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シートバッティング

 村に戻ると、村長が家に招いてご馳走を振る舞ってくれた。ささやかな祝いの席。


 コニーとその両親、村長、そしてパーティーメンバーで机を囲み、豚の肉に舌鼓を打った。家畜の肉はご馳走らしく、コニーもにこにこと嬉しそうに食べていた。


「いやぁ、ありがとうございます。これでしばらくは大丈夫でしょう。さ、どうぞ飲んでください」


 村長に麦酒エールを勧められ、ルーチェはぐびぐびと美味そうに飲んだ。他のパーティーメンバーもお酒を飲んでいる。


「おい。ご主人、今日はあまり飲みすぎるなよ?」

「むぅ。わかってますよ!」

「でもよかったねぇ! これでノア達、入団テストを受けられるね!」

「姉ちゃんたち、いよいよ冒険者になるのか!? すんげー!」


 コニーは憧れの眼差しである。


「まだ合格してませんけどね。そうなれるように、頑張りますよ」

「なぁなぁ! もしも合格したらさ! 『カウカウズ』の冒険者になって、そんで、この村の常駐パーティーになってくれよ! な!」


 山田は隣に座るルーチェに尋ねる。


「常駐パーティーってのは何なんだ?」

「町や村に住まいと野球の練習場所を提供してもらい、その対価として周辺の魔物を優先的に退治するパーティーです。冒険者ギルドに正式登録した後は、野球のリーグ戦が行われる村や町に、常駐パーティーとして滞在することが推奨されています」

