とりあえずの安寧
ーー幸せだった。穏やかだった。たとえ異能という危ないものを姉弟で持っていたとしても、親は私達を愛してくれていたからーーー
――此処に来る前の最後の記憶はよくある、幸せなものだった気がする―――
ピピピピッ、ピピピピッ
聞き慣れた目覚まし時計を止めて、その人物は気怠そうに体を起こす。溜息をつき、顔を上げるとこれまた気怠そうに瞼が半分閉じた顔と目が合う。
―そんな顔してると幸せが逃げるよ―
これまでにも散々言われた軽薄な声が脳内に響く。
そして彼はこの世の全てを憎むかのような舌打ちを一つすると、ようやくベッドから起き上がった。
「あ〜寝坊すけさん、やっと起きた〜?」
朝からうざったく絡んで来る奴に思わず眉が寄る。起きたばかりだというのに、本日2回目の舌打ちが溢れる。
「起きたばっかで舌打ちなんかすると幸せ逃げるよ?」
「そう思うならいちいち話しかけて来ないで下さい」
「アハハ、ひっどいなぁ〜そんなに塩対応だと慎也さん泣いちゃうよ?幸多くん。」
「死ねばいいのに」
―朝から目障りな光体を相手にしたせいで気分が悪くなった気がする。今日の任務もそこそこ多く、1日で終わるかどうかだった気がするが、このイケメンは呑気にコーヒーを啜っている。この人と片付けなければいけないものもあるのでさっさと朝食を済ませて向かってしまおう。
嫌な任務は早々に終わらせるに限る。