令和の怪物、甲子園のマウンドに死す
照りつける太陽。
地鳴りのような歓声。
全国高等学校野球選手権大会――『甲子園』。
令和になった今年で、101回目を数える伝統ある大会である。
その決勝戦では、白熱の投手戦が繰り広げられていた。
延長12回表に『勇詠高校』がようやく1点を先制し、スコアは1対0。
12回裏。1死。走者なし。
この回を抑えれば『勇詠高校』が優勝という痺れる場面。
マウンドに立つ山田一球は、霞む視界の中で、キャッチャーのサインにゆっくりと頷いた。大きく振りかぶって、投げる。
149キロのストレート。外角一杯、見逃し三振。
これでツーアウト。
球場が大歓声に包まれる。
今大会は彼――山田一球が席巻していた。
高校2年生にして、強豪『勇詠高校』のエースで四番。
決勝までの快進撃の立役者。
メディアは連日、熱狂と共に彼のことをこう報じた。
『令和の怪物』と。
187センチの大柄な体躯。
MAX154キロ。七色の変化球。超高校級の本格派右腕。
打っては甲子園記録まであと一本に迫る四本塁打。
なかなかの男前ということもあって、世間での盛り上がりは過熱した。
将来のプロ入りが確実視されている逸材であり、バックネット裏にはプロ12球団とメジャーリーグのスカウトが陣取り、熱い視線を送っている。
山田はキャッチャーからの返球を受け取ると、帽子を取って汗を拭い、ロジンバッグをちょんと触ってから、雲一つない空を見上げて大きく息を吐いた。
(あとひとつ……か?)
疑問形。
意識が朦朧としていた。
延長に入ってからの記憶がほとんどなかった。
この試合で山田が投じた球数は200球を超えている。
心身ともに限界を迎えていた。
全身に痺れのようなものがあり、腕の感覚もない。太陽の光で全身を焼かれているようだった。チームメイトが何やら大声で話しかけているが、何を言っているか聞き取れない。甲子園を揺るがす大歓声もずっと聞こえていなかった。
しかしこのマウンドを誰かに譲るつもりは毛頭なかった。
甲子園優勝のマウンドに立つこと。
その瞬間を味わうこと。
それは全部で3つある山田の人生の目標の1つだったのだ。彼が神と崇める、とある野球選手のように、自分もその場に立って同じ経験をしたいと切に願った。
ここまで来たのだ。あと少し。
山田は無心でキャッチャーのサインだけを見た。
カーブ。了解。
それは思考ではなく反射のようなものだった。ほとんど無意識に頷いて指の握りを変え、振りかぶって投げる。
ブレーキの利いた変化球。打者は狙い球と違っていたのか、大きく体勢を崩されて空振り。審判のストライクコールが響き渡る。
山田は返球を受け取ると、またすぐにサインを見た。
一刻も早く試合を終わらせたかった。
水中にいるみたいに苦しい。早く酸素が欲しい。体が重い。
次はストレート。了解。
グラブの中でボールの縫い目に指を合せて、振りかぶって投げる。
150キロのストレート。
甘く入ったが、先ほどのカーブでタイミングを狂わされていたらしく、振り遅れたバットは豪快に空を切る。
2アウト、2ストライク。
初回からずっと投げているとは信じられぬほど、力のこもった一球だった。
念願の甲子園優勝を手繰り寄せる一球。
――そして。
同時にそれは、山田がこの世で投じた最後の一球でもあった。
(あ……れ?)
不意に脳が揺れた。
視界をチカチカと白い光が包み、全身から力が抜ける。
山田が人生で最後に見た光景は、キャッチャーからの返球を受け取ろうと差し出したグラブが、ボールを弾く瞬間だった。
落ちた白球は小さく土の上で弾み、マウンドの傾斜を転がる。
山田の体は糸を切った人形のように、白球の隣にふらりと倒れ込んだ。
――ドサ。
甲子園の大歓声がミュートしたようにシンと静まり返り、それからすぐにどよめきに変わった。救急隊員が駆け付け試合は中断。彼はすぐに救急車で病院に運ばれたが、やがて死亡が確認された。
山田一球。享年16歳。死因は熱中症を契機にした脳梗塞。
あまりにも早すぎる『令和の怪物』の死を、日本全国の野球ファンが、いや、ほとんど全ての国民が悲しみ、惜しんだ。
彼の人生は、ここで一度は幕を下ろした。
〇
山田の意識は徐々に覚醒した。
水面に泡が浮かび上がるように。
(俺……甲子園のマウンドで倒れて……それから?)
