III
「ごほっ ごほっ」
布団で寝ていたお母さんが苦しそうに咳をしている。
お母さんに近づき背中をさする。
「大丈夫?」
「ごほっ えぇ… チス、水と薬をお願い」
また、苦しそうに咳をする。
「少し待ってて」
台所に薬を取りに行く
「はい お母さん」
「ありがとう… もうお薬がなくなりそうね…」
その声は少し暗かった
「買ってくるよ?」
「お願いしてもいい?」
頼ってもらえたことが嬉しくて大きな声で返事をする
「うん 卵温めてもらってもいい?」
「えぇ 任せて」
そう言って、お母さんは毛布でくるまれた卵を自分のそばに置く。
「その卵ね、抱きしめてあげると喜ぶんだ。
だから、抱いてあげて。」
「そうなの? わかったわ」
そう言い、お母さんは卵を太ももの上に乗せ優しく抱きしめる。
「暖かいわね、落ち着くわ」
「でしょ、待っててね直ぐに戻るから」
お母さんと卵を見て安心したので家から出る。
家から通りを何本か抜けた先にこの街で一番大きな商店がある。
この公爵領で一番大きな、レスト商会の支部だ。
歩きながらお母さんのことを考えてしまう。
最近、あまり調子が良くなく咳をすることが増えてしまった。
母の病気は、よくわからないがとても重いものらしく、薬では治すことできず、ただ、病気の進みを抑えるだけらしい。聖術と言われる治癒の能力を使えば治ると言われたが、一般の人が手に届くものでもなく、まして生活ギリギリの私の家では、不可能なことはなんとなくわかる。
元気なお母さんの姿を見たい、でも何枚も金貨が必要。
お母さんが1日お店のお手伝いをしても銅貨が5枚もらえるだけ、それでご飯を買うとほとんどなくなってしまう。貯金なんて少ししかできない。それに薬を買うと直ぐになくなってしまう。何より最近、お母さんは体調が悪くてそれどころではない。
後ろ向きな考えを振り払うように頭をふる
「私が暗くなっちゃダメ、私も一人前の大人になるの、ちゃんとあの子を育てられるような。薬草を見つけるのも上手くなってきたのよ。」
「チス」
声をかけられて視線を上げる。
「薬屋のおじいちゃん」
「ぼーっとしてどうしたんだい、危ないぞ」
「ごめんなさい…少し考え事をしてて」
「そうか、いつでもここを尋ねるといい話を聞くぞ」
「ありがとう、また薬草取ってくるね」
「無理せずにな、森は危ないから浅い場所だけにするんだぞ。」
「ありがと、たくさん持ってくるから!」
そうおじいちゃんに言ってから駆け足で商店に向かう。
商店のおじちゃんに声をかける。
「あの薬をお願いします」
「銅貨20枚だよ」
お金を渡すとおじちゃんが薬の入った布の入れ物をくれる
「ありがとう」
「お母さん、調子悪いのか?」
「最近少し…」
「これ、りんごだたまたま手に入ったんだ食べてくれ」
そう言っておじちゃんが赤色の木の実を渡してくれた。
すごい嬉しくて頭を下げる。
「ありがとう!」
「気にしなくていい、お大事にな」
そう、おじちゃんは優しく微笑みかけてくれた。
赤色の美味しそうな木の実がもらえて嬉しくて、足取りが軽くスキップのようになる。はやく帰ってお母さんに食べてもらいたい。栄養がついて元気になってもらえるかも。そう思うと足取りはどんどんはやくなる。
家まで後半分というところで後ろから声をかけられる。
「おい、貧乏女」
気が滅入る…聞きたくない声が聞こえる
「おい、無視すんなよ、貧乏女」
レスト商会の次男だ