プロローグ
薄い光が枝の葉の間から差し込んでいる。
意識は朦朧とし、体はいたるところから鋭い痛みが走り、1ミリたりとも動かせない。
生きている。
だがそれももうすぐ終わるだろう。
胸部からはついさっきアイツに開けられた穴から血がドクドクと流れ出している。
生きたい。
そう願っても、とめどなく血が流れていく。
思い出すのは、自分がこのファンタジー溢れる世界に来た時の事と、この世界で経験した数々の事。
「これが走馬灯ってやつなのかな…」
そう呟いた後、僕は静かに意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
月曜日。この日の朝は辛い。前日までの楽しいひと時を思い出しながら、楽しくない学校に行かなければならないから。
桐原冬夜は眠気を振り払いながら、いつもの朝食のカ○リーメイトを口に放り込み、徒歩10分で着く高校に向かった。
クラスに入ると、もうだいたいの人が登校していた。僕のクラスは特待生クラスで、人数は総勢15人だ。時刻は8時15分。遅刻5分前だ。
「おはよう、冬夜くん。もう、寝癖がついてるよ。…うん。これでよし。」
そう言って彼女、白石香穗は微笑んだ。地毛の茶髪ロングで目がぱっちりしている彼女はうちの高校で一番に可愛いと言われていて、彼女のファンクラブも校内で密かにできている。
今も彼女が微笑んだら、ある男子は心を撃ち抜かれて放心状態になり、またある男子は僕に嫉妬と羨望の眼差しを向けてきた。
朝からそんな視線を一身に浴びる僕は、大変居心地が悪い。
「おはよう、冬夜。お前はいっつも遅刻ギリギリだな。もっと早く来ようぜ?」
彼の名は黄戸涼。髪は黒髪の中に若干茶髪が混じっていて、顔は上の上。イケメンだ。彼はサッカー部のエースであり、やはりモテる。この前、「女の子を傷つけないフリかたってどうするのかなあ。」と、僕に聞いてきた時は柄にもなくぶん殴りたくなったのは僕だけが知る事だ。
「まったくです。5分前行動とは言いますが、冬夜さんに至っては10分前にしてもらわないと心配です。」
黒髪の七三分けに黒縁眼鏡といういかにも真面目という格好の彼は黒井清純。期待を裏切らず、生徒会長をやっている。この学校から目に見えて不良がは減ったのは彼のせいという噂を聞くが、真偽は分からない。というか怖いので触れないようにしている。
「なんなら私と一緒に朝練をするか?汗を流せばその眠たそうな目も覚めるだろう。」
インドア派な僕にとって地獄のような提案をしてくる彼女は赤城七海。黒髪ショートカットで美人な彼女は剣道部の主将で全国クラスの実力を持っている。その容姿と実力も合わさって、彼女をお姉様と慕っている者たちがいるほどだ。
「おはよう、みんな。僕はこれが一番いい生活サイクルなんだよ。」
僕はそう言って、自分の席に着く。毎朝の光景なのだが、それに伴う周りからの視線はいつまで経っても慣れるものじゃない。
彼らは「カラーズ」と呼ばれ、学校で一番人気のグループと言っても過言ではない。そんな彼らとなぜこうも親しげなのか、理由は色々あるが、ざっくりいうと幼馴染みだ。
そして8時20分になり、そろそろ先生が来るところ…その時。教室の中心らへんに宙に浮かぶ虹色の球体が突如として現れた。みんな動揺して壁の近くまで逃げる中、僕はその不審な物体に見惚れていた。「ああ、なんて綺麗なんだろう…」と。
するとその直後、体が宙に浮く感覚がして、その後、急激にその球体に引っ張られていった。目線を移すと、他のクラスメイトも同じような状態だった。そのまま僕たちはその球体に吸い込まれていった…。
しばらくして足が地についた感覚がした僕は、恐る恐る目を開いた。するとそこは見慣れた教室ではなくどこか神殿の様な場所。そして目の前には白い修道服の様なものを着た美少女と、白銀の甲冑を着込んだ騎士達。
これはまさか…
「ようこそ来てくださいました勇者様方。私たちの国を魔王の手からお救いください。」
これはもしかすると…もしかするかもしれない…。ラノベなどをよく読んでいた僕は、そう直感的に感じた。
こうして僕の平凡な日常は、突如として終わりを告げた。