先ほどまでの苦しさが嘘みたいに体が楽だった。
ゆっくりと瞳を開ける。
「ここは……?」
視界に映ったのは観客のいない野球場だった。
手入れの行き届いた黄緑色の綺麗な芝生。緑のフェンスと赤い観客席。見間違えようもない。それは東北を本拠地にするプロ野球チーム『東北ファルコンズ』のホームグラウンドだった。小さなころから父に連れられて何度も足を運んだ球場――憧れの舞台。
広い球場の真ん中にあるマウンドの上に、照明の光を浴びて山田は立っていた。気づけば、いつのまにか東北ファルコンズのユニフォームも着ている。
「……夢か?」
まさにそれは、山田の夢見た光景だった。
子供の頃から大ファンだった東北ファルコンズのユニフォームに袖を通し、本拠地球場のマウンドに上がること。
それもまた、全部で3つある人生の目標の1つだった。
観客こそいないが、今の自分は、その目標としていた舞台に立っている。
「残念ながらこれは夢じゃない。山田一球。君は死んだんだよ」
不意に背後から声が聞こえて、山田は振り返る。
するとバッターボックスに、神様が立っていた。
「あ、あなたは……っ!」
思わず声が震える。
緊張と混乱、それと畏敬の念からくる震え。
無理もない。そこにいたのは、子供の頃から山田が神と崇める野球選手だったのだ。
現役メジャーリーガー。「みぃくん」の愛称で親しまれる大投手。23勝0敗1Sという漫画でもありえない成績を叩きだし、東北ファルコンズを初優勝に導いた伝説の英雄。
「僕は神様だ」
みぃくんは、にこっと笑って言った。
やっぱり、と山田は思った。後光が差して見えた。
山田は興奮気味にマウンドからバッターボックスに駆け寄る。
「えぇと、あ、あの! サインしてもらってもいいですか!? 小さなころから大ファンで! ……って、色紙もペンも持ってねぇじゃねぇか! あぁくそ、じゃあ、せ、せめて! 握手! 握手してもらっても良いですかっ!?」
「どうぞどうぞ。僕でよければ」
神様はにこやかな笑みを浮かべながら右手を差し出した。
山田は恐る恐る差し出された手を握る。大きな手のひらだった。
「うおおお! 大きい! すごく大きい! 感動です! もう、この手は、一生洗わないと決めました!」
「あはは。まぁ、君はもう死んでるけどね?」
「……え?」
「いや、だからさっきも言っただろう? 君は死んだんだよ。ここは天国で、僕は神様だ」
「えぇ。またまた、ご冗談を……。だってここ、野球場ですよ? それにあなたは……」
「天国や神様の姿というのは、見るものによって形を変える。心を映す鏡のようなものなのさ。だから、ここがどこで、僕が誰に見えるか、というのは、全て君の心のありようによって変わるんだ。心当たりが、あるんじゃないかな?」
「それは……」
確かにそうだった。
山田にとって、みぃくんは神様で、この球場はまさに聖地だった。
「そうですけども。でも、ってことは、俺は本当に死んだってことですか?」
「信じたくない気持ちはわかるけどさ、これを見てごらんよ」
パチン。
神様は指を鳴らした。
空中に液晶テレビのようなものが浮かび上がって映像を映し出す。
甲子園のマウンドで倒れる山田の姿。
「君は甲子園のマウンドで倒れて死んだんだ。熱中症を契機とした脳梗塞。まったく。熱いんだから、気を付けなきゃだめだよ」
「そんな……」
山田は絶句した。
「ショックなのはわかる。でも落ち込まなくても……」
「あと少しだったのに! あとちょっとで優勝だったんですよ! そうですよ! 思い出した! あと1球! あと1球だったんです! ぬああああ悔しいいいい」
山田は天を見上げて頭をかきむしった。
