希望の光
ぜんかいのあらすじ~!
いよいよ本番を迎える富野研の面々なのでした。
俺達の明日はどっちだ!?
俺が目覚めた時には、ステージもいよいよ開始という頃。ふと周囲が慌ただしくなったのを機に、目覚めてしまったのだ。
「なぁ、メイ。今何時頃だ?」
「おはようございます、マスター!」
ニッコリとほほえみながらメイ、「今起こそうとしているところでした」と弁明しながら続けた。
「まもなく午前十時半といったところでしょうか。もうすでに皆さん、バックヤードへ移動されてますよ」
「移動する前に起こせよな… あれから衣裳関係のトラブルは起こっていないよな?」
「ハイ、マスターが精魂込めて作った衣裳です。手直しも朝までかかって大変でしたでしょうに、それこそピッタリ! 一部のスキもないほどだと、皆さん喜んでおられましたよ」
「そ… そっか…。ならいいんだ」
「で、司馬さんからお言葉を預かっていいます」
「?」
「この度の見事な職人の技、まっこと見事であった。後は現場に特等席を用意してある。そこで我々の仕事を見守っておいてくれ。きっと後悔はさせない。以上! …だそうです♪」
司馬の口調を一生懸命に真似ながら、メイは言伝を告げた。
そうか、喜んでもらえたか。俺はふぅ…と大きなため息一つこぼすと、「ありがとう」とだけ言った。
「どういたしまして、マスター。必ず勝ってきますね♡」
そう言ってメイはバックヤードへと姿を消していった。
「んじゃ、俺もそろそろ行くとするか」
呟くと、俺は指示された特等席とやらへ移動を開始した。
「ではこのK大祭も、いよいよ大詰めとなってまいりました! そろそろ各団体のパフォーマンスを披露していただくステージを開催いたします! 準備はいいか、野郎ども!」
舞台上で何故か司会として仕切っている西村が気勢を上げる。そこにいた観客たちはどよめき、歓声を上げた!
「今回も皆様の投票で最優秀賞を獲った団体には一つだけ、可能なことであればなんでも聞いてくれるというK大校長から頂いてきた書状を授与! なお、演目は何を演ってもよし。…ルールは特にねェ、ただし卑怯な真似をした奴は永久に軽蔑されるであろう!」
「さっさと始めろ!」
「演説を聞きに来たんじゃねェぞ!」
「議事進行!」
「引っ込め司会!」
「アハハハハ!」
元ネタを知っている方にはお約束の、仕込みと思わしき野次が飛ぶ。そしてあちらこちらで笑いも起きている。うん、順調に舞台は暖められているようだ。コレならイケるか?
「では、エントリーNo.1番。乃木研有志の漫才からだ! がっかりさせんなよ!」
演目は順番通り、滞りなく進んだ。どうやら我が富野研はラストから二番目らしい。観客にはラストの演目が終わってから15分の投票時間が与えられてて、投票形式になっている。その投票用紙には参加全団体の演目が書き込まれ、チェックを入れるだけで投票可能とだという。なかなかこなれた手法だな…。俺は用意された席につきながら、あたりを見渡した。
…なるほど、舞台に遠過ぎもせず近過ぎもせず。ほぼ中央の、ミキサー席前の位置だった。
学園祭という雰囲気も手伝ってか、15分という限られた時間もオーバー気味に、様々な団体の演目全てがウケている。
ふと見ると、俺の斜め前の席でブツブツ言っている男がいた。少なくともハンドルだろうが… その名をTARAOという。
何故名前を知っているかって?
