I
「声が…」
皆が寝静まった夜の遅い時間
少女は今にも途切れそうな声を確かに聞き、起き上がる。
それは、誰かを求めるような、寂しく悲しい声
心優しい少女は思わず、家を飛び出てしまう。
そして、声のする森の中へと…
夜の森、暗く、少し前も見通すことのできない中、少女は声だけを頼りに前に歩き続ける。靴も履かずに出てきた少女の小さく可愛らしい足には無数の切り傷ができる。しかし、少女はそれらを気にもせず歩く。
鳴き声だ ー 母を探すような細く寂しさに満ちた鳴き声だ。
鳴き声が近づく…もうすぐ
近くに鳴き声が一層近づいた時、木々の隙間からで短い草が生える少しひらけた広場を見つける。ほのかな光が広場を満たしていた。広場の周囲を見渡すと動物たちが広場を囲うようにたち中心を見つめ続けていた。
ーここだ、私を呼んでいるのはこの真ん中にあるものだー
少女は広場に足を踏み入れる。
綺麗な卵
広場の中心にあったのは卵だった、ほのかな光をまとった大きな卵
「綺麗...」
少女は卵を見てそう呟く
そして、思わず触れてしまう。
その瞬間、とても眩しい光が広場を満たす。
綺麗な透明度の高い赤色の光だった。
背中に少し焼けるような痛みを感じるのと同時に、手から安心したような暖かい気持ちが伝わってくる。光が収まり卵の周りをほのかに照らす程度になった時。少女は決意する。
私が育てよう
それは、自然と芽生えた感情だった。
少女の家はお世辞にも豊かであるとは言えない。父はおらず、母は体が弱く寝てばかりのことが多く、これ以上の家族を養える余裕なんてものは存在しない。それは、小さな彼女でもなんとなく理解していた。それでも、しなくてはならない、私がこの子を育てなければいけない。強い使命感に燃えていた。
広場の周りにいた動物たちが少女の元に近寄ってくる。
少女は少し怯えるが、動物たちを見て敵意がないことに気がつく。
動物たちは少女に近づくと、守るように少女に寄り添う。
「守ってくれるの?」
そう問いかけると、隣に立っていた鹿が少女の顔を舐める、まるで肯定するかのように。
そうして彼女は森を抜ける