「あはは。死んだことよりもそっちを残念がるとは、君は本当に野球バカだね。でもさ、安心しなよ。あの後、試合が再開すると、続いて登板したピッチャーが三振に打ち取って、君の高校は無事に優勝したよ。スリーストライクのうちの2球は君が投げたんだから、君が奪った三振みたいなものだろう?」
「いや……三振の記録は、最後に投げたピッチャーに付くはずですよ」
「ルールの話じゃない。気持ちの話さ」
「気持ちの話というなら、なおさらです! 勝利の瞬間にマウンドに立っていたかったんです、俺は! 甲子園の優勝マウンドに立つことが、3つある人生の目標の1つだったんです! あなたみたいに!」
「まぁまぁ、落ち着いて。気持ちはわかるよ。だけどさ、ほら、これ」
パチン。
神様はまた一つ指を鳴らす。天から光が差して、野球の硬式ボールが一つ、宙を漂ってふわりとゆっくり降りてきた。山田の手に収まる。
「これは……?」
「甲子園のウイニングボールだ。チームメイトたちが君の棺桶に入れて、一緒に燃やしてくれたみたいでね。君の体と一緒に天国に届いたんだよ。勝利の瞬間のマウンドに立つことはできなかったかもしれないけれど、そのボールでは代わりにならないかな?」
「あいつら……」
甲子園のウイニングボールには、チームメイトの寄せ書きが書いてあった。
「……良かったなぁ」
チームメイトの顔が浮かぶ。
優勝できてよかったと、山田は心から思った。
あいつらにとってもウイニングボールは大事なものだったはずなのに、燃やしてまで自分の手元に届けてくれたというならば、それを代わりにしても良いと思えた。
甲子園優勝のマウンドに立つという目標は、叶ったことにしよう。
「ちなみに君が着ているそのユニフォームも、死装束として君の父が着せてくれたものなんだよ。死出の旅に出るならば、白装束なんかよりも、こっちの方が良いだろうって」
「親父……」
山田は着ていたユニフォームを脱いで、改めて眺めた。
東北ファルコンズのレプリカユニフォームだ。背中には「みぃくん」が付けていたエースナンバーである18と、「YAMADA」の文字が刻まれていた。
特注品だ。
死んだ自分の為に父がわざわざ作ってくれたのだと思うと、胸が熱くなった。
もう一度羽織りなおす。サイズはピッタリだった。
「かっこいいじゃないか」
「……このユニフォームを着てこの球場のマウンドに立つことも、3つある目標の1つだったんですけど……。なんか、一応、それも叶っちゃいましたね」
「それはなによりだ。それじゃ、目標はあと1つだね」
神様は柔らかな笑みを浮かべた。
「死んじゃいましたけどね」
「まぁ、そうだね。死んじゃった。そのことを君は、受け入れられただろうか?」
「えぇ……まぁ。なんというか、夢にしては現実感がありますし……天国って言われると、しっくり来る感じがあります。甲子園で倒れたこともはっきり覚えてますし。でも、そうかー、死んだのかぁ、俺……」
悲しいという感情もあるにはあったが、それ以上に不思議な感覚だった。
「そう。君は死んだんだ」
みぃくんの姿をした神様は、もう一度はっきりとそう言った。
「俺、これからどうなるんですか? 異世界転生とか、させてくれたりします?」
山田はアニメが好きだった。
野球部のストイックな練習を続ける日々の中で、アニメを見ることは、心のオアシスのようなものだった。プロ野球選手になったら、入場曲をアニソンにしようと決心していたくらいには、オタクだった。
だからつい、そんなことを聞いてみた。
すると――。
「うん。そのつもりだよ?」
あっけらかんと神様は言った。
山田はしばし呆ける。
「……え、マジっすか?」
「マジマジ。でもよくわかったね?」
「いや、まぁその……俺、アニメとか、好きですから」
