状況説明
プロローグの冒頭を変えたので、そちらも見ていただけると幸いです。
「ようこそ来てくださいました勇者様方。私たちの国を魔王の手からお救いください。」
目の前の美少女にそう言われて、僕は内心「やっぱり…」と思った。だって不思議な現象、知らない場所、知らない人、そしてさっきのセリフときたら、もう認めるしかないでしょう。これは完全に異世界転移ですね。
クラスメイトのみんなは突然の出来事に驚き、状況を理解できていない人が大半のようだ。
僕は漫画やラノベが好きでよく読んでいたので、意外とすんなり事を受け入れられ、冷静に周囲を観察していた。
まず、目の前の彼女。うん、美少女だ。光を反射して眩いほどの光を放つ金髪に、肌は白磁のように白く、瞳は吸い込まれそうなほど澄んだ水色だ。ゆったりとした真っ白なドレスに身を包みながらも、その胸は自己の存在を強く主張するように大きくせり出している。
そしてその傍らには、白銀の鎧を身につけた屈強な騎士たちが5人程いる。どの人も険しい表情を浮かべており、お固そうなイメージだ。
それにこの場所。パッと見神殿のようなつくりになっていて、どこも白一色で汚れ一つ見当たらない。異常なほど白いこの空間で、僕たちはより際立っているように思える。
と、そんな風に観察していると、それまで黙っていた涼が彼女に話しかけた。
「どうなってるんだこれは?ここはどこだ?俺たちが勇者?魔王って何だ?どういうことか説明してくれ。」
そう言うと彼女は一瞬驚いた表情をしたが、すぐさま元のキリッとした表情に戻った。
「でしたら勇者様方の状況を説明致しますので、ひとまず王城の客間へ案内いたします。」
そう言うと彼女はこの空間に1つしかない扉に向かい、そばにいた騎士たちもそれに続いた。
クラスメイトたちは突然の出来事に戸惑い、ついていくべきかどうか判断しかねていた。
僕はというと、先ほど彼女が驚いた表情をしたのが気になった。言葉が通じたのがおかしかったのか?それとも状況を知らないからか?
なんにせよ、今からの行動で今後の生活が変わってしまうかもしれないので、慎重に考えなくてはならない。
「みんな、とりあえず状況を知ってそうな彼女について行ってみないか?その後のことは、話を聞いてからでも考えればいい。」
涼はそう言うと、率先して先頭に立って彼女の方に歩き出した。不安そうなみんなもそれについていく。
やっぱりこういう時に、彼のもつリーダーシップは心強い。さっきまで不安と恐怖で泣きそうになっていた生徒たちの表情は、彼の言葉で少し和らいだ。
「ねぇ、冬夜くん。私たち、どうなっちゃうのかな。」
扉に向かう途中、香穂が僕に不安な眼差しを向けた。
「んー。今のところ命の危険はないと思うけど、かなり面倒なことに巻き込まれるのはほぼ確定かな。今はあの人たちに従う方がいいと思う。」
そう言うと、香穂は驚いた表情をした。
「冬夜くんは冷静だね。怖くないの?」
「怖くないと言ったら嘘になるけど、それ以上にワクワクするじゃんか。だって異世界転移だぞ?」
「…そうだね。冬夜くんと一緒なら安心だね。」
僕は某万能ネコ型ロボットじゃないと言おうとしたが、その時にはすでに涼たちのところへ行っていた。
扉をぬけすぐにある階段を登っていくと、しばらくして広い部屋に出た。
中央には食堂にあるような長方形の長いテーブルがあり、高級そうな感じがする。
「どうぞお座りください。そしてこれらからこの世界のことと、勇者様方のことをお話し致します。」
話されたことをまとめるとこうだ。
まず、この世界はドキアといい、2つの大きな大陸からなっている。1つは人間族と亜人族と言われる者が住むカドムス大陸、もう1つはカドムス大陸の2分の1ほどの面積の魔人族と言われる者が住むローウル大陸。そしてこの2つの大陸の周囲を海が囲っている。
僕たちが召喚されたこの国はセルバリス王国といい、カドムス大陸にある国で2番目に大きな国だそうだ。周辺には大陸1の大国家ウィリア皇国や人間族の9割が信仰している宗教のソーラ教の総本山、ソーラ法国などがある。
現在まで互いに不干渉の形をとっていた2つの大陸だが、ローウル大陸は魔王と言われる強大な力を持った存在が現れてから、急速に力を溜めているのだそうだ。そこでカドムス大陸を侵略すると危惧したセルバリス王国、ウィリア皇国、ソーラ法国は、古くからの伝承に魔王を討つ者と記されていた勇者をそれぞれの国で召喚した。
「それで、俺たちは元の世界に帰れるんですか?」
一通りの説明を聞いた後、涼がクラスメイトの誰もが気になっている事を聞いた。
「申し訳ありません。現在の状況では、勇者様方を帰還させる方法はありません。」
「そんな…‼︎」
彼女がそう行った瞬間、クラスメイトたちは騒然とした。かく言う僕も、少なからずショックを受けていた。
「…ですが、未だ手付かずの古代の遺跡などは多くあり、そこに失われた魔法があってもおかしくはありません。」
「…なら、俺たちが元の世界に戻れる可能性はあるということですか?」
「はい。しかし、それらの遺跡は中にいる魔物や罠が強力で、踏破するのは非常に困難となっております。」
「なら、俺らがそれをできるほどに強くなればいい。俺らにはその力があるんですよね?」
「はい。勇者様方には魔王とその配下の者を討つための力があると伝承にはあります。」
そう話しているときのクラスメイトたちの表情は大きく分けて2つだった。元の世界に帰るために強くなる決意をした表情の者と、不安や恐怖で押し潰されそうな表情の者。
僕は、自分の体が今までとあまり変わったような感覚がしなかったので、本当に自分にそんな力があるのか疑問に思った。
大方の話が終わると、僕たちはそれぞれの個室へ案内された。もう夜なので、休むようにと言うことだった。
「ところで…何でお前ら僕の部屋にいるんだよ。」
そう、現在僕の部屋には涼、香穂、清純、七海のいつものメンバーが集まっている。
「何でって…やっぱ1人じゃ不安じゃん?」
「そうだとしても何で僕の部屋なんだよ…」
「こういう時は冬夜と一緒にいるのが一番安心するんだよ。」
涼がそう言うと、みんな一様に頷く。
「ハァ…まぁいいんだけどさ。で、これからどうする?」
「うーん…。私は元の世界に帰りたいから、頑張ろうと思うんだけど…。」
香穂はそう言って他のメンバーに視線を移す。
「僕もその意見には賛成ですね。遺跡を攻略しないと帰れないと言うのだから、ひとまずは強くなることが最優先事項だと思います。」
「でも強くなるっていったってどうするんだ?その方法が分からなければどうにもできないだろう。」
清純が眼鏡クイッをしながら話すと、七海が問いかけた。
「それは…」
清純は言葉に詰まり、思案顔になった。
「まあ、その辺は明日にでもなればこの国の人たちが教えてくれるだろう。召喚して放置なんてことはないだろうしな。」
僕がそう言って纏めると、皆納得したような顔をした。
それから色々と話し込み、みんながそれぞれの部屋に戻ると、僕は部屋にあるベットに潜り込んだ。
色々と不安が残るけど、取り敢えず現状はいい感じだと思う。
これから起こる様々なことに思いを馳せながら、僕は深い眠りについた。