秋の稲妻
ハイ、本編も終わってないのに、いきなり外伝ですよ?
ボクも何考えてるんでしょうね? けど、書いてて楽しかったからいいや。
そんな訳で、外伝の始まりです。
楽しんでもらえたら、嬉しいなぁ♪
「…と、いう訳で、だ」
俺達が各自パソコンに向かい合っているまさにその時、突然司馬が声を上げた。
「この秋のK大祭では、当富野研が最優秀賞を獲りに行こうと思う!」
「はぁぁぁぁあ!?」
そこにいた全員がが疑問の声を上げた。
「司馬さんよォ、いくらなんでもそういう時じゃないだろう? それに、K大祭まで後2週間を切っちまってる。それで最優秀賞ってのは無理があるんじゃねえのかい?」
村上がもっともな意見を述べた。当然、オレも同意見である。
「大体最優秀賞を狙うったって、俺たちゃ何すりゃいいんだ? 俺にゃ、せいぜいバーベル上げるくらいしか能が無ぇぜ」
野村も困惑した表情を浮かべている。
「ゲームプロデューサーでもいて、シナリオやらグラフィックなりの優秀なスタッフが居るのなら、ゲームのひとつくらいはできるけど… 流石に2週間ではデパックまで辿り着けそうにないよ。考え直したほうが良くない?」
うん、よく言った、一成よ。
「しかしだなぁ、俺達もこの大学でお世話になって以来、ゴミ溜めだの才能の無駄遣いだのと言われている現状をなんとかせねばならん。ここは一発逆転を狙える、また富野研の悪いイメージを払拭するのにいいチャンスだと思うのだが、どうよ?」
司馬は皆の顔色を顧みず、一人で話を進めようとしている。これはまさか…
「…とかなんとか言って、まさかとは思いますが… 他所の研究室と賭けでもしているんじゃないでしょうね?」
俺は素直な意見を、しかも司馬がやらかしそうな案件を言葉にしてみた。
「へ!?」
「いえ、ただ思っただけのことを口にしただけのことです。もしも司馬さんの心の奥にやましい事が無いというのなら、何も動じることなど無いでしょう」
「い… いや、その… だな。そういうことはないぞ。いくらなんでも、賭けの負け分にメイさん達女性陣をよこせとか言われてるとか… そんな事なんて、一切、これっぽっちも…」
「…あるんですね」
沈黙。
そして、あっさりと司馬は陥落した。
「みんな、スマン。実はこういう事があってだな…」
司馬の話を要約すると。つまり、こうである。
以前から司馬をライバル視している院生がいる。これを仮にAとしよう。
このAが何を思ったのか、司馬を誘って飲みに行ったのだ。ライバル視しながらも司馬のことは認めているA、とにかく酒を勧めてくる。また昔の話を絡めてくるのだ。
「お前が例の事件さえ起こさなきゃ今頃はお前も院生の第一線で活躍していたはずなのに」とか、「お前の論文に感銘を受けてから俺はお前を意識し始めたんだ」とか、エトセトラ・エトセトラ。
それに気を良くしてしまった司馬、何を思ったのか高知出身のAの可盃勝負を受けてしまった。
結果を言おう。司馬は可盃による飲み比べに勝利した。Aもまたベロンベロンに酔っていたはずだと主張していた。
しかし、しかしである。問題はここからだ。
飲み比べをした酒場が司馬の下宿からかなり遠く、また手持ちの軍資金も無いときた。仕方なく近くのホテルに泊まることになったのだが、記帳の際に二枚の書類を描いてしまった。サインをしてしまった。
ひとつは確かに宿帳なのだが、もうひとつは… 問題のもうひとつは…
「メイ達女性陣を相手の研究室に特別待遇研究員として迎え入れる」というものだった。
この女性陣とは、既に名前の出ているメイや沙耶・彩花・秋帆・右京・左京・それに加えて舞衣姉さんまで含まれていた。
「なにぃぃぃぃぃいいい!?」
全員の声がハモった。
「…スマン。俺が不甲斐ないばっかりに、酒の勝負に勝って駆け引きに負けちまった…」
「らしくないですわね。あなたも結局は愚鈍なオトコでしかなかったって事かしら」
「辛辣な言葉をありがとよ、秋帆お嬢様」
「全くだ。私がライバルと認めたオトコがこんな不甲斐ないヤツだったとは、腹ただしいばかり!」
「言ってくれるねぇ、右京さんよ。アンタの八卦掌とはいい勝負ができそうなんだが、こういうトコロは弁解のしようもねぇ」
「私、俊樹先輩とは離れたくないですっ!」
「すまねぇ…」
「大体、女性をモノとしか考えてないから、そんな書類にサインしたりなんかするんです!わかってるんですか?」
「沙耶ちゃん。…アンタをモノとして考えたこともねぇが、どこかにそういう気持ちの緩みがあったのかもな」
「ダメですね、完全に呑まれてしまっています。これでは勝てる勝負も勝てません」
「左京さん、全くもってそのとおりだ。返す言葉もねぇ…」
本当にダメだ。これ以上無いくらいに司馬は落ち込んでいる。
「…そこで、なんだ。もしK大祭の展示で最優秀賞を獲ったなら、先の書類は反故にする… ってとこまで譲歩してもらってきた。今の俺にゃ、それが精一杯の抵抗だったんだ…」
顔を伏せながら、司馬。声を絞り出すように続ける。