「あぁ、そういえば……最近は君の世界で異世界転生が流行してるんだったね。いやぁ、それは十全だ。説明の手間が省けて助かるよ。じゃあ簡潔に言っちゃうけど、実は君に、異世界の召喚者からオファーが届いてるんだ。正確には、君にというか、召喚者が望む条件に君がある意味では合致しているというか、そんな感じなんだけど、まぁとにかく、異世界に転生召喚されてみるつもりはないかい? 言語の壁は僕の不思議な力で何とかするからさ」
「転生召喚ですか……」
自分で聞いておいて、いざそう言われてみると、現実感がなくて困惑した。
「無理にとは言わないよ。君はあそこにある扉を通って、輪廻の道へと歩を進めることもできる」
神様が指差すと、セカンドベースの辺りに扉が一つ現れた。
「輪廻……」
「怖がらなくてもいい。むしろそれが普通の在り方なんだ。転生召喚のオファーがない生物に関しては、自動的に、説明なしで、あの扉を通ることになっている。こうして選択肢があるというのは、特別なことなんだよ」
「特別、ですか」
「そう、特別。だからできれば、君には転生召喚に応じて欲しい。僕は数多の世界で神様を務めていてね。召喚者の願いに応じて、異世界で死んだ生物を斡旋する、仲介人のようなことをやってるんだけどさ。君の代わりを見繕って来るのは面倒なんだ。それに、僕としてはぜひとも、君にその世界に転生してほしくてね」
山田は迷った。
なにか聞かれたらすぐにイエスと答える彼にしては、珍しく。
異世界に転生召喚されるというのは、アニメ好きとしてはバッチコイな展開である。
二つ返事で頷いても良い気がしたが、しかし、重要な問題が一つ浮かんだ。
自分は野球のことを深く愛している。
野球のできない生活に、耐えられる自信がなかった。
野球ができないくらいなら、それこそ、死んだ方がマシなのだ。
「あの、一つ聞いても良いですか?」
「どうぞ」
「その、異世界で、野球をすることはできますか?」
変なことを聞いているという自覚はあった。
何しろ異世界なのだ。
野球が存在する異世界など聞いたことがなかった。
「ふむ。君は本当に野球が好きなんだね」
「それは……そうですね。俺にはこれしかないですから」
山田は甲子園のウイニングボールを握り締め、見つめた。
自分にできることは野球だけなのだ。
自分の全てを賭してきたのだ。
野球のない生活は今更考えられない。
神様はそんな山田を見て、微笑んだ。
「……安心してくれ。答えはイエスだ。だからこそ君を選んだと言っても良い。君が転生召喚される異世界では、なんと、野球は大人気のスポーツなんだ。君の住む世界の野球とは、少しだけ違う所もあるけれど、まぁだいたい同じだ。投げて、打って、走って、捕る。ワン、ツー、スリーストライクでアウト。それは変わらない。剣と魔法と野球の世界さ」
「剣と魔法と……野球??」
首を傾げる。
「ま、詳しいことは実際に転生召喚されてその目で確かめると良いさ。嫌だったなら死ねばいいんだ。そしたら今度こそは輪廻の道に進める。とにかく、その異世界には野球と呼ばれるものがあるんだ。君にとっては、それが一番大事なことなんじゃないかな? 他のことは些細な問題だろう?」
確かにそうだ。
野球があると聞いて、山田の心は大きく転生召喚に傾いた。
また、この体で、野球をやれる可能性があるのだ。
こんなにありがたい話はない。
「そうですね」
「そして、その異世界でなら、君の目標の最後の1つを叶えることもできるだろう」
神様はいたずらっぽく笑い、全てを見通したように言った。
「なんで、俺の目標のことを知ってるんですか? 言ってませんよね?」
「僕には何でもお見通しなのさ。なにしろ神様だからね。その目標、口に出して言ってごらん? 想いを言葉にするのは、とても大事なことだ」
「俺の目標――」
山田が人生で掲げた3つの目標。
1つは、甲子園優勝のマウンドに立つこと。
1つは、子供の頃から大ファンだった東北ファルコンズのユニフォームに袖を通し、本拠地球場のマウンドに上がること。
