II
動物たちに案内され森を抜け出した。
木々から抜け出したところで動物たちは足を止める、まるで見送りはここまでだと言うように。少女は振り返り少し寂しそうな顔をした後、
「ありがとう」
そう言いながら、動物たちに頭を下げた。
動物たちはどういたしましてというかのように鳴き声をあげ森の中に帰っていく。
卵を大切に抱え自分の家まで泥だらけのまま少女は歩いた、
今にも壊れてしまいそうな古い木の家に着いた少女は、お母さんを起こしてしまわないようにゆっくりと歩く。森の中で傷つき汚れた足なんて気にもせず、お母さんが寝ている布団の横で、彼女の分の毛布をかき集め卵を温めるために巻きつける、優しい表情を浮かべた彼女は満足するかのように毛布の上から卵を大切そうに抱いてそのまま寝てしまった。
次の日の朝、お母さんが悲鳴をあげてしまうのは仕方のないことであろう。
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お腹のあたりから安心する暖かさを感じる、あまりに気持ちよくて抱く力を強める、暖かさがより感じられてすごい安心する。
「ねぇ、チス」
お母さんの声が聞こえる。
「ねぇ 起きて」
まだ、眠くて仕方がないが、なんとか目を開けてお母さんの顔を見る、すごい心配している顔だ。
「どうしたの」
「チス、あなたその足はどうしたの 大丈夫痛くない
それに、その卵はどうしたの」
お母さんに言われ自分の足を見て見ると酷い状態だった、無数の細かい切り傷からの血と泥で痛々しい。それでもお腹に感じる暖かさを感じると酷くどうでもいいことに思えた。ぎゅっと抱きしめる。
「声が聞こえたの」
「声?」
「森の中から、声が聞こえたの、そしたら卵を見つけたの」
お母さんの手が私の頭を優しく撫でる。
「森は危険なのよ、気をつけて。
足を洗いましょう、擦り傷に塗るお薬が残っていたはずだわ」
お母さんが歩き始めた、その後ろ姿を見た後、抱きかかえている卵を見る。お母さんの毛布も使って卵を丁寧に包み込む。包み込まれた卵を見て満足しお母さんの後を追いかける。
「うん、でもね動物たちが道案内をしてくれたんだ。だから、怖くなかったよ」
お風呂場の椅子に座り足をばたつかせながらお母さんに話しかける。
「そうなの、それはすごいわね。動物たちに感謝はした? それにあの卵はなんの卵なのかしらね あんなに大きな卵は見たことないわ。」
そう言いながら薬を持ってきてくれたお母さんが前に座る
「したよ!ありがとうって。なんの卵かはわからない、でもね鳴き声が聞こえたの。すごく寂しくてお母さんを探しているような。だから、私がお母さんになってあげるの!」
そう言って私は胸を張る。
そうすると、すごい真剣な表情をしたお母さんが私の目をしっかりと見つめていた。
「お母さんになるっていうのは、すごい大変なことなの。途中でやめたりすることはできないのよ。最後までしっかりと責任を持たないといけないの。チスには覚悟がある?」
それは、今までに見たこともないほどに真剣な表情のお母さんで、これは適当に返事をしてはいけないんだとなんとなく感じた。
お母さんの顔を見つめ目をしっかり見ながら答える。
「あります、最後までちゃんと面倒見ます。」
お母さんがすごい優しい顔になる、私の大好きなお母さんの顔だ。
頭を優しく撫でてくれる。気持ちがいい。
「覚悟を持てたなら、チスならできるわ、あなたはしっかり者で優しい子だから。私もお手伝いするから心配しないでね。」
「うん」
嬉しくて大きな声を出してしまう。
「お母さんになる、強いチフは傷を水で流して薬を塗る痛みにもしっかり耐えられるわよね?」
いたずらをする男の子のような表情を浮かべたお母さんだ。
「う…うん」
思わず目をそらしてしまう。痛いものは痛いのだ、傷薬はものすごくしみる。
とても痛かった
でも、部屋に戻り卵を見るとどうでもよくなった。抱きしめると安心する暖かさを感じられる。
「あなたは、なんの卵なの」
足をばたつかせ、指先で卵をつつく。
「こんな、大きさの卵なんて見たことないわ。熊かしら?」
そもそも熊は卵から生まれるのだろうか?わからない。
「どんな姿なんだろ…楽しみ」
そう卵に微笑みかけると、鳴き声が聞こえた気がした。