「頼む、俺のケツを拭かせちまうようで申し訳ないが、どうか手伝ってほしい! どうか話にのってはもらえないか!?」
「…そうだ!」
突然メイが声を上げた。
「あちらが私達の意を汲んでいないというのなら、私達が立ち向かってみませんか? モノ扱いした相手さんに目にものを魅せましょう! オンナの恐ろしさ、とくと味あわせてみるのも面白いと思いますよ?」
「あたしたちだけで?」
沙耶が不思議そうに質問した。
「勿論、男性陣の力はお借りします。でも、それはあくまで裏方で。メインはあくまで私達、なんですよ」
「面白い… ですわね。こういう勝負、決して嫌いではないですわよ」
「では、一体何で勝負をつけるか…だな」
「右京さん、実は私に提案があるんです」
「提案…ですか?」
「ハイ、左京さん。女性だからこそこれ以上ないインパクトのある提案が!」
「メイ先輩、一体何を考えているんですか?」
「くふふ♡ それは今からお話しますね。…その前に、舞衣さんをお呼びしておかないといけません。彼女が到着するまで、暫くの間お楽しみということで」
「メイ、それは俺達にも手伝える事… なのか?」
「ハイ、是非とも手伝っていただかないと、です!」
◇ ◇ ◇ ◇
「…という訳で、きてみたのだが…」
舞衣姉さんは室内に入るなり全員の注目を浴びて、若干の挙動不審に陥っていた。
「一体全体なんだってのよ?」
「実は…カクカクシカジカ…」
舞衣姉さんの瞳が大きく見開かれた。
「そんなことになってたの!?」
「いやはや、まったくもって面目次第もないです…」
すっかり小さくなってしまている司馬。なんだか見ているのも辛くなってくる。
「では全員揃いましたので、そろそろ始めましょうか!」
メイが立ち上がって、宣誓を始めた。
「これから2週間で、私たちはガールズバンドを立ち上げてK大祭のステージを支配します!」
「えええええええええええ!?」
誰もが驚いた。
「ちなみに。書類のほうは先程、運営委員会の方に提出してまいりました」
「お、お前。さっきまで外出していたのって…」
「そうです。こうしておけば、皆さん話にのらざるを得ないでしょう?」
メイはそう言って、また「くふふ…?」と笑う。
「め、メイさん? そんな事を言っても、ここにいるどれだけの人間が楽器なんぞいじれるかわからんのじゃ…?」
司馬はしどろもどろで、それでもなんとか言葉を絞り出す。
「初心者ばかりで、一体どうやって…」
司馬の言葉を受けて、メイが答える。
「あれ… 知りませんでした? 私はアンドロイドなんですよ? どなたのどのようなテクニックでも完コピ可能です。それに彩花さん…。多分ですが、あなたも楽器ができるはず… ですよね?」
「…メイ先輩、…まいったなぁ…。ハイ、高校時代にギターやってました。EDWARDS製白黒ツートンのフライングVが愛機です。それにしても、よく知ってましたね? 私の事、一体どこで耳にしたんですか?」
「何となく。本当になんとなく、ですよ。それから、秋帆さんはキーボードができますよね?」
「…基本クラシックですが、大体はなんとか。少なくとも往年のキース・エマーソンからデビッド・フォスターあたりまではカバーできましてよ」
「右京さんと左京さんもキーボードやベースくらいはできたはず… 違いますか?」
「確かに、秋帆様にピアノを手ほどきしたのは私ですわ」
「…本当はギター弾きなのだがな…」
「ですから、キーボードエンジニアとベースをお願いします」
「「了解」」
「で。問題と思われがちな舞衣さんですが、実は自衛隊時代に音楽隊でドラム叩いていましたよね?」
「な、何故その秘密を…」
「最後に沙耶さんですが、カラオケのトップランカーですよね。お友達から聞き及んでいますよ」
「え… え、えっ…」
俺達は顔を見合わせた。
「イケる…。」
司馬の口角がつり上がった
「イケるぞぉぉぉぉおお! このメンバーで、この俺様のロック魂を伝授できれば絶対、最優秀賞を獲りに行ける!」
「ボクは一応、ピアノできるからね、アレンジとかの手伝いくらいはできると思うよ」
一成が珍しく名乗りを上げた。
「おれにゃ、なんもできねぇ… だから、雑用はなんでも引き受けるぜ!」
「俺もだ。コピーしたいアーティストの情報が欲しけりゃ、いつでも俺に言ってきな!」
野村と村上が次々と名乗りを上げる。俺は----
「正直俺も音楽にはトンチンカンでな。あまり力になれない。でも衣裳くらいならなんだって作ってやれるぜ」
そうなのだ。俺にはこういう特技がある。孤児院時代、喧嘩に明け暮れていた俺は当然服の損傷も激しくて、破ける度に自分で修理していた。それと周囲に舐められないよう、ある程度流行の服は型紙から自分で作っていたという経緯がある。
そう、必要は特技の母なのだ!
こうしてK大祭プロジェクトは発動されたのだった。
ハイ、いきなり学園祭のお話でした。
司馬の意外な一面が見られましたね?
本来はこんな男なんですよ。
そんな訳で、そろそろお時間となりました。
それでは皆様、さよなら、さよなら、さよなら~♪