「やはり普段から同じ場所に住んでいる人を応援したくなるものだから。ボクの育った街でも、常駐パーティーの人が試合に出ると凄い声援だった」

「野球リーグは8軍までありますからね。下位リーグの試合に少しでも興味を持ってもえらえるようにという意図もあるのでしょう」

「なるほど。地域密着型のシステムってわけか……」

「なぁなぁ! いーだろ? 俺、絶対応援に行くからさ!」


 コニーはキラキラとした目でパーティーを見渡した。


「これこれ。無理を言うんじゃないよ。正直、この村にはあまり来たがる方もいないんです。どうかお気になさらず」


 コニーの父親は申し訳なさそうに言った。眼鏡を掛けた優しそうな男性。

 たしなめられたコニーは下を向いた。そんな風にされると、心が痛むというものだ。


「なぁみんな! 良いんじゃないか? どうせ何処かの常駐パーティーにはなるんだろ?」

「むぅ。またそんな良く考えずに……」


 ルーチェはぷくっと頬を膨らませた。


「そ、その! わ、我も賛成だぞ!」


 ブラットはがたっと椅子から立ち上がった。猫耳がぴょこぴょこと動いている。


幼子おさなごの願いに応えてやるのも、また一興よ! ふは。ふははーっ!」

「ノアもさんせーい!」

「……はぁ。ま、仕方ないですね」


 ルーチェはコニーの頭をぽんと一つ優しく叩いた。

 聖母のような慈愛に満ちた表情。


「これも何かの縁でしょう。もしも合格できたら、この村の常駐パーティーになることを希望してみます」

「やったー!」

「良かったな、コニー! 俺たちが合格したら、ちゃんと応援してくれよな?」

「うんっ! めっちゃ応援する! だから、約束だぞ!」

「あぁ! 約束だ! 指切りげんまんしてやるよ」


 山田はコニーに小指を差し出す。


「……なにそれ?」

「んー。俺の国に伝わるおまじないみたいなもんだ。絶対約束を守るっていう誓いみたいな。ほら、コニーも小指を出してみ?」

「こう?」

「あぁ、そうだ」


 山田は差し出された小指に自身の小指を絡めた。


「これで約束を誓ったことになる。期待して待っててくれよな」

「……うん!」


 コニーは満面の笑みで頷いた。

 その後、酒に酔ったノアが、弦楽器リュートを鳴らしながら陽気な歌を歌った。美しい歌声だった。風の歌のように軽やかで、聞くものを笑顔にさせる歌。


「ボクはね、この歌を聞いて、ノアと一緒に行動をするようになったんだ。彼女がこんな風にお立ち台で歌う姿を、ボクも見てみたいなって。歌は良いよね」


 ドレミィは瞳を閉じて聞き入りながら言った。


「そうれすねぇ! がんばり、まひょう……! すぅ」


 制止を聞かずに飲みすぎたルーチェは、べろんべろんに酔っぱらって眠ってしまった。


「ったく。このご主人は。人様の家で……」


 ブラットはそんな一行の様子を見ながら、「みんなと食べるご飯って美味しい……」などと呟いて、山田の涙腺を著しく刺激した。

 そんな風に、その夜はとても楽しく過ぎていった。


 〇


 翌日、冒険者ギルドの職員を兼ねている村長から、クエストの報酬を受け取り、入団テストの受験証を発行してもらった。魔核や素材の買取は小規模なギルドでは行っていないが、クエストの受託と報告はどこの村でも問題なくできる。


「みなさん。入団テストまであと4日ですが、それまで予定はございますか?」

「いえ、とくには……」

「でしたら、この村のグラウンドと冒険者ギルドを使われてはいかがでしょう? ファンボーケンには前日に戻られればよろしいかと。本当は常駐パーティーかクエスト受注者しか利用してはいけないのですが、どうせ今は誰もいませんし」

「良いんですか?」


 パーティーにとってはありがたい提案だった。宿屋に泊まる旅費もバカにならないし、何よりグラウンドを使って練習できるのは大きい。


「えぇ。皆さんにはぜひとも合格していただきたいので」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「ありがたいです! みんな! 早速野球やろうぜ!」


 山田たちはグラウンドに駆け出した。


 〇


 キャッチボールを済ますと、山田の提案で実践的打撃練習シートバッティングを行うことにした。


 この世界に来てから、ボールを捕ったり投げたりはしたことがあったが、ピッチャーの投げる球をバットで打つということをしたことがなかったからだ。実際に魔力のこもったボールを打ってみたかった。山田は昨日のクエストでレベルが2上がり、魔力は34まで上昇した。これがどの程度通用するのか試したい。


 ピッチャーは本職であるドレミィが務めることになった。魔法使いの格好でマウンドに立つ姿はコスプレでもしているかのようだ。受けるキャッチャーはルーチェ。打者が立つので、今日はちゃんとローブの上にマスクやプロテクトを付けていた。


 投球練習を見ていると、ドレミィの球速は140キロ程度。現実ならプロでも通用するレベルに速いが、この世界の基準がいま一つわからない。

 打席に入って、山田は背後のルーチェに尋ねる。


「ルーキーレベルであれくらいの球速はどうなんだ?」

「平均くらいでしょうね。ただ、彼女の場合は変化球が武器です。この前受けましたが、良いスライダーを投げていましたよ。それに魔力酷使オーバードライブによって、魔球の威力が2倍になります。代償として球数が投げられないようですが、瞬発力は一級品です」

「じゃあ、ドレミィを打てれば、ルーキーリーグで通用するってことか?」

「まぁ、そうでしょうね。それくらいのレベルにはあると思います!」

「よっしゃ! ドレミィ、よろしくな!」


 山田は左のバッターボックスに入ってバットを構える。彼は右投げ左打ちだった。


「うん。ボクも全力で行く」


 ドレミィは前かがみになってルーチェの出すサインを見た。


「あんちゃーん! 頑張れよー!」「打てー!」「かっ飛ばせー!」


 今日はコニーが引き連れて来た村の子供たちが、芝生に座って見学していた。かっこ悪い姿をさらすわけにはいかない。バットを握る手に力がこもる。


 ドレミィは左投げ(サウスポー)。セットポジションから右足を上げて、大きく前に踏み出し、やや斜めから左腕を振った。スリークウォーターと言われるフォームだ。

 ボールは青いオーラをまとって、真っすぐ向かってきた。


(ストレートか……?)


 ど真ん中。甘い球に見えた。


(もらった!)


