単に追い込みましたが、次が問題ですね。セオリーならば変化球で1球外すところですが――)
ルーチェは神官の男の表情を読む。
(迷いのない目をしています。追い込まれても自分のやることは揺らがない、というわけですか?)
このバッターはこの期に及んで、変化球を待っている可能性が高いと踏んだ。実際、2打席目は、追い込まれてからボール球のスライダーを打ってヒットにしていた。ボールだとしても、僅かに甘く入れば打ってくる可能性がある。
ルーチェは安易に変化球を投げることがリスクであると判断した。
(決めました。外すなら、ストレートで高めに)
三度ストレートのサインを出し、ルーチェは中腰になって高めに構えた。
山田の右腕が鞭のようにしなる。渾身のストレートだ。狙った以上に高めに外れたが、先ほどのルーチェの言葉が脳裏に残っていたバッターは、つい反射的にスイングを始動させてしまっていた。途中で慌ててバットを止めたことでボールが宣告されるが、ルーチェはすかさず一塁審判にアピールした。
「振りましたっ!」
それを受けて主審が塁審に確認を求めると、右手を上げてスイングの裁定。
バッタースイングが認められて結果は三振となった。
これで二者連続三振だ。
「……やれやれ。君は食えない人だね」
神官の男は呆れたような顔をした。
「お褒めに預かり光栄です」
その後もルーチェは絶妙な配球で山田をリード。
三振の山を築いていった。
〇
控え室で老婆の監督とジャックは山田の投球を見守っていた。
快投乱麻。山田はバッターを6者連続で三振に切って取っていた。
「いやぁ……すごい。あのキャッチャーもなかなか賢いですね。打者の裏をかいている」
「ほっほ。魔力は低いが、バットに当たらなければ、そりゃあ前には飛ばんわな。当たれば痛烈な当りになる。ならば、バットに当てさせない。まるで綱渡りのようなピッチングじゃな。バッターのレベルが低いうえに、全員が初見という、入団テストでしか通用せん投球じゃろうが、やはり面白い」
ジャックは手元の資料に目を落とす。資料にはパーティーメンバーのステータスに加えて、シートバッティングでの成績が記載されていた。
「しかし――他のパーティーメンバーの打撃成績は、特筆すべきところがないですね。ドレミィ投手も打たれていました」
「しかしドレミィは前半、非凡なものを見せたじゃろ。魔力酷使というスキルはわしも見るのは初めてじゃが、中継ぎや抑えが重要視されている昨今の野球であれば、少ない球数に限って魔球の威力が増す投手というのは使い道がある。ほれ、去年からメジャーリーグでも、最多セーブを表彰するようになったじゃろ? 1イニング投げるだけなら、ドレミィほどの適任者はおらんのじゃないか?」
「確かに……。中継ぎや抑えとして短いイニングを限定して投げさせると割り切れば、強力な武器になり得ますね。全魔法の消費MPが3倍というのは、普段の戦闘では著しく不便でしょうが……」
ジャックはドレミィのステータスに記載されている、スキルの説明を見ながら言った。
「ま、そうじゃな。MP満タンで範囲魔法1発しか撃てない魔法使いなんぞ、控えめに言ってお荷物じゃ。問題はむしろ、迷宮攻略なんぞのクエストを、今後パーティーが乗り切れるかじゃな」
「そうですねぇ……。死なないことがメジャーへの一番の近道、なんてよく言われますし。その他のメンバーはどう見ますか?」
「ブラットとノアも悪くはなかった。ブラットは俊敏性に優れる。守備も軽快だ。何か一芸に秀でた冒険者はそれだけでも使い道があるというものじゃ。ノアとやらはまぁ、楽しそうに野球をやる。わしらは野球を見せるのが仕事じゃ。そういう意味では向いとるんじゃないか? ちと頭が悪そうだが」
「随分と買いますね。彼らのことを」
「ほっほ。まぁ、半分は直感じゃよ」
その時、水晶映星からどよめきが聞こえた。
山田が7人目のバッターを三振に切って取ったところだった。
