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第2話『赤と黒の聖夜』

 六時に起きると支度をする。


「プレゼントは全部持ったよね。服、スカートは大丈夫かな、ちゃんと着れてる? 帽子も汚れていないよね。子どもたちの前に出るのに汚いサンタクロースじゃ幻滅されちゃうからね」


 朱音は全身が写る鏡を使って身だしなみを整える。赤い帽子に赤い服、赤いスカート。確認が終わると白いもこもこした暖かいブーツを履いてプレゼントの詰まった袋を持って家を出る。時刻は七時、もう暗い時間のはずだが、外はイルミネーションなどの灯りがあちこちに飾られていて冬の夜にしてはライトなしでも見える明るさだった。


「さあ、サンタクロース活動開始だよ!」


 楽しい聖夜の始まりだ。朱音はサンタクロースとなって子どもたちにプレゼントを渡して回った。

「はい。いい子にしていた君にはこれをあげよう」


「わあ。ありがとうサンタさん!」


 家のドアから現れる少女にプレゼントを渡す。中身はこの子の欲しがっていたぬいぐるみだ。そこそこ大きいので小さな女の子に持ち運べるのか心配になったが、プレゼントをもらった喜びの力で少女はプレゼントを家の中へ持ち運んでいった。

 そうしていくつものプレゼントを渡して半分くらいまで渡したときのことだった。

 家の前で少年とサンタクロースが何か話している。プレゼントでも渡している途中なのだろうか。別に同じサンタクロースなら隠れている必要はないはずだ。だが、同じサンタクロースではないから隠れているのだ。


「黒い……サンタクロース……?」


 朱音はそのやり取りを隠れて見ていた。


「さ、サンタ……さん?」


「やあ、こんばんは。はい、プレゼントだ」


 黒いサンタクロースは豪華な装飾はされていないただの箱を渡す。


「開けてみろ」


 脅迫のようにも思えたが、子どもはその箱を開けた。そのプレゼントはすぐにその子どもの手から落ちた。それと同時に中身も落ちる。なんと、中身はアイスクリームの棒だった。


「じゃあな。プレゼント、大切にしろよ」


 子どもはそのサンタクロースからのプレゼントに驚き、ショックのあまり泣き出した。もちろん、その状況を見ていた朱音も驚いた。


「ひ、ひどい……」


 朱音はすぐにその黒いサンタクロースを追いかけた。


「ねえ、待って!」


 黒いサンタクロースはこちらを振り返る。


「なんだ、赤サンタか。俺に何の用だ?」


「あ、あなた。昨日の……!」


 朱音は驚いた。その黒いサンタクロースの正体が昨日すれ違ったあの少年だったのだ。


「ね、ねえ。どうして、あの子にゴミを渡したの?」


「ゴミを渡した? 別に俺はゴミを渡してなどいないぞ」


「……え? だって、さっきあの子にアイスクリームの棒を渡したじゃない! あれのどこがゴミじゃないの?」


「ああ。あれはゴミだよ。けれど、俺はあいつにゴミを渡したのではなく、ゴミを返したんだよ」


「……どういうこと?」


 朱音はこの黒いサンタクロースの言っていることがわからなかった。


「赤いサンタクロースはいい子にしていた子どもたちにプレゼントを渡す。そうだよな?」


「え、ええ。サンタクロースはそうやって子どもたちに夢を届けているものよ」


「俺たち黒いサンタクロースは悪い子たちに罪を届けるんだ」


 黒いサンタクロースは言った。


「つ、罪……?」


「ああ、そうだ」


 黒いサンタクロースは自分の担いでいるプレゼントの袋の中からひとつのプレゼントを取り出して中身を見せる。中身は何か食べ物が入っていたような紙コップだ。


「これは昨日、唐揚げが入っていた紙コップだ。これはある少年がゴミ箱に捨てるのを面倒くさがって道端に捨てたんだ」


「……まさか、さっきのも!」


「ああ。さっきのアイスクリームの棒は、昨日公園で起こったことだ。公園にゴミ箱がついていればみんなそこにゴミは捨てるだろう。もちろん、あの少年もゴミを入れようとしていた」




 昨日の公園。それは朱音が帰ったすぐのことだった。


「じゃあ、アイスも食べたしそろそろ帰ろうか。ゴミはちゃんと捨てられるよね」


「うん!」


 少年は母親に言われて公園のゴミ箱にゴミを投げ入れる。だが、ゴミは入らなかった。


「あっ……」


「どうしたの?」


 公園の外で子どもを待っている母親に声を掛けられて少年は母親の下へ向かっていく。少年の心ではゴミを拾って捨てるか、そのままにしておくかの二択があった。だが、周りには見ている人は誰もいない。そう考えるとそのままにしても文句を言う人はいないと。そんなやましい考えが頭をよぎって行動に移してしまったのだ。




 そのことを黒いサンタクロースは話した。


「そういうことだ。俺はそんな子どもを増やしたくはない。それに、そんな子どもがプレゼントを貰えるなんて、そんなのはずるいんじゃないのか?」


「……っ」


「じゃあな。俺はまだ子どもたちに返すものがあるから」


 私は何も言えずその黒いサンタクロースの背中をじっと見ることしかできなかった。

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