今がもう誰も
ハイ、ぜんかいのおはなし~!
司馬クン、酒飲み比べに勝って、なんだか妙な約束をしてしまいましたとさ。
おしまい!
◇ ◇ ◇ ◇
「…で、私はアニソンがいいと思うんです」
「それはどうして? みんなが知っている曲であればいいけれど、そうでないなら特定の層にしかウケないんじゃ…」
「そこ! そこですよ、沙耶さん。一見特定の方のみにしかウケないはずのアニソンですが、実は色んな要素が詰まっています。ジャンルも、物語も、何もかも! たとえその作品を知らない方でも、アレンジ次第で追体験ができます。最初から物語を構築しなくて済むんです。おわかりですか?」
「いやぁ、分からないでもないんだけどさぁ…」
とは舞衣姉さん。
「アタシ的にはバリバリのメタルロックを聴かせたいわけなのよ。ましてや、あたしがドラムでしょ? 難しいんじゃ…」
「では、逆に伺います。ジョーイ・ジョディソンとかマイク・ポートノイ、ギャビン・ハリソン…彼らはメタルやロックではないと?」
「…そう言われてしまえば返す言葉もないんだけどさぁ…」
「できますよ、私のデータベースにある舞衣さんの演奏には、その素質が十二分にあります。後は練習あるのみですよ。もともとこの中では一番、リズム感が飛び抜けているんです。不可能なんてことはありません」
「キーボードに関しては、あなたはどのような見解ですの?」
「先ほどご自分で仰っていたじゃないですか。ELPのキース・エマーソンからデビッド・フォスターまででカバーできる、と。全く問題ありません」
「私は? メイ先輩」
「持っていらっしゃるそのギターが何よりの証拠でしょう? 言わせたいんですか?」
「言ってほしいんですよ!」
「くふふ♡ それは観客の方に言ってもらうのが正解でしょうね」
「「私達も問題ない」」
「ハイ、安心しておまかせします」
「あたし、ステージに立ってメインで歌うのは初めてなんだけど…」
「大丈夫です。教育学部一の歌姫と呼ばれたヒトが何言ってるんですか?」
「じゃ、さっきから中断している曲目、教えて。案があるんでしょ?」
沙耶が少し照れたように話を進めてきた。悪い気はしていないようだ。
「Gというアニメ作品の『空色Always』とBGMアレンジ! 持ち時間15分、この一曲で語りきります!」
「G… かぁ、親父に観せてもらったことがあったなぁ。話が無茶苦茶なんだけど、それがカッコよかったんだよなぁ…」
司馬が目を細めながら懐かしそうに振り返っていた。
「ボクも覚えてるよ。萌える以外に『燃える』を教えてくれた作品だった… GならBGMも揃ってたよ」
一成もまた、データベースの披露を始めていた。
「俺は観たことないんだけど、みんなが言うんならそうなんだろうな」
ふと呟き終わるやいなや、ツッコミが入った。『神アニメだから観ろ!』と。
◇ ◇ ◇ ◇
3日後。研究もそっちのけで、舞台構成が着々と進んでいた。
「あのさ、見てほしいんだけど…」
一成が譜面を持ってやってくる。残念ながら、俺にはチンプンカンプンだ。
「ふうん… 思ってたより、大したものね…」
「どういう意味だ、秋帆?」
「ええ、1コーラス・2コーラスまでは普通にボーカルが入るんだけど、間奏部分がちょっとした交響組曲になってるのよ」
「交響組曲?」
「そう。わかりやすく言えば、表題性の強い… この場合だと、作品の流れをモチーフにした、ちゃんとした一本のストーリーが構築されていますの。で、ラストにもう一度サビでサンドイッチにされてて、おしまい。作品を理解しきっている方でないと、これだけの大作は描ききれない…。それもたったの3日で! ホント、大したものですわ…」
「よ、よくわからん…」
俺は思わず苦笑いした。
「それでありながら、ちゃんとソロパートで場面を指定してきてますわ。本当に凄いとしか…」
「えへへへ… そう言われると、やっぱり嬉しいなぁ」
一成もまんざらではないようだ。
「そうなってくるとすると、だ。部隊の構成は一発目でバーン! と印象付けしないとな!」
おい、司馬さんよ。あんたその顔のメイク、一体どうしたんだ? 顔を真っ白に塗って、黒く隈取まで施しちゃって…
「俊樹よォ、不思議そうな顔をしてんな。ははぁ、お前モグリだろ? このジーン・シモンズを知らんとはな!」
司馬は着ているTシャツの後ろのロゴをこれ見よがしに見せつけてくる。
「KISS…? なに、それ?」
「はぁ… これだから若いもんは…。これはその最後まで傾き通したThe Demonのジーン率いる『キッス』ってバンドのメイクアップだ。日本のアーティストたちにも大きな影響を与えた偉大なるバンドなるぞ。ちったぁ思い知れ!」
そう言って司馬は異様なほどに真っ赤に染まった舌を見せつけてきた。
俺は思わず村山に救いを求めた。が、我関せずとも言うようにあっさりと去っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
ギューン!と彩花のEDWARDSフライングVが倉庫内に唸る。そして速弾きのアルペジオ。
…こいつ、こんな特技持ってやがったのか?