「――じゃが、わしの直感はよぉ当たるぞ?」
「はは。それは将来が楽しみですね」
「あぁ、胸躍る。わしらはもしかしたら、とんでもない投手の誕生に立ち会っておるんかもしれんな。これだからルーキーリーグの監督はやめられん」
老婆の監督は、二ッと子供のような笑みを浮かべた。
〇
山田はルーチェからの返球を受け取った。
7者連続三振。できすぎだ。途中何度か痛烈な当りを飛ばされたこともあったが、それらがファールになったのも幸運だった。全部三振狙いで行こうと言って、自分でその言葉を疑っていたわけではないが、あまりに上手く行きすぎている。
全てはルーチェのリードのおかげだった。
18・44メートルの距離を挟んだ場所でしゃがみ込むルーチェを改めて見やる。
青いツインテールの小柄な美少女。
しかし小さな体が大きく見えた。
頼もしい相棒。
ルーチェの出すサインに応えるのが、楽しくて仕方なかった。
野球が楽しくて仕方なかった。
(最高だ)
山田は無意識に笑っていた。
次のバッターは、入団テストの前に絡んできた、金髪の少女エストだった。ともすれば小学生にすら見える背の低い女の子。リトルリーグで野球をやっていた頃を思い出した。
目の前のエストは投手としても登板し、9人をぴしゃりと抑えていた。打ってもここまで2安打。そのうちの1本はホームラン。この入団テストで、一番の活躍をしていたプレイヤーだった。エストは左の打席に立ち、バットを構えて山田を睨んだ。挑発するような視線。口元が微かに笑っている。
「おもしれぇ……」
山田は燃えた。
初球。ルーチェの出したサインはスライダー。外角にミットを構えていた。
大きく振りかぶり、思い切り腕を振った。
左打者の外側から内に曲がってくる変化球。ルーチェのミットにボールが収まる。際どいコース。審判の手は上がらなかった。ボール。
エストはバットをピクリとも動かさずに見送った。余裕の表情を浮かべている。
次のサインはシュート。ルーチェはエストの体と重なるくらい内側にミットを構えた。
山田はコントロールを意識して投球。体にぶつかりそうな軌道から逸れるように曲がってインコースに決まる。またも際どいコースだったが、今度は審判の手が上がった。
ストライク。エストは相変わらず涼しい表情で見送った。
「不気味だな……」
続いてはカーブのサイン。カウントを整えるのに使う、球速差の激しい山なりの球。
指の握りを変えて投球モーションに入る。
(あ……)
ボールが指を離れた瞬間、山田の背筋に悪寒が走った。
甘めに入ってしまった。吸い込まれるように真ん中に向かう球。
エストはそれを見逃してくれない。多少タイミングをずらされながらも、軸足に上手く体重を残して猛然とフルスイング。
インパクトの瞬間、バットが黄色の強い輝きを放つ。
キィン。
快音が響いた。山田は咄嗟に首を振って打球の行方を追う。ライト線に高々と舞い上がった大飛球は、外野スタンドにそびえ立つポールの僅か外に逸れていった。
ファールだ。
「あぶねぇ……」
審判から投げ返された球を受け取り、山田は汗をぬぐう。肝を冷やした。
一塁にゆっくりと走っていたエストが戻ってきて、バットを拾い上げる。あの小さな体から放たれたとは信じがたい当りだった。
絶対的な魔力の差。改めて異世界野球の怖さを痛感する。
(とにもかくにも、これで追い込んだ……)
2ストライク1ボール。結果はオーライだ。
続いて出されたサインはフォーク。三振を奪う為の配球。山田はより厳しい球を意識して低めに投げたが、ストンと落ちてホームベース上で弾む球をエストは悠然と見送った。
まるで見透かされているようだった。
次に投げる球が見つからない。出口の見えない迷宮に迷い込んだような感覚。
(……ま、考えるのはあいつの仕事か)
思考停止、あるいは、信頼。
山田はとにかく、ルーチェの出すサインに集中することだけを考えた。
ルーチェが出した結論はストレート。ミットは外角。まだボールは1球投げられる。厳しいコースを投げ込むなら、ここがラストチャンスだ。