 山田は全力でスイング。


 ――しかし。


 ボールはホームベースの手前あたりで、急にググっと大きく横に曲がった。まるで見えない壁に当たって跳ね返ったようだった。あまりにも切れ味鋭い変化。


 ブン。結果は空振り。


 山田は呆然として後ろを見る。ルーチェのミットは外角に大きく外れていた。

 明らかにボール球。


「なんだ今の!? やばい変化したぞ!? あんな球、見たことねぇ!」

「ドレミィは水属性ですからね。水属性の魔球は、変化の開始ポイントを後ろにずらす効果があります。いわゆるキレが良くなるってやつですね。良い球でした」


 途中まではストレートのようだった。手元で急に大きく曲がるスライダー。



 まさに魔球――。



 ドレミィは「むふー」というドヤ顔で、ルーチェからの返球を捕球した。


「面白いじゃねぇか」


 山田は燃えた。このまま引き下がるわけにはいかない。


「もういっちょこいや!」


 ドレミィにバットを向ける。


「受けて立つ。ボクの球、打てるものなら打ってみろ」


 ドレミィは再度セットポジションから投球。

 青いオーラをまとった球。先ほどと同じ軌道。


(同じ球を、2度打ち損じるわけにいかねぇよな?)


 山田一球が『令和の怪物』と呼ばれていたのは、投げる球が優れていたからだけではない。甲子園大会だけでも4本塁打。投打共に超高校級。卓越した打撃センスの持ち主。

 バッターとしても一流のスラッガーだった。


 ゆえに『令和の怪物』。


 一度見た軌道は脳裏に焼き付いている。

 球は真ん中に向かってきているが、あそこから大きく曲がるはず。

 山田は外角を意識しながらバットを振り始める。ホームベース上に差し掛かったあたりで、やはり球は外に向かって急激に変化し始めた。

 普通に考えたらありえない軌道。鋭利なスライダー。だが、一度見たボールだ。それはありうる軌道なのだ。むしろ、予想通りの変化。


 ならば対応する。対応できる。対応できなければならない。


 右足を踏み込んで、バットを後ろから追っつけるように流し打った。


 キィン。


 乾いた音がした。打球は痛烈なライナー。

 レフト線に飛んで、僅かに左に切れた。ファールだ。


「惜しー!」「すげー!」


 子供達から歓声が飛んだ。


「くそー。捉えたと思ったんだけどな」


 山田は頭をかいて悔しがる。ファールになったのは、山田の予想をはるかに超えて曲がったからである。確かに対応はしたが、イメージが足りていなかった。


 打球の行方を見守ったルーチェが、マスクを取って立ち上がった。


「……イッキュー。あなた確か、魔力34でしたよね?」

「おう。それがどうかしたか?」

「じゃあ、今の打球は、ステータスが同等ならスタンド付近まで飛んでいたでしょうね。ドレミィの魔力は128。3倍以上ステータスに開きがあるならば、よほど真芯で捉えないとあのような強い打球は飛ばないはずですから。よく1球で対応できましたね?」


 驚異的な適応力だった。


「んなもん、スライダー来るってわかってたら、打てるだろ。でも確かに、俺としてはもっと飛ぶってイメージがあったのに、全然飛ばなかった。魔力が足りてないってのは、こういう感覚なんだな……」


 手がジィンと痺れるような感触があった。球が通常よりも重たいと感じた。

 ドレミィはムッとした顔をしていた。

 彼女もまた1人の野球人。快音を響かされて、面白いわけがない。


「ファールはファール。これでツーストライク。追い込んだ。イッキュー。まだ勝負は終わってない」

「おう。当たり前だろ。次は打ってやる」


 山田はバットを構える。ドレミィはルーチェから新しい球を受け取ると、すぐにサインを見て、投球動作に入った。


(次はフェアゾーンに飛ばしてやる)


 山田は頭の中に球筋を思い浮かべた。急激に横に曲がる軌道を脳裏に描く。

 点ではなく、面で捉えるイメージだ。


 ドレミィの手からボールが離れる。今度も真ん中。甘い球に見える。しかしここから大きく曲がるはずだ。山田は外角を強く意識しながらバットを出す。


 ――ところがである。


 ボールは外には曲がらず、山田のひざ元に沈むように曲がった。


(なっ!?)


