#5
ある日のこと、珍しいことに来客があった。
「よっ、久しいな・・・・・ってか、お前に百合の趣味があるとは・・・」
インターホンに対応し、玄関の鍵を開けて顔を合わせた彼の開口一番がそれだった。
「久しいけど・・・百合?何の話だ?」
僕には百合とは花である程度の知識しかない。
「知らぬが仏さ」
彼は僕の大学の同期、前に述べた教師だ。
教え方はいいのだが、問題文作りが下手なので、僕がよくテスト作りを手伝っている。
「にゃーにゃ?」
少女とは初対面であり、首をかしげている。
「少女、こっちは知り合いの神永 月詩さん。月詩、少女だ。見てのとおり、猫耳少女で・・・拾った」
「よろしく、少女ちゃん」
月詩はニコニコと少女に右手を出す。
「にゃーッ」
カプッ
「あ、少女?」
僕が止めるより早く、少女は月詩に噛み付いた。
「うーん、痛いね・・・・・いや、真面目に」
無理やりに外そうとせずに、少女を見つめるままの月詩。
「モゴモゴ」
口に月詩の手が入ってるので、話すことが(元から)できない少女。
「微妙な構図だ」
僕はつぶやいてから。
「少女、それはおいしくないよ」
脇をくすぐる
「にゃにゃーにゃーにゃにゃー」
笑って、口から月詩の手を開放する少女。
「さっき大福食べたから、おいしいかも」
苦笑いしながら手を振って痛みを緩和させながら月詩が言う。
「のんきだな、血は?」
「まぁね、大丈夫」
「少女、食べちゃ駄目だよ?」
僕が注意すると
「にゃぅ〜」
なにか、猫の眷属に嫌われることを月詩をしたのだろうか。
「多分、秋月のとこ行ったからだな・・・」
ボソッと、月詩が言う。
「秋月・・・・・橘か?」
記憶を手繰れば、一人出てきた。
「よく覚えてるなー、昨日のOB会で偶々会ってさ、帰りにあいつの家行って今日ここに」
「風呂は?」
僕は月詩の匂いを嗅ぎながら尋ねる。
「タバコでごまかせてる筈だけど・・・」
「入ってないのかい?」
僕が眉を寄せると、
「冗談だよ、ちゃんと借りた。
流石に女性の部屋に来るのにこれは不味いと思ってね。
それ以前に、人としても問題だと思ったし」
あははと、照れ笑いしながら後頭部をかく月詩。
「それで、どう解釈すると少女が怒るんだ?その話は」
僕は先ほど入れたお茶を彼が座るテーブルの前に置いてやる。
「ありがとう、いやね、少女のような子が向こうにもいたのさ。
黒い猫耳と、尻尾のついた女の子」
「ほぉ、興味深いね」
僕はソファーに座る。
彼は床にあぐらをかいていた。
「にゃぅ〜」
少女だけが月詩を睨みながら立っている。
「少女、おいで」
僕がソファーの空いたスペースを叩きながら言うと
「にゃー♪」
フローリングをぺたぺたと歩き、
「何故そこに?」
僕の膝の上に座った。
「少女?」
呼びかけると
「にゃ?」
僕を見上げる少女
「こっち」
ソファーをたたく
「にゃうにゃう」
首を振る少女
なんかもう、面倒になったので放置。
少女は軽いから別に苦にはならないし。
「あははは、姉妹みたいだな。もしくは恋人とか」
「僕と少女は同性だから恋人はないよ?」
「くくく、そうかもな」
月詩は笑いをかみ殺しながら僕に同意する。
「それで、橘のとこのはどうだった?」
話を本題に戻す。
「別に?少女くらいに可愛い女の子だったよ?
向こうは”美毛”って名前らしい。
見た目小学一年生くらいかな。人語でのコミュニケーションが出来てた」
少女はまだ幼稚園幼少組程度、もしかしたら話したり出来るようになるのだろうか。
「確か、5歳になったら話し出したって聞いたよ」
お茶をすすりながら月詩が言う。
「5歳か、もう2,3年かな?」
「にゃん」
頷く少女。
「そうなの?」
もう一度頷く少女。
「おはよう」
「ぅにゃん」
頷く少女。
「お前それ、寝ぼけてないか?」
「多分ね、少し前まで寝てたし」
「寝かせてきたら?」
「僕まで連れてかれる。寝てから運ぶよ」
「ククッ、まだまだ童女だな」
「否定できないね」
僕は苦笑いをする。
それから僕らは3時間ほど世間話をした。
1時間半ほどで少女は寝てしまい、僕は月詩に手伝ってもらいながら、
少女をベッドに運んだ。
「それじゃ、俺はそろそろ」
お茶を飲み干して立ち上がる月詩
「ああ、色々とありがとう」
ハンガーポールから彼の上着を取る。
「っと、忘れてた。この前の分な」
彼は胸ポケットから封筒を出して、僕に差し出す。
「期末テストの分だね。確かに」
僕は受け取って、中身を見る。
大昔の福沢さんが10枚。
「君も、律儀だな」
「そのほうが、いい付き合いができるだろ?」
「ふふ、確かに。もう3年目かな?」
「だな、受験で大忙しだ」
苦笑いする月詩、微妙に目元に疲れが見える。
「まったく、今日はゆっくり休むことを勧めるよ」
僕が腕を組んで言うと
「おぅ、帰ったらすぐに寝るさ」
彼は欠伸をしながら帰っていった。
「全く、教師とは大変だね」
僕は呟き、欠伸を一つする。
どうやら、月詩のが移ったらしい。
「ふむ、6時か・・・・・どうせ少女は起きないだろうし」
今日はもう寝てしまおう。
家事は午前中に済ませた。
寝巻きに着替えるのも面倒になった僕は少女の隣に倒れるように寝転がり、眠った。