俺はボス
こんばんは
柳の葉がヒラリと揺れるように俺はソコに立っていた。
そう!これこそ俺が編み出した【格好良い参上の仕方!】である。
「アハハハ!ワーハハハ!……悪党!!俺の大事な仲間になんて事をするんだ!
この罪!お前の悲鳴だけでは償えないぜ!?」
心の中でキマッタ!と思っていたら、正面の階段からコツコツと誰かが降りて来る音がしたと共に声がしてきた。
「では、どうすれば償えるのでしょうか?」
「お前は?」
俺の疑問の声よりも先に、周り連中が『ギルド長のジャックだ!』とか『耳長ジャックだ』と聞こえて来た。
この男、大男まで駆け足では無いにしろゆったりと寄ると『どうしましたか?』と現状を聞いた後、両手に刺さったナイフを取ろうとして『ハッ!?』となっていた。
その動きは、火傷をしたかのような動きで、触ろうとした手をプルプルと降っていた。
「成る程……アナタが巷で義賊というホラを吹いている輩ですか。
まあ……この際、ホラかどうかは問題ではありません!私の所有物に傷を付けた代償として、アナタには痛い目に会って貰いましょう。」
「良いぜ!かかって来い!」
俺は未だあったナイフをシャキン!と取り出し構えた。
(これは驚きです。あのナイフは、二本だけでは無いのですか……。
セイシに刺さっていたナイフからは熱気が有り、私の指を燃やそうとしていた……それを考えると、伝説級で精霊が宿った武器と言える。
と、すれば。)
「と思いましたが、ギルド長たるもの命の駆け引きとは無粋と思いましてね。
見れば、私側にだけ非があるとは思えないですし……そうですね。ココは、簡単な勝負をしませんか?」
「簡単な勝負?」
あの時は本当に調子にノッていたんだと思う。
もうすぐで大人になろうかという子供なのに、プロ相手に殺し合いを簡単に引き受けるなんて無謀!シスターにこっぴどく怒られたもんだ。
調子にノッている俺は、何の考えも無くジャックとか言うギルド長の話を受けるんだ。
でもまあ、勝負は俺が最も訓練を積んで来たヤツで本当に良かったと思ったよ。
「キミはナイフが御上手だ。だったら、そのナイフであの的に何本当てるか勝負しないか?
……そうだな。キミが勝ったら、キミの望む物をくれてやろう!
だが、もし私が勝ったら……キミが持っているそのナイフを頂こう。」
もちろん!逃げもしなければ隠れもしない俺は、調子にノッて『友の為だ!良いぜ!』と了解の意を示した。
するとパチン!と指を鳴らして受付のお姉さんを呼び『契約書を』と小声で伝えると
「すいませんが、ここにサインをしてくれませんか?私は先にサインをして欲しい物を書き込みます。
そして、キミは欲しい物を書き込みサインして欲しい。」
俺は、こう見えて読み書きが出来るからな!
あの日の約束は、この為にあったのかも知れないと思う程に、俺の義賊魂が燃え上がったのは言うまでも無い。
「では!三本勝負!私から行くぞぉ!!」
「え?」
「何を言っている?契約書にも書いてあったろ?ほら、ここに。」
ジャックが指し示す所には、これまた本当に小さな文字で『尚、ギルド長から先行する』と書いていたのだ。
俺も子供だったのだろう。『本当だ』と感心しているが後ろの方からは『終わったな』という呟きが多々あった。
その終わったは、ジャックの先行のナイフ投げで意味を理解する。
「火の精霊よ、我がマナを使い火炎の衣を纏い飛んで行け!……ファイアーアロー!」
もう、アレだ。
ジャックは、ナイフに向かって唱え出すと突然ナイフの周りに火の玉を纏う!更に、ナイフとジャックの手が燃えたままでヒュッと投げるとナイフは的……ド真ん中の赤い丸へと突き刺さる。
いや!それだけでは無い!?
刺さったと同時に、赤以外の所が燃えて行くじゃないか!
「ハハハ。これで、キミは負け確定だな。」
フン!となっている奴には悪いが
「それは、どうかな?」
(何度!何度!!ナイフを投げたと思う!?)
ヒュッと何の迷い無く、躊躇も無く投じられた俺のナイフはブーメランの様にクルクルと回る。
「ハッ。なんだそりゃ?刺せる気があるのか?」
クルクルと円を描くように弧を描いてスカン!と刺さった。
「俺も……赤に刺さったぜ?」
これには、誰もが無言で驚愕に陥っていた。
「バカナ!あり得ない……」
(精霊か!精霊の力なのか?……イヤ!マナの気配は無かった。では?これは、コイツの技量か)
赤の的は一円位の大きさなのに!?俺は一円の円では無く、厚みに刺したのだ。
オッサンからの『バカナ』発言で俺は少し悪党の顔に成ったのかもしれない程に調子にノッた。
「あんたの番だぜ?……ああ!当たるトコ無いなぁ?」
「ほざけ!ギルドの長の経験をナメるな!
フー……!」
コイツも大したタマだった。ギルド長という名に恥じないというべきだろう。
ジャックは最後の手段なのか、精神集中をした後でさっきよりかは力強く投げた。
「おー。そんな方法があったのか。
じゃあ……」
ギルド長は、最初の投げ刺さったナイフの柄にナイフを刺すという技を出した事で『オオー』となるが、感心する場で颯爽と逆回転でブーメランの様に投げて再び刺さるのを見て、一瞬にして極寒のような静けさとなった。
「ハァ……ハァァァ……」
(ここで負ければ!俺はどうなる!?俺の地位は?俺の暮らしは?ギルドからのメンツは??
……俺は死ぬのか?仲間から殺されるのか!?こんなガキに?手も足も!水面すら波立てずに俺は沈んで行くのか?)
プルプルと汗だくとなった彼からは、もう気力さえも残って無い感じだ。
腕から溢れ落ちる汗……そして
「カシャッ……チン」
スルリと汗で滑り落ちるのはジャックのナイフだった。
「ハズレー!じゃあ、次は俺ー。」
ジャックの声が出ない『待て』を無視し俺は投げた場所は、ジャックが刺してある二本のナイフの柄!
なんという音なんだろうか!?砂にナイフを落とした様な?それとも、ナイフにパラパラと砂を落とす音な程に!静かでそしてきらびやかにジャックのナイフは飛び散った。
「いいか!?今からここが俺の家で住みかだ!
てめぇら、出ていけぇ!!」
……
と言って早いもので、六年が経過する。
それから流れ的に、あの二人は俺の義賊仲間となり名をアルとコロなのだが、これは彼らが付けた名前なので本名は知らない。
そして坊こと俺は、二人からの提案で『俺達のボス!』って事で名をボスと命名した。
明日もよろしく