 振っている途中で気づくが、今さらスイングを修正することも止めることも不可能。

 あえなくバットは空を切り、ルーチェの構えたミットにボールが収まった。

 三球三振である。


「ふふん。誰もスライダーを投げるなんて言ってない。今のはスクリュー。ボクの勝ち!」

「ちくしょーっ!」


 山田は天を仰いだ。子供達からは野次が飛ぶ。

 結局、山田はあと2回対戦したが、内野ゴロ2つに倒れた。やはりステータスが足りないのか、ボールに当たっても、イメージよりだいぶ詰まった打球になった。対戦成績は3打数0安打である。


 〇


 ドレミィに変わって山田がマウンドに立った。彼もまた本職はピッチャー。魔力を込めたボールが通用するかを確認したかった。


「ふふーん。バッチリ打ってやるんだから!」


 対するバッターはノア。右の打席に入り、腋をしめてバットを高々と構えている。凛とした雰囲気の漂う美しい構えだった。

 山田は中腰でルーチェのサインを見る。最初の球種はもちろん、ストレート。

 投手用グラブの中でボールの縫い目に指を合せて魔力を込める。火属性の魔球だ。大きく振りかぶって投球動作に入ると、ノアは左足をググっと引き寄せた。

 ノアは一本足打法である。美しい打撃フォーム。

 山田は左足を踏み込んで右手を強く振った。


 渾身のストレート。


 ルーチェの構えたミット目掛けて、赤いオーラをまとった球筋が一直線に伸びていく。火属性の魔球の効果によって球速も上がっていた。150キロ後半。

 ノアは剛速球にひるむことなく猛然とスイングする。しかし僅かに振り遅れて、バットは豪快に空を切った。スパァン。音を響かせてルーチェのミットにボールが収まる。


「めちゃくちゃはやい!」


 ノアは目をぱちくりとさせた。

 山田の方もルーチェからの返球を受け取りつつ肝を冷やした。

 この世界では女性も男性と同等の力を持つというのは十分に分かっていたので、最初から全力だったが、ノアのスイングは僅かにタイミングがズレていただけだ。


 一歩間違えばというやつである。


 続いてルーチェの出したサインはカーブ。しかし山田は断固として首を振った。

 これはあくまで練習なのだ。ならば徹底してストレートで勝負したい。ルーチェは「仕方ないですね」という顔をして、ストレートのサインを出してくれた。


 山田は大きく頷いて、投球モーションに入る。

 負けたくない気持ちから、僅かに力みが入り、コントロールが甘くなった。


(あ、やっべ)


 山田の手を離れたボールは、ど真ん中に飛んでいく。

 ノアとて一人の野球人。確かに山田の球は速いが、一度見ている球にタイミングを合わせることはできる。ましてや絶好球だ。見逃すはずがなかった。


 フルスイング。


 キィン。快音を残してボールはかっ飛んでいった。鮮やかなフォロースルー。

 反射的に背後を振り返ると、ボールはありえないくらい飛んでいた。センターの木の柵(フェンス)を軽々と超えて、奥に流れていた川にポチャンと落ちる。特大のホームラン。


「わーい! やったー! ぶいぶいぶいーっ!」


 ノアは両手を上げてキャッキャとはしゃいでいる。大きな胸がぽよんぽよんと揺れていた。


「すっげー!」「姉ちゃんさすがー!」


 子供達も大喜びである。

 ガックシと肩を落とす山田に、ルーチェがマスクを外して近寄ってくる。


「むぅ。だからカーブって言ったじゃないですか」

「……面目ない」

「確かにイッキューの球は速いです。ルーキーレベル帯では規格外に。だけどストレート一本に絞って待てば、当てることくらいはできますよ。そしてバットに当たってさえしまえば、イッキューの魔力は低いので、そりゃもう良く飛びます。要するに極端に軽い球なんです。今のもあれで、芯は少し外れていました。まともに振って当てられたら、全部ホームランになるくらいに思っておいてください。良いですか?」


 めちゃくちゃなゲームバランスである。

 しかし身をもって痛感した。これが今の自分の実力なのだ。


「良く分かったよ……」

「投げる球自体は良いんです。イッキューの持ち味は多彩な変化球でもあるでしょう? 入団テストは全部三振を取るくらいのつもりで投げてください」

「……おう」

「あと、本番では私のリード、信じてくださいよ?」


 ルーチェはぷくっと頬を膨らませ、上目遣いで山田を見た。


「……わかった。よろしく頼むよ、ご主人」

 その後は、ルーチェのサイン通りに投げて、ノアを三振2つに切って取った。


 〇


 その後、ドレミィがブラットと対戦した。ブラットは両打ちであるとのことで、左投げ(サウスポー)であるドレミィに対して右のバッターボックスに入った。

 結果は3打数1安打2三振。

 ブラットはストレートを打ち返すことはできたが、変化球が極端に苦手だった。まったくバットに当たらない。山田が理由を尋ねると、ブラットは信じられないことを言った。


「そ、その、実はバッティング練習も、これまでまともにしたことなくて……。壁に向かって打って、跳ね返ってきたのを打ち返すっていう練習をずっとしてたんだけど、変化球は自分じゃ打てないから……」

