1 ハジマリ
こんばんは。異世界ものです。
今でも思い出す……
その経験は、俺の人生の行く先が確定した時だった。
「坊、俺は別に自由気ままにお前を助け出す分けじゃねぇぜ。坊、お前の叫びが!俺を動かしたんだ。」
チャリとナイフを取り出す男の先には、夕暮れの日が重なってナイフの輝きとニヤリと笑う男の笑顔が輝いていた。
「それに、お前の叫びに反応したのは俺だけじゃ無かったしな。」
「どういう事?」
逆光で顔は見えないが、キラリと夕日に光るナイフを遊び感覚で鮮やかに片手で回し初めた。
「そりゃあ……ん?どうしたんだ??」
「何!そのナイフさばき!!カッコいいよ。」
彼は『そ?そこ?』といった反応を見せる。
子供とは、どこが重要とかだなんて関係ない!見たものや経験したこと、更には窮地を救ってくれた人だからこそ!なんでも食い付くのだ。
「ハハハ。ナイフがカッコいいか……なら!このナイフを坊にくれてやろう。
だが!これだけは約束してくれ。」
憧れの人から、憧れのナイフを!俺から見ればあの神さばきをしたナイフが、俺の手中になるものとは思いもよらない出来事だ。
そんな興奮した俺に、ナイフと彼の手が重なりギュッと握られた。
「や、約束?」
「これで人の迷惑をしてはダメだ!
これはな……これは、俺の冒険の日々で使い込んだ調理専用器具なんだ。」
サッと彼の胸から取り出したのは、真っ赤な林檎。
その林檎を、ナイフを持った手と空いている手とでさばき調理して行くのだ。
「ウ!?猛獣・跳ね飛びウサギだぁー!」
彼の手には、真っ赤な林檎からは想像を絶する耳がピン!と生きの良い跳ねたウサギがちょこんと乗っていた。
切り方にして、八等分といったところ。
「そうだウサギだ。」
……それから何回か彼と出会うが、記憶の中では夕日に写る面影しか思い出せない。
だけど今でも覚えているのがある!
アレは……
「坊。中々に、ナイフ使いがさまになっているじゃないか。」
「うん!毎日教会の祈りをサボって練習してきたからね!」
「ハハハ。サボってか……」
彼は夕日の方へ向くと、俺の顔を見ずにゆっくりと話し出した。
「坊。世の中、読み書きくらいは出来ないと食べていけないぞ。
それに、そんな風にナイフさばきを扱っていると人から変な目で見られてしまうぞ。」
彼は、いつにも増して俺の事を心配しているかのような素振りに俺は驚く。
いつもだったら『男は喧嘩に負けても、心さえ折れてなければ勝っているのさ』とか『心から信じれる友をつくれ』とか言って俺を勇気付けしてくれているのに……最後のような感じが伝わってくる。
「何か……あったの?」
それは、彼がずっと夕日の方へ顔を向けて一度も目を合わせてくれないから、子供だった俺もそう感じ取ったんだ。
「坊の目は誤魔化せないな。」
そう言った後『さすがは引き継ぐ者か』と呟く彼は、一度も俺の顔を見ずに話し出した。
「俺はさ、何人かの仲間を組んでこれから悪神を封印しに行かなくてはいけなくなったんだ。
まだ、この剣も成長途中だってのに……」
ホゲーと子供の俺が静かに待機とか出来ないのを知ってか、突然の静かさを感じ取った彼は俺に分かる様に話を変えてきた。
「そうだなぁ、この世界を……悪者を退治して平和へと導くために旅立つ!と言っていいかな。」
「凄い!旅立つんだね。
僕も早く旅立って悪いヤツをやっつけたい!」
俺の言葉が通じたのか分からないけど、彼の口は笑っていた。
彼の笑う口を見て俺は『良いことを言った!』と一瞬思ったんだ。
だけど彼は口を緩めながら否定した上で
「悪をやっつける!これは良いことだけど、本当はもっと良いことがある。
それは、助けを求める人がいれば助け見えない悪を罰する!そんな大人に俺は成りたかった。
坊はこれから大人になる!嫌だ嫌だと言っても来るんだ!だったら、俺が出来なかった事を何か一つでも良いから成し遂げて欲しいな。
そしたら、俺からプレゼントをやるよ。
……そうだなぁ。ソレは、坊の枕元に置いといてやるよ。」
そう言われてから、俺は教会にあった本を読みあさり
「アリサ先生ー!坊っちゃんが、勝手に禁書室に入って持ち出してまーす。」
「コラッ!急に読み書きの勉強が盛んになったと思ったら【大人の悪を罰する・冒険の旅辺】を読んで!
これは!あなたの様な子供が読む物じゃ無いですから!
……大人になってから読みなさい!」
俺は遂に『これだ!』というのを見つけた。
それは、弱い者を助け何者の命令も受けない、何者にも束縛されず自由に生きる者。
悪の根元を奪い、弱きものへと返還する。
どんな敵が来ようが!凛とした態度で迎え打ち、バッサバッサと切りさばいて闇の世へと消え去る。
人は言うだろう。人は願うだろう。人は求めるだろう!
「アリサ先生ー!坊っちゃんが『俺は義賊だ!』って、十字架の上に乗ってるぅー。」
「ぅえぇぇ!?」
この後、シスター含む総勢二十人と追い翔っこし負けて尻の痛さで気を失い目が覚めると枕元に!?
……
「懐かしいなぁ」
フフフと笑い、ギィと椅子に持たれながらナイフを扱って林檎を調理していく。
明日もよろしくです