そして、もう1つは――。
「メジャーリーグで活躍して、世界で一番の野球選手になること」
大言壮語も良いところだという自覚はあった。しかし掲げる目標は大きい方が良いとも思っていた。叶うかどうかではない。山田にとってその目標は、何を目指すのかということだった。一生で何を為すかという問題だった。
神様は「ヒュウ」と口笛を吹いた。
「大きく出たね」
「笑っちゃいますよね」
「いいや。笑わないさ。誰にもそれを笑う資格なんてない。神様にもね」
「まぁ、笑うやつがいたら、ぶっ飛ばしてやりますけどね。神様でも」
「かっこいいね。君はやはり、僕が見込んだ男だよ」
「憧れの野球選手の格好をした人に言われると、照れちゃいますね……。でも、この目標を異世界で叶えることができるというのは、どういう意味ですか?」
「そのままの意味さ。君が転生することになる異世界には、『メジャーリーグ』という名前の野球リーグがあるのさ。確かに、君の世界の『メジャーリーグ』とは少し違うかもしれないけれど、その異世界におけるトップリーグだ。世界中の猛者たちが野球でしのぎを削っている。そこで一番になるのを目指すというのはどうだろう?」
端的に言って、燃えた。
そんなに熱い話はない。野球に身を捧げた山田の返答は決まっている。
「最高じゃないですか。やります。やってやります! 俺、異世界転生して、その世界で1番の野球選手になりますよ! 俄然、やる気が出てきました」
甲子園のウイニングボールを見つめる。
野球の夢はまだ終わらせるわけにいかないのだ。輪廻とやらで、0からやり直すなんてごめんだ。目標を達成するまでは、死んでも死にきれない。
「決まりだね。よし、そうと決まれば、早速転生召喚と行こうじゃないか! さぁ山田一球。あれを見るんだ!」
神様が指差すと、マウンド上に強い光が天から降り注ぎ、魔法陣が形成された。
「あれは……?」
「異世界へのゲートだ。あそこに入れば転生召喚される。あ、ちなみに、チートの能力とかはないからね?」
「いりませんよ、そんなもの」
山田はきっぱりと言ってみせた。
「絶対勝てるゲームなんて面白くないじゃないですか。それに、俺は『令和の怪物』とか呼ばれて甲子園で無双してたんです。異世界でもこの身一つで無双してやりますよ!」
「ふふ。ま、君ならそう言うよね。よし、それじゃあ、これでお別れだね。最後にこれだけ言わせてもらうけれど、僕は君のこと、これからもずっと天上から応援しているよ。これまでも、甲子園での君のピッチングを、ずっと楽しませてもらってたからね」
「見てたんですか?」
「もちろん。甲子園は神様が見てるものだ。君の活躍には心躍らされたよ。だから、君が倒れたのを見て、多少の無理を押して君を選んだのさ。いいかい? 僕は君のファンだ。贔屓の選手なんだ。そのことを忘れないでくれ。異世界でも活躍するところ、僕に見せてくれよ? 応援してるぞ。『令和の怪物』」
そう言って、神様はウインクをして、ふわりと天へと昇って行った。
神様は憧れのプロ野球選手の姿をしている。そんな人に面と向かってファンと言われると、くすぐったい気分だった。それに、応援してると言われると、胸の奥に炎が灯ったような気もした。今なら何でもできそうだった。
「はいっ!」
山田は一つ大きく頷き、甲子園のウイニングボールを後ろのポケットに突っ込んで、マウンド上の魔法陣へと歩いて行った。
光が彼の体を包み込む。
あまりの眩しさに、山田は目をつむった。
「それじゃあ、行ってらっしゃい。頑張れよ、山田一球」
神様はわくわくとした子供のような顔で、山田の背中を見送った。
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