「なん……だと…………?」


 そんな練習をする奴は聞いたことがなかった。


「本当に、どんな生活をしてきたんですか、あなたは?」


 ルーチェも信じられないという顔をしている。


「それは……その…………あのぅ……」


 猫耳をしょぼんとさせている。軽く涙目だ。


「ご主人、まぁ、本人も言いたくないことあるだろうし、聞かないでおいてやろうぜ。それよりブラット、その練習とやら、ちょっと見せてくれよ」


 単純に気になった。バットでやる壁当てなど見たことがない。


 ブラットはバットを受け取ると、バックネットの壁に向かって右打ちでボールを打った。ライナーで飛んでいった打球が壁に当たって跳ね返ってくる。ワンバウンドしたところを、バットを咄嗟に持ち替えて左打ちで打ち返す。壁に当たって跳ね返り、また打ち返す。それを延々と繰り返してみせた。


 超絶技巧。まるでテニスのラリーでもしているようだった。


「ブラットおまえ……凄いな?」


 それはこれまでで、ブラットが最も忍者っぽく見えた瞬間だった。


 〇


 パーティーは入団テストの前々日まで、陽が昇っている間は野球の練習に打ち込んだ。

 そして明日の朝にはファンボーケンに向かうという最後の夜、練習を終えて冒険者ギルドでくつろいでいると、村長が訪ねてきた。


「みなさん。今からメジャーリーグの試合を一緒に見ませんか?」

「そういえば今日は試合日でしたね」

「見たい見たいー!」

「ボクも見たい」

「我も!」


 パーティーの返答はもちろん決まっている。


「それではこちらへ。村の広場で中継しますので」


 村長に案内されて広場に着くと、広場の中央には大きな水晶玉が置かれていた。水晶映星。野球中継の為の魔道具だ。

 村民たちは水晶映星を取り囲むようにして地面に敷物を敷き、それぞれ酒や食べ物を用意して、家族や友人、恋人と並んで座っていた。花見のような雰囲気。


 山田たちはコニーの家族の敷物に混ぜてもらった。

 村長が高々と宣言する。


「それではこれより、『東海都レジェンドブレイブス』対『亜人領ビーストキングス』の映星放送を行う!」


 村民たちが歓声を上げた。村長は懐から取り出した杖を天に掲げて唱える。


「天におわする映星よ。我らに伝えたまえ。音を。光を。映ぜよ――”映星放送ステラ・キャスト“」


 水晶映星が輝きを放ち、徐々に映像が映し出される。

 野球中継だ。今回の対戦相手は亜人のチームであるらしく、冒険者たちは頭に様々な動物の耳を生やしていた。3回裏。スコアは東海2-1亜人。


「勝ってるぞ!」「おお!」などと、あちこちから歓声が聞こえてきた。どうやらこの村の住民は皆、レジェンドブレイブスのファンらしい。


 村長は詠唱を終えると、山田たちのいる敷物に合流した。


「映星術師だったのですね」


 ルーチェは隣に座った村長に言った。


「えぇ。昔取った杵柄というやつです。わしも以前は冒険者でしてね。お恥ずかしながら、最高で4軍までしか上がれませんでしたが。引退した後、スキルリセットをして、戦闘スキルの代わりに映星放送受信魔法を習得したのです。野球を楽しみにしている人たちに、野球を見せてあげたくて」

「なるほど」

「重荷に感じるかもしれませんが、あなたたちには頑張って頂きたいです。応援しております。ぜひとも合格して、村の常駐パーティーになってくだされ。きっと、みんな喜びます」


 村長は野球中継に見入る村民たちを見渡しながら言った。


「えぇ。頑張ります」


 ルーチェは力強く頷いた。

 翌朝、パーティーは馬車に乗ってファンボーケンの街に戻った。



 明日はいよいよ、入団テストだ。

ようやく野球を本格的にやらせることができました・・・!

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