山田は大きく振りかぶって、渾身の力を込めて腕を振った。
スパァン。
ルーチェが構えたところよりも、やや外側に決まる。
初球のスライダーとほぼ同じところ。山田の中ではボール球の感触。
――しかし。
僅かな静寂の後。
「ストライーッ!」
審判の手が上がった。
「ちょっと! さっきはそこボールだったじゃないの!」
エストはマウンド上の山田にも聞こえる大声で、咄嗟に審判に抗議した。
無言で首を振る主審。不服そうなエスト。
「ふん。まぁいいわ! どうせ私たちは合格だから許してあげる。そこのあんた、イッキューだったかしら!? 命拾いしたわね! 人間の召喚獣だか何だか知らないけれど、次はこうは行かないわよ! 覚えてなさいっ!」
エストは山田にバットを突き付けて言った。
捨て台詞。威勢の良い言葉。自信に満ちた表情。
ぞくぞくした。
「あいつ、面白いな……」
また対戦するのが楽しみだった。
そして、いよいよ打者は最後の1人。
いや、最後の1匹。
エストたちのパーティーにいた大きな狼のモンスターが、バットを口にくわえて、のしのしとベンチから打席へと向かった。バッターボックスの手前で光を放って人型に変化。頭に犬の耳を生やした美少年に姿を変える。
人化の魔法。布のような衣服をまとい、バットをゆったりと構え、右の打席に立った。
「あれが……本来の召喚獣か」
怪物。
即ち、モンスター。
凄まじい威圧感だ。山田は思わず唾を飲んだ。
ルーチェはスライダーのサインを出した。
初球は外角に外れるボール球。狼少年は余裕を持って見逃した。
続いては低めに落ちるフォーク。バットがピクと反応したが、これも見送られる。
0ストライク、2ボール。ピッチャー不利のカウント。2球続けてボールになったのはこれが初めてだった。
ルーチェは苦渋の表情でストレートのサインを出した。フォアボールはバッターの打ち直しで、ピッチャーにとってはただの減点対象。逃げるわけにはいかない。
山田はボールの縫い目に指を這わせて、力の限り腕を振った。
それは山田が入団テストで投じた38球目の球だった。
内角を抉るストレート。決して甘い球ではない。しかし狼少年は左足を外側へ大きく開いてフルスイングし、ジャストミート。
キィィン。
快音を残して、白球は弾丸ライナーでレフトスタンドの場外へとかっ飛んでいった。
文句無しのホームラン。
マウンド上の山田はがっくりと肩を落とした。
結局、入団テストでの山田の投手成績は、9打数1被安打8奪三振1被本塁打。8者連続奪三振という圧巻のピッチングの後に、場外ホームランを打たれるというオチが付いた投球内容は、後に『イッキューの38球』として語られることになる。
〇
入団テストを全て終えて、参加者たちはホームベース付近に集まり、結果発表を待っていた。
「最後は打たれちまって、悪かったな……」
「いえ、イッキューは最善を尽くしてくれました。最高に楽しかったですよ。キャッチャー冥利に尽きるというものです。痺れました。あなたみたいな召喚獣と野球ができて、私は幸せ者です」
ルーチェは晴れやかな表情をしていた。
「ノア達、大丈夫かな? 合格、できるかな?」
対してノアは不安げな顔をしていた。確かに山田の投球は圧巻だったが、パーティー全体の成績を見れば、特別優れている方であるとは言えなかった。
山田の成績だけを見れば文句なしなのだが、召喚獣はステータスが通常より高いということを加味すれば、そもそも優れていて当然なのだ。
「客観的に考えて、かなり微妙……。ごめん、ボクが足を引っ張った」
「ごめんなさいぃ。あぐ。うちも、2つも三振しちゃってぇ」
ブラットはしゅんと猫耳を萎ませて涙まで浮かべていた。
相変わらずメンタルの弱い忍者である。
「むぅ。ブラット、私なんか1本もヒットを打てなかったのですよ? あなたはヒットを打ったんですから、もっと胸を張ってくださいよ。ほら、いちいち泣くんじゃないです」
