#2
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「君は・・・人の食事で平気かい?」
卵焼きを作りながら後ろのテレビに夢中の少女に尋ねる。
「にゃん♪」
「そうかい」
フライパンを振り、形を整える。
昨日から、彼女は「にゃー」とか、「ぅにゃん」とか、不思議な猫っぽい発言しかしない。
YES NOは首の振り方で判別できる。
「まったく・・・ランチを食べたらお巡りさんのところに行くよ?君が何処の誰なのかを知りたい」
卵焼きを皿に移し、お茶碗にご飯を入れる。
「にゃぅ?」
彼女には理解できなかったらしい。
「食べたら、散歩しよう」
「にゃ」
首を縦に動かしたところを見ると、了承だろう。
僕はお茶碗二つと、おかず数種類の皿をテーブルに運ぶ。
「さて、食べようか。箸は使え・・・ないのね。どうぞ」
彼女は箸を両手に持ってワクワクした顔。
仕方なく、一応持ってきたフォークを渡す。
「にゃ?」
別に、彼女から見れば、箸もフォークも大差ないようだ。
「まったく・・・何者なんだか・・・頂きます」
両手を合わせ、呟く。
「にゃー」
食事前の礼儀は知ってるのか・・・・
食事を終えた僕らは出掛ける用意を始めた。
「・・・・君の服はまだ乾いてないから、それで我慢してくれないかな?」
セミ・ワンピースを彼女に着せる。他の衣服も大体はカバーできそうだ。
「ふむ、」サイズとしてはギリギリだな。
僕も軽く身だしなみを整える。
「さて、こっちだよ」
彼女は直ぐにどこか行きそうな気がしたから、手をつなぐ。
散歩するには、少し元気すぎる日の光だった。
「はぁ・・・猫耳少女ですか・・・・多分、明日には見つかりますよ」
交番の警官は疲れた顔で僕に言った。
「・・・なにかあったんですか?」
「ええ・・・まぁ、すこし・・」
言葉を濁す彼、嫌な思い出っぽいので
「分かりました。お願いします」
そう言って、交番を後にする。
「さて、帰ろうか?」
右手の先にいる彼女に聞くと
「にゃう」
縦に動く首、肯定。
「ん、何か食べたいものは?」
「にゃっ」
指差したのは、ワゴンを改造して屋台みたいにしてる揚げパン屋。
確かに、さっきから良い匂いしてるからね
僕は二つ買い、一つを彼女に渡し、近くのガードレールに腰掛ける。
「食べ方は・・・・・分かるようだね。助かるよ」
となりを見ると、少女は顔中を砂糖やら油やらで汚しながら齧り付いていた。
「はぐはぐ・・・にゃ?」
僕の視線に気づいたのだろう、上げパンから僕に視線を移す。
「喉を詰まらせないでね?」
頬の大きな砂糖の塊を指で落とす。
「にゃん♪・・・・はぐはぐ」
多分、今僕は笑っているんだろうな。
誰かと話しながらこうして食べるのは久しぶりな気がした。
僕は昔から人付き合いは苦手だし、本が好きだからあまり友人はいない。
そのせいだろう、この年でも相方のような存在はいない。
「寂しさがないといえば、嘘になるのだろうね」
そのまま、僕らは上げパンを食べ、少女の下着を買って帰った。
お巡りさんが連絡をくれるのは明日だから、今日はゆっくりするしかないさ。
それが、今日何もしない理由だった。