第1話『聖夜の前日』
今日は十二月二十三日。クリスマスイヴの前日だ。今はもう、冬休みで学校は休みなのだが。
「あかね、今日も一日お疲れさま!」
私は赤坂朱音。知る人ぞ知るっていうくらいの知名度の進学校に通っている高校二年生だ。
「うん、しおんもことねもお疲れ……」
朱音は机に深紅の長髪を乗せるようにして机に伏せている。そんな彼女を元気づけているのは朱音の友人である紫音だ。そして、その隣に立っている大人しい少女は同じく友人である琴音だ。
「一番、あーちゃんが疲れているみたいだけどね……」
琴音はそんな朱音に向けて笑ってみせた。
「……あ。なんか、元気が出てきた」
琴音はシルバーブロンドの短髪に目の中に宝石でも入っているかのような透き通った青い瞳をしている。こんな紹介は少しおかしいかもしれないが、私たちの中で自慢のマスコットキャラクターだ。そんな彼女の笑っている姿を見ると自然と元気が出てくるのだ。
「えっ、な、なんで……?」
「ああ、あかねの気持ち、わかる。私も元気出たよ。ありがとう、ことね」
「え、ええ……」
どう返したらいいのかわからなく琴音は困っているようだ。
紫音も琴音の笑顔を見て癒されているようだが、紫音も琴音とは違う方面でいいところがある。薄紫色の髪とアメジストのように綺麗な瞳をしている。私たちの中では身長が一番高く、常にみんなの気遣いができる優しく美しい人だ。同年代とは思えない気品が彼女にはある。
「進学校だからってクリスマスの前日にまで講習しなくてもいいのにね。それはそうと、あかね、明日って予定ある?」
「明日ってクリスマスだよね。ごめん、ちょっとその日は用事があるの」
「へえ……クリスマスに用事ねえ……。ひょっとして彼氏でもできた?」
「そ、そんなんじゃないって。ちょっとした用事がね……」
「はあ……。みんなとクリスマス過ごしたかったなあ……」
帰り道。紫音と琴音と別れ、もうすぐ家に着くといったくらいのところだ。家の前にある小さな公園を通って帰ろうとしたときのことだ。
「あっ……」
公園のベンチで棒付きの小さなアイスを食べる子どもとその母親を見かけた。何気ない光景のはずだが、日にちが日にちだ。私にとっては特別な光景のように思えた。
「待ってて。あなたにはきっといいプレゼントを届けてあげる」
朱音はそう呟き、誰にも見られないよう密かにガッツポーズをした。
「よしっ、がんばろう!」
そう決意して帰ろうとしたとき、ある少年とすれ違った。すれ違うことなど多々あることなのに、なぜか朱音は振り返った。深い闇を思わせる黒い髪に漆黒の瞳をした少年だった。
「見慣れない子だけど、引っ越してきた子なのかな……?」
「さあ、今日と明日でがんばるぞっ!」
家の地下室で聖夜に向けての会議のようなものを一人でする。家は別に豪邸とかではなくごく普通の二階建ての一軒家だ。ただ、ちょっと小さな地下室があるくらいだ。昔からその人が一人しか入れないような窮屈な部屋を秘密基地にしていた。
そして、その部屋の床に地図を敷き、朱音は赤いペンを持ってその地図に書き込んでいく。
「この子の家に行って次はあの子……。どう行けば最短ルートで行けるかなあ。夜が明ける前には渡しきらないと……」
その後、朱音は学校から帰ってきてから次の朝までずっと作戦会議をしていた。そして、作戦会議が終わるとすぐに眠った。そして、六時に起きるという不健康な生活をした。