ルーチェは鞄から取り出したハンカチで目元を拭ってやった。
「あうぅ。ルーチェぇ……」
「ブラット。めそめそすんなよ、落ちたって決まったわけじゃないだろ?」
山田はぽんと軽く肩を叩いた。
「イッキュウぅ……」
「そうです。だいたいですね。落ちたとしても、また受けに来れば良いんです。みんなで。それまでクエストをこなしてレベルを上げつつ、何とか生活費を稼ぎましょう」
「うち、まだ一緒にいても良いの? ふぇ。うちのこと、ポイってしない?」
「あぁもう、言ったことをいちいち根に持つ人ですね。しませんよ! だからほら、しゃんとしてください!」
ルーチェは背中をバシンと叩いた。
「もう仲間ですから。簡単に見捨てませんよ? まずはそのへたれっぷりを私が鍛えてあげましょう」
「あぅ。うぇぇー」
ブラットは余計に泣いた。
「おいご主人、泣かすなよ」
「なんで苛めたみたいに言うんですかっ! 今のは嬉し涙ってやつですよっ!」
その時、ベンチからジャックが一枚の紙を持って出てきた。
「あ、おい。結果発表だぞ」
ジャックが一同の前に立つと、その場は一斉に静まり返った。
「では、今から合格パーティーを発表する。評価の高かった順に、パーティー代表者の受験番号と名前を読み上げるので、呼ばれたら前に来てくれ。冒険者ギルドの団員証を授与する」
固唾を飲んで見守る中、ジャックが口を開く。
「6番。エスト」
「――はい。まぁ、当然よね!」
エストたちのパーティーが前に出る。1人ずつジャックからバッジを授与された。
「お前たちは非常に優秀なパーティーだ。将来メジャーリーグで活躍するのを、期待しているぞ?」
「ふん。当たり前でしょ! 任せておきなさいっ!」
「はは。良い度胸だ。では次、27番。ルーラー」
「おう」
柄の悪そうな男たちがぞろぞろと前に出た。冒険者というよりも山賊という風貌。
「君たちも文句のない成績だ。これからに期待する」
「はん。てめぇなんかに言われなくてもやってやるよ」
「態度がでかいのは結構だが、各チームの監督の言うことは聞けよ?」
「わあってるよ。さっさと寄越せ」
ガラの悪い連中である。
ジャックは顔をしかめながら男たちに団員証を渡していった。
「どうしよう、やっぱりノア達は呼ばれないのかなぁ……」
「落ち着いてください。今は信じて待ちましょう」
「さて、次のパーティーで最後だ――」
山田はごくりと唾を飲んだ。
緊張する。
時が引き延ばされるような錯覚に陥った。
「――11番。ルーチェ」
パーティーは互いの顔を見つめ合った。
「や、やりましたーっ!」
ルーチェは山田の腹に抱きついた。
「イッキュー! やりましたよっ! 合格です!」
がっしりと背中に腕を回して、山田を見上げる。
「お、おう。やったなご主人」
満面の笑みを浮かべる美少女がそこにいた。
小ぶりな胸が押し付けられて、山田はドギマギとしてしまう。
「おい! 喜ぶのは後にしろ! さっさと前に来い!」
「あ、す、すいませんっ! 今すぐにっ」
ルーチェ達は小走りで前に出た。ジャックはパーティーを見渡して言う。
「お前たちは、まぁ、将来性を買った。特にイッキュー。お前は人間の召喚獣という異例中の異例の存在だ。俺たちに新しい可能性を見せてくれ。楽しみにしているぞ?」
「えぇ。任せてください。メジャーで1番の選手になってやりますよ」
山田はノータイムで大言壮語を吐いた。
何にでもイエスと答える男。それが山田一球という男だ。
できるかどうかではない。やろうとするのだ。
それが彼の在り方である。
「良い面だ」
ジャックは二ッと笑った。
こうして、山田たちの旅は始まった。
メジャーリーグ昇格を目指す長い長い冒険の旅が。
剣と魔法と野球の大冒険の、開幕である。
とりあえず一区切り、です!
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