「先輩、こんなもんで驚いちゃいけませんよ。今練習中ですが、本番ではもっと凄いものをお見せしますからね」
そう言ってはしゃぎながら弾きまくっているその横で、メイが漆黒のウルフファングでリズムを刻んでいる。
時折彩花と目線を合わせながら、これまたリズムにのってギターのヘッドを大きく振り回している。時には単独で、時には彩花とヘッドを合わせながら。こいつら、こんなに息が合うもんなんだ。俺はただただ感心してみているだけしかなかった。
しばらくすると、YAMAHA GX-1と大きく書かれたキーボードが運び込まれた。
「これ、手に入れるの大変でしたのよ? お金的にも、希少価値的にも」
と言いながら秋帆、頼んでもいない購入までの経緯まで喋り始める。
「最初売ってくださると言ってた方の倉庫にトラクターが突っ込んできまして、壊れてしまって一旦見送りになりましたのよ。でもすぐにイギリスのプロのベーシストの方からお返事をいただきまして、今こうしてココにあるんですの…」
そう言いながら、瞳を閉じてメイや彩花の音のタイミングを計っているようだ。やがて静かな和音とメロディが組み込まれていく。
それが突然、激しいサウンドに切り替わった! 彩花とメイはギターの掛け合いを止め、コード弾きに切り替えて脇に控える。
秋帆の連弾は止まらない!一時は伸びやかに、時には切り詰めたように。その音は生き物のようにうねっていた。
「不純な音は一切必要ありませんわよ!」
秋帆は一言叫ぶと、クラシカルな、でも聞いたことのないサウンドが倉庫内に響き渡った!
しばらくすると、リッケンバッカー4001Sを手にした右京が、各種ハモンド・オルガンやキーボードをようやく積み上げ終えた左京が加わってきた。自由で多彩な両者の掛け合い。これが秋帆の演奏を全く邪魔していないというのだから見事としか言いようがない。これまた長い時間をかけて培った信頼関係なのだろう… と勝手に考えてしまう。
そうこうしている内に、倉庫の奥からドム・ドム・という腹の奥底まで響くバスドラムの音が加わってきた。舞衣姉さんだ。見るとツーバス、4つのタム、4つのシンバルと、なかなか豪華だ。本当にこれだけの太鼓、全部叩けるのか?
「…1・2!」
舞衣姉さんが掛け声を上げた!
同時にメイと彩花も加わる。
…暫くのインストルメンタルの後、沙耶が入ってきた。最初その迫力にたじろいだ様子の沙耶ではあったが、舞衣姉さんとアイコンタクトを取ると、安心したのかその後全員とも瞳を合わせた。
やがて大きく髪を触ると…
「みんな、行くよ!」
そして、『空色Always』のイントロに切り替わった…。
彼女らの演奏を聞きながら、司馬はただただむせび泣いていた。その瞳から流れる涙で、化粧はぐちゃぐちゃ。もー… なんとかしろよ、このヒト。
「イケる… イケるぞ… これは… これは間違いなく本物や…ッ!」
こうしてK大祭その日を迎えるのだった…。
◇ ◇ ◇ ◇
そんな訳で、外伝二話目です。
もともとこういうお話を本編に入れたかったのですが、内容上最高生が必要と判断、外伝として構成し直しました。どーも、ごめんちゃい!
で、この回の肝であるバンドの演奏シーン、いかがでしたか?
少ない能を絞り出して、なんとか構成してみました。
ネタがわかれば、とんでもないドリームバンドだってわかりますよwww
ではでは、そろそろお時間です。
それでは皆様、さよなら、さよなら、さよなら~♪