Ⅴ
この一ヶ月ほど、あれからずっと肌身離さず卵を温めてきた。卵に話しかけ、優しく撫で、愛情が届けばいいなと思い。常に近くに寄り添い過ごしてきた。
ここ数日、淡い光が卵を覆っていて、少し卵が脈を打っている気がする。生まれるのが近いのかもしれない。
「お母さん、また脈打ったよ!」
「あらあら、間隔も短くなってきたしもうそろそろ生まれるのかもね」
完治したわけではないそうだが、お母さんの調子が良く元気な日が続いていて、一緒にこの卵のお母さんになってお世話をしてきたのでこの一ヶ月が楽しくて楽しくて仕方がなかった。
もうそろそろ、会えるのだ。楽しみ
「何が、生まれるんだろうね」
「それだけ、大きな卵だと何が生まれるのかしらね、もしかしたら熊かもしれないわよ」
お母さんが楽しそうに答える。
「もっと、可愛いのがいいな。例えば鷹とか。」
「可愛い…かしら? ご飯食べるよ手を洗いなさい。」
「はーい」
卵を軽く指で突きながら
「名前を考えないとね。 楽しみだよ」
楽しみで顔が緩んでしまう。
その時、卵が纏っていた光が透明な赤色に強く光り、卵にヒビが入る。
ヒビが大きくなるにつれて、光が強くなる。
卵から殻の割れた大きな音がするのと同時に、
赤い光で部屋が埋め尽くされる。
肌がビリビリとし、背中に力を感じる。
あまりにも綺麗な光景に言葉を失う。
「何があったの!?」
お母さんだ
「トカゲ…」
「トカゲ?」
「羽が生えてる」
何が何だかわからず、とりあえず口を動かした。
お母さんが私の顔の横から卵のあった位置を覗き込む。
声を呑む音が聞こえた。
そしてポツリと
「ドラゴン」
熊が卵から生まれないのは知っていますのでツッコミは無しでお願いします。