首からぶら下げているんだよ、学園祭実行委員会の名札を。
ひとつひとつの演目全てを批評し、後に伝えていくという記録係の模様だ。ブツブツ言いながらも事細かに、手帳に書き込んでいる。いちいち丸い眼鏡のブリッジを上げ下げするあたり、司馬を思い起こさずにはいられない。思わず俺はクスッと笑った。
「そこ、笑いましたね? ボクのこと笑ったでしょ? いいや、笑った! 間違いない!」
突然TARAOクンは後ろを振り向き、俺を指差して小声で怒鳴ってきた。
「ご、ごめん。これは俺の失態だった。気分を害したのなら謝る。スマン」
「い、いいえ。わかっていただけたならいいのデス。これはボクの性分ですし、与えられた仕事を全うしている真っ最中なのですから」
「へぇ…。なかなか大変そうな仕事だな。ブツブツ言ってたのは、一体…?」
「ハイ、誰も彼も真のエンターテインメントというものを理解していない。それがあまりにも嘆かわしいのデス!」
「真のエンターテインメント、ねぇ…」
そんなもん、素人に求めるなよ。俺はココロの中で叫んだ。
「ハイ、ただ脱げばいい、弄り倒せばいい、だからこそ今のエンターテインメントは廃れてしまったのデス!」
「んなもん、面白けりゃいいだけだろうに。違うのか?」
「ハイ、違いますとも。例えばDVDのレンタル店などをよくごらんなさい、一時期だけのものは早くに処分されてしまい、結局長く並んでいるのは、エンターテインメント性の高いものばかりだ。そう、その場の瞬間が面白いだけではいけないのデス!」
「そうなんだ。大変だなぁ、難しいなぁ(棒読み)…」
「そうなんですよ。これから当大学を志望する若者たちのためにも、質の良いエンターテインメントをこの世に残さねば、との使命感を持ってこの仕事に取り組んでいるのデス!」
「とかなんとか行っている内に、今度は軽音部だ。なかなか洒落てるじゃないか」
俺は洗練されたその演奏を楽しんでいた。
「…ダメですね。彼らには魂というものがない。ただキャーキャー言われたいだけというオーラが滲み出ているッ」
お前、それ全国の軽音部とそのファンの連中を敵に回す発言だぞ。今のうちに撤回しろ? な?
演目は次々と進行していく。このTARAOクンは全くのマイペースで悪口を叩き、メモを取り続けるのだった。
そうだな、演目の幾つか…。
そう、例えばジャズ研の演奏は褒めていた数少ない例だった。てか、単に好き嫌いだけの話じゃないのか?
◇ ◇ ◇ ◇
いよいよ我が富野研有志による演奏の順番がやって来た。
楽器の入れ替え・設置に10分。司馬たちが手際よく楽器を配置していく。
「ははぁ…。キャストを見るに、流行りのガールズバンドですね? これは見る価値なし、と」
「おいおい、それだけかよ? うちのバンドなんだよ。スゲェからちゃんと見てくれよ!?」
「そうだったのですね? でもよくご覧になってみてください。いかに形から入っているバンドかがよく分かる」
「例えば?」
「ギターです。キーボードです。ベースです。それら全てが、あたかも自分はベテランであるとでも主張したいがためのチョイスにしか見えない」
「そういうものなの?」
「ハイ、例えばあの白黒ツートンのフライングV、あれは往年のマイケル・シェンカーのモデルです。それからもうひとつ、漆黒のウルフファング。あれは後年のエディ… いえ、ヴァン・ヘイレンが愛用したモデルですね。それなのに、デス! キーボード! YAMAHAのGX-1! あれは言ってしまえば、ただのエレクトーンなんです。それを愛用していたと言えばただ一人! キース・エマーソンしかいないでしょう。彼は本当に残念な最後を迎えたアーティストの一人でした。この日本にも造詣が深かった。それから、ベースは一見するに、リッケンバッカー4001S。それを愛用する演者は数多い。しかしっ! あれだけ個性的な演者たちを御せる逸材と言えば、変幻自在のメロディの達人、ポール・マッカートニーその人だ。もう一人のキーボードエンジニアはよくわかりません…。ですが、配置されている楽器の古さや配置から鑑みるに、Yesのリック・ウエイクマン…」
「ホント。よくもまぁ…、それだけポンポンと出てくるもんだな? 改めて感心するぜ」
「ただわからないのがドラムスなのです。ツーバスのベテラン演者は数多くいる。この一見バラバラな、ある意味では偏ったメンバーからは想像できない…」
「そんだけイロイロ出てくりゃ、それなりに上手い演者ではないのだろうか? と思うのだが」
「…ハイ、その可能性はあります。しかし、今までガールズバンドでそのような演奏をしてみせた方は観たことがない…」
「おいおい、そりゃただの偏見だぜ。ただ世に出てないだけで、実は… て逸材だってゴマンといるだろうによ」
「でも、ほんの僅かに過ぎません…!」
全く譲ってもらえない。
「それに、数ある名曲を放り出してアニソンですよ? 信じられますか?」
「それも偏見だ。アニソンは、その… 色んなジャンルが織り込まれた、実はものすごいジャンルだって聞いたぜ」
俺はメイの受け売りで対抗してみた。
「…確かに。あのジャンルだけは、何でもありデス。…わかりました。ではちゃんと観てみましょう」
「助かる」
そして、本番の時間を迎えるのだった。
ハイ、いよいよ本番ですね~。
果たして、富野研のステージは成功するのか?
乞うご期待!
…といったところで、お時間となってしまいました。
それでは皆さん、さよなら、さよなら、さよなら~♪




